真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「連続暴姦」(昭和58/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/企画:伊能竜/撮影:佐々木原保志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:桜田繁/録音:銀座サウンド/監督助手:房洲雅一/撮影助手:喜久村徳章・乙女守男/照明助手:柴崎功一・佐野鉄・細山智明/現像:東映化学/協力:上坂橋東映劇場/出演:織本かおる・竹村祐佳・麻生うさぎ・佐々木裕美・螢雪次郎・末次真三郎・伊藤正彦・早川祥一・大杉漣)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。出演者中、伊藤正彦と早川祥一は本篇クレジットのみ。但し2002年版のポスターにはこの二人の名前も載り、螢雪次郎が螢雪次朗。
 反対方向からのロングで捉へられる、林道のトンネルに歩み入る女子高生(佐々木)。後を追ひ、男(伊藤)が遅れてトンネルに入る。気配を察した女子高生は逃げ出すが、男に追ひつかれると森の中で犯される。少女を蹂躙する男の右足太股には、目にも鮮やかな赤い蛇の刺青があつた。といふピンク映画「連続暴姦」を上映中の、上“板”東映。自らが映写中の映画に覗き窓より目をやつた臨時雇ひの映写技師・勝三(大杉)は、そのカットに顔色を変へるとモギリ嬢・波子(麻生)の制止も聞かず、フラフラと帰宅する。心配して部屋を訪れた波子を、勝三は手荒に抱く。勝三の矢張り右足太股には、映画と同じ赤蛇の刺青があつた。ピンク映画配給会社企画部の駿河(末次)を訪ねた勝三は、劇中「連続暴姦」の脚本家が本業はエンター石油に勤務するOL・山崎千代子といふ女であることと、「連続暴姦」の脚本は、実体験を基に書かれたものである旨を聞き出す。エンター石油前で待ち伏せした勝三は、特定した千代子(竹村)を深夜帰宅時に待ち伏せすると強姦し殺害する。だが然し、脚本は実際には千代子が書いてはゐなかつた。千代子とは同性愛の関係にもある同僚の冬子(織本)が、勝手に千代子の名前をペンネームに拝借して書いたものであつたのだ。冬子の姉・秋子(織本かおるの二役)は十二年前、右足太股に赤い蛇の刺青を彫つた男、即ち勝三に犯され殺された。その一部始終を勝三は気付いてゐなかつたが、幼い冬子(子役不明)が目撃してゐた。現場で拾つた手袋が映写技師の商売道具であるのを後に知つた冬子は、姉殺害犯の手掛かりを得る目的で、劇中「連続暴姦」の脚本を執筆したのだつた。
 全篇を貫いて弾ける大杉漣のいつもギラギラし放しの粗暴性も鮮やかに、姉殺しの敵(かたき)を追ふ主人公が、映写技師である筈の犯人をピンク映画の脚本を通して追ひ詰める、といふピンク映画。濡れ場の質量も一欠片たりとて疎かにするでなく、サスペンス映画としての構造も秀逸で正しく見事ではあるのだが、大きくひとつ、その他にも飛躍が目立たぬではない。そもそも、敵(てき)が恐らく映写技師ではあらうとして、ただそれが、必ずしもピンク映画のであるとは限らない。一般映画の小屋に勤める男であつたらどうするつもりだ、などと一々難癖をつけるほどには、小生も無粋ではないつもりである。勝三が、エンター石油社屋前で山崎千代子を探し求める件。「山崎さん」と、千代子が男性同僚に呼び止められ、映画に誘はれる。ものの、駿河とも交際する、つまりバイである冬子に対し、真性ビアンである冬子は手短にあしらつて断る。その様子を目撃した勝三は、千代子に狙ひを定めるのだが、大体“山崎さん ”だけでは、千代子だか花子だか特定出来はしないのではないか。と、いふのも瑣末と片付け得たとしても、一点、通り過ぎられない欠如がなほ残る。冬子―と駿河―が、①映写技師である②駿河の下に劇中「連続暴姦」に関して尋ねに来た③その上で、山崎千代子が殺害された以上三点から、勝三に秋子殺しの目星をつけるところまでは頷ける。ところが他方、一旦は千代子の人違ひ殺害を経た後に、勝三から冬子に辿り着く段取りなり手続きは明確に抜けてはゐまいか。当時第五回ズームアップ映画祭では作品賞と監督賞とを受賞したといふが、個人的にはその点に些かならぬ疑問が残つた。明確に勝三を疑ひつつ、駿河が波子を危険に曝すやうな真似をするのも如何なものか。その後の展開は結果論としても、既にその時点で、少なくとも女が二人死んでゐる。今作の勝三の勢ひでは、生涯に一体何人の女を殺してゐるのか判つたものでもないが。凝つたプロットと、漲る高い緊張度は抜群のものながら、穴も目立たぬでもない今作よりは、同年の滝田洋二郎に限定しても一作前の、「痴漢電車 百恵のお尻」の方が余程完成度は高いのではないかと思へるものである。

 出演者残り螢雪次郎は、上板東映支配人。問題が最後に早川祥一はといふと、これがこれといつた配役が見当たらない。その他劇中に見切れるのは、山崎千代子を映画に誘ふもフラれる男と、日曜の夜四人連れ立つて小屋を後にする上板東映の客に、後のカットで妙にピンで抜かれる一人客。


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