馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子馬の細菌性心嚢炎 成書から

2022-05-02 | 馬内科学

心嚢炎について、教科書にはなんと書いてあるか・・・

Equine Internal Medicine 3rd ed. 

PERICARDIAL DISEASE

英語では”心膜の病気”ということになる。

「心嚢」という心臓を包む袋、という日本語の概念と、

心臓表面の膜、それは袋状になってるけどね、という英語での概念と表現はずれている。

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心膜の疾患はまれに起こる、そして通常は心嚢液の増量と線維素性心嚢炎を引き起こす。

 心嚢炎と心嚢液の増量は特発性、細菌性、ウィルス性、真菌性、あるいは外傷性に起因するか、あるいは心臓や心膜の新生物に関連している。

中皮腫とリンパ肉腫が、馬の心膜を侵すもっとも多い新生物である。

心嚢ヘルニアが認められることがあるが、まれである。

すべての心嚢炎症例が感染性ではない、しかし他の原因が証明されるまでは感染性の原因が推定される。

Streptococcus spp. が最も頻繁に心膜炎で報告されている。

しかし、Actinobacillus equi, Pseudomonas aeruginosa, Pasteurella spp., Corynebacterium spp., Mycoplasma spp., そして他の微生物が分離されている。

馬インフルエンザと馬ウィルス性動脈炎が線維素性心嚢炎(流産に伴って)に関与した報告もある。

無菌性の炎症と好酸球性の滲出液が認められた報告もある。

ケンタッキーを中心とする心嚢炎の発生は毛虫が媒介することによるものだとされた。

しかし、剖検例と臨床例から主に分離されたのはActinobacillus spp. であった。

外力による胸部外傷や胃の異物による穿孔が心嚢の細菌感染につながることがある。

非感染性の心嚢炎の病因は不明だが、特定の状態では免疫介在性かもしれない。

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以上が、疫学的、病因学的、ないしは既報についての記載。

診断するコツは、

心音のくぐもり、あるいは遠さ、に気づくことと、

超音波で心臓も観てみること、

だと思う。

ただ、牛での金属性異物による創傷性心嚢炎を除けば、大動物臨床獣医師が心嚢炎に遭遇することはとてもまれだ。

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Not all cases of pericarditis are septic, but an infectious cause should be assumed untill proven otherwise.

心嚢炎のすべての症例が感染性とは言えないが、他の原因が証明されるまでは感染によると考えるべきだ。

これは子馬の跛行や関節の腫脹、あるいは元気食欲不振、さまざまな病態や症状でも言えることではないか。

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Golden Weekの日曜日。

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

続いて、後ろ肢の球節がゆるくて、蹄球を傷めて、蹄感染した当歳馬の跛行。

自潰したが良くならない・・・・蹄骨も骨髄炎を起こしていて諦めるしかなかった。

蹄関節も腱鞘も感染していて、そのうち脱蹄しただろう。

新生子馬の蹄感染を様子見してはいけない。

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午後、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

当歳馬の飛節の滑液増量。OCDもある。

関節液の白血球数は多くなかった。

1歳馬の跛行診断。

もう3週間になるが、良くならない。

蹄に熱があり、よく見ると蹄関節が腫れている。

押すと痛い。

an infectious cause should be assumed untill proven otherwise.

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近所の山に

コブシは咲いているけど

相棒がいなくなって

散歩に行く気もなくなった

そんなことではいけないと

思いつつ

 

 

 



8 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2022-05-02 06:12:29
 全例に超音波を実施する必要はないのかもしれませんが、呼吸器を疑って聴診で心音異常があれば、確定のためには必要な検査なのでしょね。
 まれではあっても、より重篤な疾患を先に否定する。そこで確定となることもあるかもしれませんし、大事なことかと。
 そして、早い対処が大事なことにもかわりないわけで。
 そして忙しくなる。助けちゃうし。
 
 オラ君、ダニ注意報な季節の画像、いいねぇ。hig先生がそんなこと言ってますが、悪いことではないでしょ?そういうものですよね、オラ君。
 これから外の空気が心地よい季節。気が向いたら散歩にでも。オラ君が居たからいけなかった場所ってありますか?
 雨もありそうな気温の低いGWとなりそうですが、新しいトレッキングシューズが思った以上に相性がよくお出かけうれしい。
今朝は
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>はとぽっけさん (hig)
2022-05-03 04:39:45
今は往診に回る獣医さんも超音波診断装置を持ち歩いてるので、当てて診れば良いのだと思います。

一緒にジョギングするには、匂い嗅ぎが忙しかったです。相棒が居なくなってジョガーに戻れば良いのですが、息が続かなくなってしまいました。
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Unknown (zebra)
2022-05-03 07:39:11
免疫介在ですか。なるほどですね。
症例も組織アミロイドは見てみるべきかも知れないですね。
細菌が分離できず、アミロイドがあれば非感染性となるのか。
感染介在性というパターンもあるかも知れませんね?

引っ張られて運動が揺らぐのも良いのだと思います。
鞍上で揺すられるようなものではないでしょうか。
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>zebraさん (hig)
2022-05-03 10:36:17
免疫介在性というのもよくわかりませんよね。ひどい感染が起きているときに、感染が起きていない部位にも炎症が起こる、というパターンは経験があります。
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Unknown (zebra)
2022-05-06 05:46:27
たぶん免疫介在といわれるものの先にある組織反応が全身性の感染症により引き起こされるルートがあるのだと思います。
感染の飛び火と早合点して弄ったりするけど治らないというのが関節炎なんかではままあるパターンなのかも知れません。
まず、感染により起きた非感染性の炎症が何であるか、精査するところからなのでしょうね。
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>zebraさん (hig)
2022-05-06 06:43:35
サイトカインストームとか、免疫の暴走、なのかもしれません。
免疫とは”異物”に対する攻撃ですが、攻撃力を持てばそれは暴走する危険もはらんでいます。隣の国に対しても、そして自国民にも。
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Unknown (はとぽっけ)
2022-05-06 20:21:59
 関連ないと思いつつも、川崎病のおべんきょをして、サイトカインストームとマクロファージ活性化症候群について、読んだところだったので、タイムリー。
 インターフェロンは馬に使うこともあるそうですが、サイトカインカクテル点鼻療法というのは馬ではどうでしょ?鼻からでいいのかを含め気になる。
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>はとぽっけさん (hig)
2022-05-08 16:51:39
以前、馬へのインターフェロン投与についてちょっとした実験研究をしたことがあります。投与量に依存せず、スウィッチのように働く、とのことでしたが、強い活性化は得られませんでした。やはり馬用でそれなりの投与量が必要なのではないかと感じました。
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