真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美女妻クラブ ~秘密の癒し~」(2011/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:新耕堅辰・国沢☆実/撮影:佐久間栄一/音楽:因幡智明/助監督:桑島岳大/監督助手:田口敬太/撮影助手:池田直矢・芳野智久/編集:有馬潜/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/出演:灘ジュン・佐々木基子・京野ななか・仁野見青司・森羅万象・寺西徹・村田頼俊・マイト・八納隆弘・三貝豪)。出演者中、ポスターからの消去法で森本正行が本篇クレジットでは仁野見青司に。
 ビーフシチューか、多分専業主婦の沢木亜由美(灘)が夕食の支度をしてゐると、呼鈴が鳴る。ちやらんぽらんな宅配兄ちやん(三貝)から荷物を受け取りがてら、指先が触れた亜由美が“見てしまつた”ところでタイトル・イン。タイトル明け、亜由美が突如襲ひかかつた三貝豪に陵辱されるのは、ある意味勝手に見た亜由美のヴィジョン。平穏な現実に戻り、被せられるモノローグ“私には、ある能力がある”。物理接触した相手の思念を、それが“淫らでおぞましい欲望”であるほどハッキリと見えてしまふ。自覚する厄介な異能力が、亜由美にはあつた。そんな腫物感を迸らせる亜由美の夫は、大幅にイケメンにした国沢実―背格好が似てゐるだけだ―といつた風情の俊哉(仁野見)。不思議なことに、亜由美に俊哉の心は見えず、逆にそのことが、亜由美が俊哉を夫に選んだ決め手となつた。尤も、子供を作るまだ早いでも意見の合はない、亜由美と俊哉とは微妙に擦れ違つてゐた。詰まらない昼メロに食傷する亜由美に、電話越しの声も聞かせぬ友人から電話が入る。リラクゼーション・ルーム「告白」と銘打たれた掲示板を薦められるままに触つてみた亜由美は、当初は出会ひ系かと小馬鹿にしながらも、性愛に悩む男の書き込みに対しそれなりに誠実なレスを返す。ここは些か、幾ら虚構とはいへ無造作な弾みではあるが、兎も角一連の対応が認められた亜由美は、「告白」の正式会員に招かれる。半信半疑で出向いた亜由美を迎へたのは、インテリジェンスを漂はせなくもない絶妙な胡散臭さが絶品の、「告白」を主幹する三嶋慶介(森羅)と、攻撃的に愛想の悪い葉山礼子(佐々木)。話を聞くだけだと迷へる男達のカウンセリングを求められ、当然固辞する亜由美を、不思議なことに俊哉と同じく心の見えない、あるいは見せない三嶋は半ば無理矢理にカウンセリング・ルームへと放り込む。そこに現れたのは、相談者初期装備の仮面に加へ、ダメ人間のアイコンとしてパーカーのフードも被つたいはゆるキモ男(マイト)。自身の容姿に関する劣等感と童貞を拗らせた、マイトの手に触れ閉ざされた心の傷を理解した亜由美は、優しく心と体を開き、二人は深い絶頂に達する。のは、恐らくはマイトも共有するイリュージョン。別室から室内をモニタリングする三嶋は、一見亜由美がマイトの手を取り黙つて座つてゐるだけの室内の様子に、何が起こつてゐるのか理解出来ず困惑する。
 前線を後退させると、グッと田口トモロヲとの近似度を増した寺西徹は、亜由美二人目の相談者。二十五年連れ添つた、つもりの妻に逃げられた男。八納隆弘が三人目、彼女は普通に居るにも関らず、臆病な性に踏み込めない贅沢者。京野ななかは、三嶋に対する金蔓視を爆裂させる女子高生の娘・沙織。少し肥えたやうに見える村田頼俊は、沙織と淫行する古文の村田先生。事に及びながら動詞の活用形を学習するのは、他愛なくも見せて、畳み込めば案外形になる。
 間は五ヶ月とぼちぼち順調なペースでの、触れた相手の心が見えるテレパスをヒロインに据ゑた、決して目新しい機軸でもないとはいへまた妙な風呂敷を拡げてみせて、大丈夫か?と一旦は危惧させる国沢実2011年第二作。主人公の心許ない夫を通過し、依然映画の首が据わらぬ中、百戦錬磨の森羅万象参戦。所々で飛躍の大きな物語を力技で固定しての、「告白」亜由美初陣が何はともあれ素晴らしい。森山茂雄の「肉体婚活 寝てみて味見」(2010/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)での愚直な熱演も記憶に新しい、マイト(=マイト利彦=伊藤太郎=伊藤利)の図式的に傷つき疲れた魂を、聖母をも思はせる灘ジュンが暖かく包み込む、都合よくも狂ほしい股間と胸を直撃するエモーションこそが今作の白眉。矢継ぎ早に、国沢実とは気心も知れてゐるであらう寺西徹が手堅く繋ぎ、八納隆弘は半ば仕方ないものとそこそこのところで諦めて、順に三番手と二番手が裸を見せる。そこまでで、起承転結でいふと承部。自身と無関係に充実する気配を窺はせる妻に不信を抱いた俊哉は、ネット履歴から「告白」を探知。カウンセリングを偽り、亜由美にとつては衝撃の対面を果たす。そこからの、結果的にはある程度容易に予想し得たものものでもあるのか、ともあれ個人的には油断しきつてゐたまさかの超展開には驚かされるのと同時に、勢ひにも飲まれ素直に心洗はれた。ところがところが、そのままおとなしく序破急で畳み込めばいいものを、続く御丁寧にも二本立ての蛇足が猛烈に邪魔だ、蛇を直立させてどうする。一時的には見事に輝かせておいて、最終的には何時も通りの釈然としない落とし処に着地する。国沢実的には逆の意味で鮮やかといへるのかも知れないが、寧ろ佐々木基子と京野ななかの絡みをドラマ内に回収する営みは潔く放棄し、二番手三番手の濡れ場は木に竹を接ぐに止(とど)まらせた上でも、主演女優の華麗な一点突破を図つた方が、より一層純化した美しさと強さとをモノに出来たのではなからうか。といふ素人考へが強い、残された派手なちぐはぐさが激しく惜しい一作である。

 本篇クレジットに際しては仁野見青司なる、正体不明の名義に変換される森本正行ではあるが、そもそも森本正行といふ名前の役者から、サラッと探してみたところで俄には見付からない。


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