馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

跛行診断のグレード

2014-11-10 | 学問
今日も神経ブロックの研修会。
跛行診断のひとつの方法として神経ブロックを使う場合には、まず跛行の程度をきちんと観ることが重要になる。
そして、神経ブロックによる跛行の軽減を判断するためには、処置前と処置後の跛行をグレード分けしておく必要がある。
馬の跛行のグレード分けは実にさまざまな方法が用いられている。
しかし、2年前に来日しSue Dyson先生はほとんどのグレード分けには問題がある。と指摘しておられる。
では、どういう方法が良いと言うのか、Dyson先生の文章から紹介していきたい。
この文章はEquine Veterinary Journal (2011) 43(4)379-382 に掲載された。
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Can lameness be graded reliably ?

跛行の信頼性のあるグレード分けができるか?



 跛行診断は技術であり、臨床経験により進歩する技能であり、指導により上達することができる。跛行診断のためには正常な歩様を理解し、さまざまな条件によりどう変わるかを知っている必要がある。跛行の重篤度をグレード分けする目的は、跛行の状態を主観的に表現することであり、そのことで記録ができる。これにより関係者間で意思疎通ができ、局所鎮痛や治療への反応のように、時間が経っても跛行のグレードを比較できる。

 私は、神経ブロックの解釈の仕方を学んでいる人達が白か黒かで、すなわち跛行しているか、あるいはまったく跛行しないかのどちらかだと判断したがることを知っている。もし跛行が続いていれば、跛行に影響するはずの局所鎮痛手技が失敗したと判断しがちである。しかし、直線運動でグレード4(8段階中)の左後跛行が、神経周囲鎮痛処置後にグレード1に変わったら、主要な跛行のはっきりとした重要な改善があったことは明らかで、それゆえに鎮痛への陽性反応である。

 問題は、広く認められた跛行のグレード分けがないことにある。そのグレード分けは、容易に判断でき、観察者によりすぐに繰り返すことができ、観察者の間で再現することができ、臨床で遭遇する多様な跛行に適応できるものでなければならない。ある馬は持続的に容易にわかる跛行を直線運動で見せるかもしれないが、別の馬は騎乗してある運動をさせたときにだけ異常な歩様を見せるかもしれないし(再現させうることもそうでないこともある)、さらに別な馬は左右非対称な動きを見せず、しかし、それは左右対称に両肢が跛行しているからであって、歩様は正常ではないのかもしれない。

 跛行の数量化のための歩様解析の総括では、球節の伸展の数量化と併せて、項、寛結節、仙結節の動きが鍵になる主要点として注目されている(Keegan 2010)。運動力学的な歩様解析は人の目よりはるかに感受性がある可能性を秘めている。しかし、現在の日々において私たちはまだ個々の臨床的観察に頼っている。



現在用いられているグレード分け基準



表1:AAEPグレード基準(Anon 1999)                    

グレード1の跛行は、観察することは難しく、条件(荷重、円運動、傾き、硬い路面)によらず持続的には認められない。

グレード2の跛行は、直線運動での常歩や速歩では観察することは難しいが、ある条件下(荷重、円運動、傾き、硬い路面)では持続的に認められる。

グレード3の跛行は、どのような条件でも速歩では持続的に観察される。

グレード4の跛行は、明らかな点頭運動、ひっかかり、歩幅の短縮があって顕著である。

グレード5の跛行は、動きや静止中に体重負荷がわずかであるか、動けないことに特徴づけられる。                                 

 

 ただひとつの「公式」基準は、アメリカ馬臨床獣医師会(AAEP)のものであり(Anon 1999)、それは5段階を用いている(表1)。AAEPスケール(1-5)は、常歩と速歩、あるいは異なった条件、たとえば、直線運動と円運動での跛行をそれぞれにグレード分けすることはできない。私の経験では、跛行は常歩でかなりひどく、しかし速歩では軽度か、あるいは明らかではないことがある。そして、その逆もありうる。私はこれら2つの条件をそれぞれ別に表現する必要がある。同様に、馬は直線運動では持続的に跛行を見せるが、円運動ではそうではなかったりもする。そして、AAEPスケールではこれはクラス分けできない。さらに、私の経験では、多くの馬は速歩、とても軽い負荷では明らかな跛行を持続的に見せる。AAEPスケールではこれはグレード3の跛行にしなければならないので、跛行馬の大半がグレード3か4とすることになる。これは間違いを引き起こさせる可能性があり、跛行の重篤度を区別するには繊細さに欠けていると私は考える。騎乗時にのみ跛行を見せる馬は跛行がひどくてもAAEPスケールではグレード2になってしまう。ときどきひどい跛行をする馬はAAEPスケールではクラス分けすることがまったくできない。それゆえに私はAAEPスケールは使えないと思う。

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多くの跛行グレード分けは、常歩より速歩、直線運動より円運動で跛行が悪くなることをもとに、運動の種類によって程度分けをしようとしている。それでは速歩より常歩ではっきりする跛行や、騎乗したときだけひどくなる跛行では混乱してしまう。
また、多くの跛行がグレード3か4になってしまう。
この、世界中で現在もっともよく用いられているAAEPgradeもそうなので、Dyson先生は「使えない」と指摘している。
さて、では他の跛行グレード分けはどうか?
(つづく)
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「蜃気楼」鈴木徹
治すこともできず、生前診断もできず、剖検でどうしようもなかったことだけを思い知った。
そんな馬医者の心象風景に似ているかもしれない・・・・    




2 コメント

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>piebaldさん (hig)
2014-11-11 06:01:05
泣くわけじゃないし、仕事する気になれないほどじゃないけど、積極的になれないし、夜眠れない。8段階のグレード5ですかね;涙。
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Unknown (piebald)
2014-11-10 19:42:15
その時の心象のグレードは、やはり「5」ですか?
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