真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「真昼の切り裂き魔」(昭和59/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:夢野史郎/企画:朝倉大介/撮影:志賀葉一/照明:金沢正夫/編集:酒井正次/助監督:片岡修二・笠井雅裕/照明助手:井上英一/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:織本かおる・麻生うさぎ・青木祐子・池島ゆたか・伊藤清美・中根徹・下元史郎)。出演者中、青木祐子がポスターには青木裕子。二名クレジットされる撮影助手に力尽きる。
 走行中の新幹線から、中根徹がシャッタースピード1/4000秒で連続写真を撮影する。自分で現像までするその中の一枚は、暴漢が女に刃物を振り下ろすと思しき瞬間を捉へてゐた。夜の公園、写真週刊誌『パララックス』編集員の奥村紀子(織本)とフリーキャメラマン―“カメラマン”でなくしてあくまで“キャメラマン”と表記するのは、劇中下元史郎の口跡に従ふ―の梶井(下元)は、如何にして桜の代紋を出し抜いたのか、半裸の伊藤清美が惨殺された現場に到着、凄惨な死体写真を押さへる。ヒット・アンド・アウェイといはんばかりに離脱する車中、四の五の煩い注文に臍を曲げた梶井は、紀子と喧嘩別れる。全篇を貫き煌く、若き下元史郎のギラついた色気が堪らない。懐古主義など趣味ではないつもりだが、かういふ人は、今では俄には見当たらない気がする。帰社した紀子は、梶井の腕を買ふキャップの北橋(池島)から上手くやるやう窘められる。半熟の目玉焼きの黄身、カウンセリングか、「するとその時あなたは、自分が青色の竜だと思ふんですね」とかいふ素頓狂な内容の静かな声に続き、黄身にナイフが突き立てられる。そんなイメージ・ショット噛ませて、梶井と、同棲相手の麻生うさぎの情事。左右にパンするカメラが、柱の影を跨ぐ度に体位が変る繋ぎは、オーソドックスな手法ながらピンクで映画的。三十までには一旗あげると強く心に期する梶井ではあつたが、残り一年しかない旨を、麻生うさぎに何気なく揶揄される。作中最も正攻法の美人である青木祐子は、『パララックス』編集員、兼北橋の彼女でもあるマキコ(苗字は呼称されないため不明)。都合のつかなくなつた北橋に乞はれた紀子と、二人で「地獄の七人」を観に行く、なかなか豪快なデート・ムービーではある。一方、写真雑誌に掲載された1/4000秒写真に注目した梶井は、投稿したアマチュアキャメラマン・辰川瞬(中根)に接触。梶井経由で紀子も辰川に興味を持つが、逆に辰川からストーキングされる中、紀子宅を訪ねた直後のマキコが殺害される事件が起こる。梶井は、麻生うさぎに辰川を尾行させる。
 『パララックス』編集部要員に、他に男二名女一名が見切れる。その中で梶井と遣り取りする若干の台詞も与へられるのは、片岡修二あるいは周知安。オーラスに登場する、今でいふと小雪似のショート・カットは内トラでなく本職の女優部ではないかとも思へたが、クレジットがないゆゑ確認能はず。
 かのm@stervision大哥も、「連続暴姦」(昭和58/脚本:高木功/主演:織本かおる・大杉漣)と共に“サイコサスペンスの2大傑作”と讃へた、兎にも角にも世評の高い一作。尤も、そこで素直にノッて行けない始末に終へぬ臍の曲がりぶりには、我ながら食傷するほかない。功を焦り、終に一線を越える間際の梶井の姿には、強い緊張と激しい興奮とを覚えた。とはいへ、その展開上いふならば八合目辺りが、最も高い地点になつた印象は否めなくもないのではなからうか。敵がサスペンスにつき、服の上から痒いところを掻くやうな物言ひに止(とど)めざるを得ないのは如何せん御容赦頂くとして、出し抜けに飛び出して来た本当に例外的な特異体質にて、事件の謎を解くといふよりはいはば片付けてしまふ遣り口は、如何せんアンフェアな横紙破りにも思へたのだ。牽強付会を爆裂させ、無理から自陣にお門違ひな名作を引き摺り込むならば、リアルタイムで御馴染み関根和美ならずとも、滝田洋二郎にしてすら極めて頭数の限られたピンク映画に於いての、犯人探しには苦しいものがあつたともいへるのではあるまいか。しかもある一名は、その点に関しては殆ど全く有効に機能してはをらず、最も怪しいもう一名は、よくよく考へてみると開巻時点で既に的からは除外されてゐる。繰り返し放られる留守番電話のディスコミュニケーションも、こと凡そ三十年後の感覚からは時代を越え得るまでの鮮度は認め難く、とかく傑作傑作と諸手を挙げ騒ぎたてるほどの強度は、桃色に曇つた節穴を通しては感じられなかつた。

 主眼も疎かに、今作の内容とはウルトラ関係ないディテールに関して恐縮ではあれ、梶井と麻生うさぎの絡みの背景には、広島(東洋カープ)から十ゲーム差をつけられた巨人戦の中継(相手は中日)が流れる。巨人が広島に十ゲームの差をつけてゐるのではない、首位の広島が巨人の十ゲーム前を走つてゐたのだ。隔世の感に慄きつつ改めて調べてみたところ、昭和59年といふと、御歳七十五歳となる今も東京国際大学野球部監督としてユニフォームを着る、名将・古葉竹識の下で広島が四度目のリーグ制覇(巨人は三位で二位が中日)を果たした上、上田利治率ゐる阪急を四勝三敗で破り三度目―にして現時点最後―の日本一に輝いた年であつた。しかも、これは完全に忘れてゐたが、日本シリーズの最高殊勲選手賞は長嶋清幸。日本球界に於いて、初めて背番号0を背負つた男である。ところで長嶋清幸の現在は、ロッテ二軍打撃コーチ。今度は更にロッテ二軍といへば、監督は同じく元広島の高橋慶彦。監督が慶彦で打撃コーチは長嶋(清)、即ち、当時の広島のトンパチ2トップ。何といふか、実にアパッチな野球軍ではある、だから映画の話しろよ間抜け。


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コメント
 
 
 
ロッテ・ファンの俺が来ましたよ。 (キルゴア二等兵)
2012-01-20 01:20:31
今季から慶彦は1軍ヘッドコーチ、長嶋は1軍打撃コーチです。広島での交流戦はなかなか盛り上がりそうです。

>若き下元史郎のギラついた色気が堪らない。かういふ人は、今では俄には見当たるまい。

こないだの田中康文監督の作品での那波隆史を見たとき、80年代の下元史朗みたいにカッコイイなと思いました。
 
 
 
>>ロッテ・ファンの俺が来ましたよ。 (ドロップアウト@管理人)
2012-01-20 07:27:00
 わはは、二等兵殿はロッテのファンであらせられますか。

>今季から慶彦は1軍ヘッドコーチ、長嶋は1軍打撃コーチ

 おお!パは絶対ロッテを大応援します、然し改めてアパッチだ。

>広島での交流戦はなかなか盛り上がりそう

 いやもう正直、交流戦廃止して欲しいです(;´Д`)

>こないだの田中康文監督の作品での那波隆史

 那波隆史はあまり得意ではないのですが、田中康文新作は猛烈に早く観たいところです。
 
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