馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

完治しない胃潰瘍、そして肝障害

2023-04-11 | 馬内科学

その馬は、競馬場から不調で帰ってきた。

食べると軽度の疝痛を繰り返す。

絶食して来院してもらって、胃内視鏡検査をして、胃潰瘍を診断した。

PPI ;Proton Pump Inhibitor 治療をしてもらった。

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しかし、ガストロガード(オメプラール製剤;代表的PPI)をやめると症状がぶり返し、

ガストロガードをやっていても疝痛を示すことがあった。

半年のうちに何度か来院を繰り返した。

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血液検査で、肝臓由来の酵素が上昇していることにも気付いていた。

超音波で肝臓を観ようとしたが、肺に邪魔されて十分には観察できなかった。

しかし、肝内胆管の拡張があった。

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半年を過ぎて、最後の来院では私が診たのだが、「もうあきらめた方がいいです」と最終宣告した。

おそらく十二指腸に狭窄か通過障害があり、そのことで慢性の胃潰瘍を起こす。

胆管開口部もダメージを受け、そのことで胆汁の排泄に問題があり、肝臓にも問題が起こっている。

なんとか生きては居るが、高い薬を続けなければならず、自由に食べるわけにもいかない。

それだけ治療と管理を続けても、痩せていて、繁殖供用もできないだろう。

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別な牧場に移されて、死亡した。

やはり十二指腸にはひきつれたような狭窄があった。

胆管開口部よりは反吻側。

胃もふつうの形をしていなかった。

ヒダ状縁と呼ばれる最も胃潰瘍ができやすくひどくなりやすい部分でくびれている。

無腺部側は萎縮気味。

そのことで、ひょうたん型をしている。

十二指腸球部と呼ばれる部分は拡張していた。

そして、その反吻側にも二つ目の拡張部があった。

その反吻側で狭窄しているからだ。

胃炎と胃潰瘍はひどい。

胆管はひどく拡張していて、内膜は粗造だった。

胆管内には多数の胆石ができていた。

胆汁が排泄できず、胆管から逆流性に感染を受け、そのことで胆石ができたのだろう。

ひどい胆石症は以前にも長期経過を診たことがある。

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現役競走馬の多くは胃潰瘍を持っている。

子馬とちがって徴候を見せることが少なく、特に治療をされないことも多いようだ。

しかし、十二指腸にも潰瘍ができると、それが狭窄の原因になってしまう。

ストレスフルな調教生活からときどき開放してやるとか、

馬本来の自然な飼養管理に近づけてやるとかが必要な馬も居るのかもしれない。

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林の中で、シラカバの風倒木がかかり樹になっていたので、チェーンソーで切って、引っ張り倒した。

使った牽引ロープは、これ。

スラックライン

難産の牽引にも・・・・・使えないか;笑

 

 

 

 

 



6 コメント

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Unknown (はとぽけ)
2023-04-11 06:28:32
先天的な器質異常でしょか?
 こんな体調でも、競走馬としてしか生きることができなかったのはなんともせつない。
 馬の胃がんってどうなんだろ?
 馬の胃潰瘍ではピロリ除菌は有意差なしでしたが、最近何かしらデータを集積して世に出した人はいるのでしょか?
 競走馬生活に向き不向きはあるでしょうけれど、管理次第で活躍に差が出るのはどの競技もいっしょなのかな?

 ありえないタラレバですが、馬を預けるなら、結果を出しているところはもちろんだけど、胃潰瘍の馬がいるかどうかも考えたほうがいいかな?
 などど思いつつ記事を読んだ朝。
 林業で活躍する馬もいますよ。その馬、助産への転用は不可だと思います。
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>はとぽっけさん (hig)
2023-04-11 17:41:29
先天性障害でもなく、子馬の胃十二指腸潰瘍の後遺症でもないと思います。それでしたら、立派な馬体になって競走馬デビューにも問題があったでしょうから。ですので、競走馬になってからの傷害だと考えています。

競走馬には胃潰瘍が多く、調教・競走のストレスや特殊な飼養管理が要因であること、放牧に出されると自然に治ることがすでに報告されています。ヘリコバクターの関与も今のところ否定されています。ただ、十二指腸潰瘍までできるのか?何かあったのではないか?わかりません。

スラックラインにはラチェットと呼ばれる牽引装置が必須で、それで引っ張りましたよ、という話でした。
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Unknown (zebra)
2023-04-12 07:05:02
ピロリ除菌の際十二指腸にも糜爛あっけど、と言われましたが、馬の内視鏡でも結構診ているのですか。

無腺部の潰瘍と原因は近いもので、胆汁の中和が不足で胃酸にやられがちだったのではないでしょうか。

白樺って大雪にもめげず撓って粘っての印象なので倒れるんだなーと思いましたよ。
一本逝くと結構な燃料になるのではないでしょうか。
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>zebraさん (hig)
2023-04-13 04:37:20
内視鏡を幽門を通過させて十二指腸を観るのはとても難しいです。

この症例馬は、狭窄部位が胆管開口部より反吻側だったので、胆汁が胃へ逆流しがちだったのかもしれません。
胆石症が先だった、という可能性もありますが・・・胆石症では十二指腸潰瘍が起こりやすいということはないようですので、やはり十二指腸潰瘍→十二指腸狭窄→胆管感染→胆石症、と考えるのが自然でしょう。
think horse, not zebra です;笑

シラカバは柔らかくて腐りやすく、折れやすいようです。曲がりやすくもあるんですけどね。
根元直径40cm高さ10mのシラカバで真冬の1週間の燃料ですかね。
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Unknown (zebra)
2023-04-16 06:23:57
カプセル内視鏡とかありましたが、どうなっているのでしょうね。

最初の十二指腸潰瘍の原因ですよね。
胆汁だけ先に流れて胃液が残りがちだった、とかないですかね。

40㎝径なんて40㎝刻んだら30㎏超えますよね。
腕力で如何こうしたくない笑
14インチバー挟まるだけでヒィヒィ言っているレベルですから。
一週間でなくなるなら毎年20本は捌かないとならないですよね。
獲ったどー。なんて燥いでられないですね。
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>zebraさん (hig)
2023-04-16 18:21:13
カプセル内視鏡は一時話題になりましたが、ヒトでも話を聞きませんね。使い捨てなのが問題なのでしょうか。

やはり十二指腸潰瘍でしょうね。狭窄するほどひどくなるなんて・・・と思います。

シラカバは軽いので20kgほどでしょうか。最近は無理しないで重いものを背負わないようにしています。薪割は成果が目で見えますから。楽しいですよ。
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