真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「デリヘル嬢 絹肌のうるほひ」(2002/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:森山茂雄/監督助手:林真由美、他一名/撮影助手:長谷川卓也/照明助手:広瀬寛巳/出演:真咲紀子・北条湖都・橋本杏子・本多菊雄・銀治・佐々木共輔・平川ナオヒロ・兵藤未来洋・樹かず・石動三六・河村栞・松島楓・神戸顕一・松木良方、他)。出演者中、ポスターに名前が載るのは樹かずまで。
 仕事帰りのデリヘル嬢・夏夜(真咲)は早朝のドブ川に、自分の死体が浮かんでゐるのを見る。よくよく目を凝らすと、それはマネキンであつた。マンション一室の事務所にて、夏夜の同僚・春海(北条)は男性誌の編集者(河村栞/濡れ場レス)の取材を受ける。大卒の編集者の、無防備な優越意識に春海は臍を曲げる。夏夜は通勤途中、子供を奪ひ合ふ夫婦を目撃する。夫(神戸)が奪ひ取つた赤子を抱き走り去ると、妻(橋本)はハンドバッグから出刃を抜き、血相を変へ追ひ駆ける。社長・ヤタさん(石動)から、乳飲み子を抱へデリヘルの門を叩いた新人を紹介された夏夜は驚く。秋乃と源氏名をつけられた女(橋本杏子の二役)は、出刃を抜き子供を連れ去つた夫を追ひ駆けた女とソックリであつたからだ。夏夜は春海と居酒屋で酒を酌み交はし、風俗仲間の女が死んだ話題になる。互ひに源氏名で通し本名を知らないことが多い為、死亡記事を目にしても気付かないことが多かつた。
 神戸顕一は、開巻の早朝シーンに浮浪者として既に登場。本多菊雄は、頻りに不景気を嘆きながら夏夜を抱く客・服部。徹底したオタ芝居を完全に手中にする銀治は、素人童貞客・木崎。木崎からの電話を受け、ヤタさんは夏夜を向かはせようとしたところに、春海が出勤して来る。金が必要な春海は、夏夜の了解を得て木崎の下へと向かふ。男に騙されては金を巻き上げられてばかりの春海は、又懲りずに新しい男・タカシ(兵藤)に入れ揚げてゐた。又ある日、微笑ましいカップル(河村栞と銀治のそれぞれダブル・ロール)とすれ違つた夏夜は、軟派男(兵藤未来洋の二役目)から声をかけられる。自分はプロだから店に来るならと夏夜が名刺を渡さうとすると、軟派男は退散する。佐々木共輔は隠し撮りしたデリヘル嬢とのプレイを、AVとして発売しようとするAV会社社長・柴田、平川ナオヒロはADの森。二対二で、初陣の秋乃を連れ夏夜が向かふ。最初は抵抗を示してゐた秋乃であつたが、柴田の熟練したテクニックに、すつかり春を販ぐ稼業の味を占める。春海は案の定タカシに金を持ち逃げされ、貯金が目標額に近付きつつあつた夏夜は、駅ホームの見える橋の上で苺のショート・ケーキを素手から頬張り、一人きりのバースディを自ら祝ふ。樹かずは、追加料金を叩(はた)き過激なSMプレイで夏夜を責める井上。首を強く絞められた夏夜は、声が出なくなる。
 ヤタさんが逮捕される。容疑は風営法違反ではなく、何と殺人だつた。心中未遂で交際してゐた女を殺し、整形で顔を変へ逃亡してゐたのだ。離れ離れになる三人の女、秋乃は柴田のマネージメントで熟女AV女優に転進し、春海はホテトルに登録する。声の出ない夏夜は、暫く休むことにした。夏夜は再び、ドブ川に浮かぶ自らの死体を見る。よくよく目を凝らせば、今度はそれはダッチワイフであつた。神戸顕一の浮浪者は、この件にも再登場。
 繰り返されるヒロインの死の幻想を軸に、描かれる三人のデリヘル嬢の日常。同じ役者が違ふ役で度々登場するあたかも重複世界のやうな不思議な物語は、予め明確な筋書きを追ふことは放棄してゐる。とはいへそこかしこのシークエンスには力が溢れ、橋本杏子の噴乳まで繰り出す濡れ場も総じて質量共に申し分ない。池島ゆたかの顔で集められたに相違ない闇雲に豪華な出演陣は、ピンクらしからぬ分厚さで画面の端々までも飾る。その上で、最後の最後まで引き込まれつつも、最終的には事後何かしら物足りなさが残されてもしまふ。夏夜の繰り返し見る死の幻想に、明確な着地点が設けられないのは、そもそもさういふ営みを初めから措いて来た作劇であるとしても、よくよく考へてみると、夏夜と春海と秋乃、実は主人公である筈の、夏夜のパートが一番弱いのだ。何度も何度も貢いだ男に逃げられては、性懲りもなく次の男に入れ揚げる春海。風俗狂ひの夫と別れ、三十路に突入してから乳飲み子を抱へ飛び込んだ裸稼業で、水を得た魚の如く活路を見出す秋乃。ありがちといつてしまつては実も蓋もないが、二人の人生には劇中世界に根を下ろした一人の生活者としての強度がある。対して夏夜はといふと、自らの死の幻想を見るのに気を取られ外堀の描写がどうにも薄い。目標額に近付きつつある貯金をほくそ笑みながら、「愛でも買つてみようか・・・・・なんてね」だとか、ドブ川に浮かぶダッチワイフを己の死体と見紛へては、「どうせみんな、いつかは死ぬんだ・・・・・と思つた」―鉤括弧内は黒地に白文字のテロップ―だなどといふのは、如何せん地に足が着かぬにも甚だしい。客役の端役まで含め夏夜一人が、劇中世界で生活してゐない。池島ゆたか×五代暁子コンビにしてはソリッドな映画の仕上がり具合といひ非常に悪くはないのだが、繰り返し見る死の幻影に囚はれるヒロイン、といふプロット上の決戦兵器に、それが決戦兵器たり得るだけの威力を有してゐただけに尚更、却つて固執した末に理に落ちてしまつた感が強い。

 松島楓は、濡れ場レスのデリヘル嬢・冬子。闇雲に豪華な出演陣の内ほかに確認出来たのは、夏夜と春海の二度目の居酒屋シーン、クレジットの有無は未確認の佐野和宏が二人の背後に見切れるカウンター客で、松木良方はカウンター内の大将。池島ゆたか御当人のWEB日記によると、何とこの店は実際に松木良方が経営する店らしい。ホテトルからアルバイト感覚でAVの現場に入つた春海は、熟女AV女優として大成した秋乃と再会する。こちらもクレジットの有無は未確認の山ノ手ぐり子(五代暁子の女優名義)は、その際の秋乃のメイク。リアルタイムを知らないので潔く通り過ぎるが、今作は最初に「最後のピンク女優」と呼ばれた、橋本杏子にとつて六年ぶりの復帰作となる。その六年前の映画といふのは、再び前述のWEB日記により「コギャル・コマダム・人妻・美熟女 淫乱謝肉祭」(1996)であるとのこと。


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