真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「緊縛絵師の甘美なる宴」(2014/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:百地優子/撮影・照明:田宮健彦/助監督:高野平/緊縛指導:有末剛/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/ライン・プロデューサー:石川二郎/衣装:佐倉萌/撮影・照明助手:河戸浩一郎/スチール:本田あきら/制作応援:柴田譜靖・山口通平/現像:東映ラボ・テック/制作プロダクション:アウトサイド/出演:小司あん・若林美保・あやなれい・森羅万象・津田篤・橋靖)。
 片足吊られた格好で縛られた小司あん(ex.あん)の艶姿に、森羅万象が絵筆を走らせる。太股に垂れる汁を認めた森羅万象は笑みを浮かべ、改めて小司あんの全身を抜いてタイトル・イン。この期に及ぶにもほどがありつつ、よくよく見てみると実は思ひのほかマスクの甘い森羅万象の色気が女優部もさて措き堪らない。もしかしてこの人若い時分、太つてゐなくて髪もあつた頃には、相当な二枚目であつたのではないか。
 全十巻の画集を刊行中の緊縛絵師・小池満造(森羅)の屋敷に、担当編集・早川(高橋)が詩織(小司)を連れて来る。編集長(全く登場しない)の知人の娘とやらで、両親とも死去したゆゑ天涯孤独の身となつた詩織を、小池家の女中にでも置いて欲しいとのこと。応接間から一転、あやなれいの爆乳が飛び込んで来るインパクトある繋ぎは完璧。小池の書生・伊藤聖斗(津田)は小池のモデル・美香(あやな)と密通してゐるところを、この人も元々はモデルであつた小池の妻・佐代子(若林)に目撃される。小池が妻にも縄をかける夫婦生活に、詩織を噛ませた一夜明け。目の上のタンコブたる師匠に対し姦計を巡らせる伊藤が、迎へに出た筈の美香と懲りずに乳繰り合ひ何時まで経つてもモデルが到着せず仕事にならない中、小池は呼びつけた詩織に言明する「お前を緊縛するぞ」。ど直球極まりないが、森羅万象の正しく森羅万象を統べかねない決定力あれば、どんな台詞も通らうといふものだ。
 東京電撃映画祭と日課のツイッターでの炎上無双のほかは、何故か何の沙汰も聞こえて来ない友松直之の2014年第二作。毎度御馴染み友松節こと、トモマツイズム縮めてマチズムを今回は一切廃し、第一人者の有末剛をも擁した至つて正攻法の緊縛もの。といつて、我が国に於けるサドマゾといふと伝統的に予想され得る、あるいは古い頭が脊髄反射で連想する縄が縛る前から湿つてゐさうなジメジメした精神性は、友松直之のドライな論理にとつては端から遠い。一通りあれやこれや縛るなり吊るなりしたショットが並べられこそすれ、それはあくまで一通りで、緊縛を様式美として追求せんとする気配も然程窺はせない。尤も、あるいは逆に。逆転劇をより鮮烈なものとするギミックに緊縛を配し、摘み取られ陵辱される花と、打ち拉がれ赤子のやうにといへば聞こえもいいが、要は無力に抱(いだ)かれる花。一瞬ネタを割るのが早過ぎるのではないかと早とちりさせられかけた、攻守、乃至は主客が綺麗に、あるいはより苛烈に倒立する復讐譚は女の裸のこともSM趣向も一旦忘れ、素面の劇映画として力強く見応へがある。ところでとなると、そんな詩織を小池の下に遣はせた、そもそも編集長はどういふつもりであつたのよ、だなどと瑣末な疑問は忘れてしまへ。一見安寧に濡れ場を連ねるに終始する風に見せて、何気なく構築した起承転結を軽妙に丸め込む深町章の文字通り妙手とは別の形で、近作だと2013年第二作「尼寺 姦淫姉妹」(主演:緒川凛)にも連なる、物語を劇的に捻じ伏せる幕引き際の豪腕は素直にお見事。尼寺にて最初に披露された、「中年は、キモいか!」、「臭いか!」、「ウザいかーッ!」の中年三原則が再び森羅万象の口から火を噴くのも、対する詩織のアンサーが素敵・渋い・カッコいいといふのは安直で弱いともいへ、一度(ひとたび)の名台詞が十八番に昇華する瞬間に立ち会へたやうで嬉しい。
 ところがとなると厳しいのが、俳優部に開いた大穴。確かに乳は太いものの、場末の商売女の如き風情が清々しく縄に映えない三番手に関しては、オッパイの大きさは百難隠すといふことにして―俺は一体何をいつてゐるのだ―ひとまづ兎も角。何処で拾つて来た馬の骨なのか、橋靖が果てしなく酷い。それもどうかといふ話でしかないのだが、実年齢よりも上と思しき役を振られた結果口跡は行方不明で、濡れ場に際して腰も満足に振れぬのは何をかいはんや。カックカック非人間的に規則正しい腰使ひに、ロボット・ダンスかと思つた、頓珍漢なサイバーパンクかよ。下手に、もとい下手ではない本格の作劇の中にあつて、なほかつ作品世界の中心には量産型娯楽映画界の重鎮・森羅万象がドッカと座るだけに、殊更に役者の違ひが目についた。


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