真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「暴虐白衣 下半身処方箋」(1998『暴行診察室 白衣なぶり』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二[エクセスフイルム]/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:小林康広/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:青山りか・風間今日子・七月もみじ・杉本まこと・竹本泰史・田中あつし・丘尚輝・大林明)。出演者中、丘尚輝と大林明は本篇クレジットのみ。
 城南でも城西でもなく、深夜の南西大学病院。看護婦の松本美香(青山)が入院患者・ハマサキの病室を見回りで訪れると、何故か無人のベッドの上には、ミニーマウスのオルゴールの贈り物が。思はず頬を綻ばせる美香を、目出し帽の丘尚輝が襲ふ。音楽とともにクルクル可愛らしく回るミニーマウスが、状況の急変を反映し俄に回転を猛加速する細やかな演出は、正直新田栄らしからぬ。必死に抵抗しつつベッドの下に、猿轡を噛まされた上縛り上げられたハマサキ(大林)の姿を視認し事態を把握したものの、憐れ助けもなく、どうやら看護婦に対する私怨のある模様の暴行魔に美香は犯される。一年後、心機一転美香は共生病院で働いてゐた。新任の婦人科医・滝沢(杉本)が不自然な医薬品の発注に関して疑問を抱くと、婦長の横山響子(風間)は美香を人払ひする。感動的に自堕落なシークエンスだが響子は診察を乞ふフリをして色仕掛けで誑し込むことを試みるが、滝沢は決然と拒否。響子は癒着兼事実上の愛人関係にもある製薬会社セールスマンの大阪(竹本)と共謀し、私腹を肥やすと同時に病院には損害を与へてゐた。ナースコールに呼ばれ出て行つたまゝ戻らない夜勤の相棒・相原ありさ(七月)を、仕方がないので美香が探しに行つてみたところ、ありさは感動的に御丁寧にも給湯室―何と清々しいクリシェなんだ―にて、医師の三浦(田中)と一戦交えへてゐる真最中であつた。色で駄目なら金だと、響子と大阪の滝沢に対する懐柔工作も失敗に終る一方、不謹慎といふか大胆不敵といふか、今度は霊安室にて三浦と待ち合はせたありさが、再びミニーマウスのオルゴールとともに湧いて出て来たサーファーならぬ丘レイプマンに強姦される事件が起こる。滝沢の名前から大阪が思ひ出した、過去に勤務してゐた病院を入院患者への暴行疑惑で辞めたといふ事実を突きつけられ、響子と大阪を理事会に告発しようとしてゐた滝沢は、一転窮地に立たされる。
 本職は踊り子さんとの、主演の青山りか。首から上は垢抜けなくバタ臭いが、適度な肉付きと弾けさうなアクティブさとを併せ持つ肢体は申し分ない。脇を固めるのも隠れた名女優・七月もみじに、煽情性の重低音をバクチクさせる御存知風間今日子。この時期の新田栄作にしてはまるで奇跡のやうに綺麗に揃つた女優部三本柱に加へ、都合二度火を噴く荒技の中を、病院汚職や青年医師の性的スキャンダルが駆け巡るピンクでミニマムな「白い巨棟」は、物語的にひとまづの充実を見せる。ありさの事件を滝沢に結びつける印象操作に成功し勝利を確信した、大阪と響子は無防備にも病院内で金銭を授受。まんまと美香に目撃されると、慌てるでもなく診察台陵辱ビデオを撮影することにより口を封じようとする。撮影画面の中を、騒ぎの気配に駆けつけた滝沢が二人を撃退し美香を救出するカットのスピード感は、一般映画のモキュメンタリーものでも十二分に通らう。かといつて、新田栄の名前が嘘のやうなサスペンス・ピンクの大傑作なのかといふと、さういふ訳でも別にない。丘尚輝二度目の戦線投入の画期的な都合のよさと、滝沢にかけられた嫌疑の最終的な真偽は開放的にさて措かれたまゝ、響子と大阪の退場で、事件は何時の間にか一件落着。レイプ被害によるPTSDも正しく何処吹く風、滝沢と結ばれ手放しに乱れる美香が、大胆に気をやる騎乗位のショットで実は釈然としない物語を堂々と畳んでしまふエンディングには、疑問も確かに否み難い。ともいへ女の裸が主眼のピンク映画としては、高いテンションを維持した濡れ場で半ば振り逃げてみせる戦法は、ある意味正しいといつていへなくもない。この際些末は気にせず勢ひに任せ、あるいは呑まれてスカッと、もしくはスッカーと小屋を後にするのが吉の一作である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 買ふ妻 奥さ... 欲望の酒場 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。