真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「エプロン寮母 からみつく痴態」(2005/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:稲山悌二/プロデューサー:五代俊介/撮影:鏡早智/照明:花村也寸志/助監督:竹洞哲也/制作:伊藤裕二/撮影助手:矢頭知美/照明助手:柴田潤/監督助手:小山悟・伊藤祐太/編集:金子尚樹/音楽:中目黒合唱団/協力:カプリ・越智徹・矢野真麻/出演:小林みゆき・北原萌・矢藤あき・サーモン鮭山・柳之内たくま・安達守・柳東史)。出演者中、安達守は本篇クレジットのみ。
 用を足した後、水が流れなくなつてしまつた長澤深雪(小林)は慌てる。たて続けに三人が手洗ひの扉を叩く、森脇幹生(柳之内)と高野美花(矢藤)とが便意に急き立てられながらも渋々その場を離れるのと対照的に、三人目・小金井武(サーモン)は一見優しくも、粘着質に深雪に語りかける。「いいですよ深雪さん、流さなくても。僕は全然気にしませんから」。小金井以外のキャラクター紹介は不十分ながら、開巻を勢ひよく飾る、それはそれとしての爽やかなギャグとしては素晴らしい。かういふシークエンスを前にすると、サーモン鮭山の持ちキャラの強さに改めて気付かされる。
 国際弁護士として活躍する深雪の夫は二年前からニューヨークに単身赴任中で、その間自宅を司法試験受験者寮「春風寮」として開放し、深雪が春風寮の寮母を務めてゐた。子供も居ない深雪が、何故夫について渡米しなかつたのかに関して、全く説明は為されないが、まあさういふ些細は気にするまい。
 寮生は、既に冒頭に揃ひ踏みした三人。三浪生の幹生は彼女・アサミ(北原)とのセックスに明け暮れ、十四浪中の小金井は部屋中にヌード写真を貼り巡らし、深雪や美花は元より、バイトと称して幹生に呼び出されたアサミまでオカズにオナニー三昧に狂つてゐた。大学を卒業したばかりの美花は憎々しげにそんな馬鹿男二人を尻目に、ヒステリックにガリベンに励む。相変らず狭いのかそれなりには広いのか、最早よく判らない世界に散らばつた瑣末を拾ひ集めると、サーモン鮭山扮する小金井のキャラクター造形は、過去には城定秀夫超絶のデビュー作「味見したい人妻たち」(2002)、以降には翌年松岡邦彦の「人妻学芸員 図書室の痴態で…」の中に、大体同じやうな形を採つて現れる。恐らくは、更に探せば他にも出て来るのかも知れない。
 柳東史は、冒頭壊れた手洗ひの水道修理に春風寮を訪れる作業員。仕事を終へた後、お茶を振舞はれるのに続いて深雪との濡れ場に雪崩れ込む、のは深雪の他愛もないイマジン。妄想オチの中でわざわざ裸エプロンといふ飛び道具を繰り出しタイトルを回収する見上げた山内大輔のサービス精神には、万感の敬意を以て感服する他はない。作業員は春風寮が司法試験受験者寮であるといふことを耳にすると、立ち去り際に、妙にもたせた間で表札に目を留める。
 といふ訳でそれぞれの問題を抱へた三人の寮生を、深雪が優しく肉弾で文字通り包み込み、共通の目標へと送り出して行く。といふ物語は桃色に全く安直といへば安直で、調子がいいといへばそれまででもあるのだが、幹生のバックボーンの積み上げが他の二人に比べると些か弱いところに目を瞑ると、他愛もない展開ともいへ真心を込めて練り上げられた、鑑賞後の心持も実に爽やかな、清々しい娯楽エロ映画の良作である。深雪が小金井を筆卸させる件には、虚構の世界に於いてのみ微笑みかけられる女神の温かな幸福感が溢れ、我武者羅といへば聞こえもいいものの、その実は心にも体にも余裕を失した美花を、熟練した自在な淫技で慈しむかのやうに抱き止める百合の花香る濡れ場には、決定力のある桃色の破壊力と同時に、人の弱さといふものに真正面から向き合つた、ストレートなエモーションが咲き誇る。締めの深雪と幹生の絡みの最中に、美花が自らを鼓舞する為に部屋中に貼り散らかしたスローガンの中から、ある一枚を剥ぎ取りながら幹生に携帯をかけるカットに、娯楽映画に、エロ映画に山内大輔が全力を以て注いだ、論理と情熱とが最も美しい形で結実する。正しくクライマックスに相応しい、さりげなくも磐石な構成には、見事といふほかに言葉が見付からない。
 明くる春三人の寮生がそれぞれ巣立つて行つた後の春風寮を、春風の如く意外な来訪者が訪れるラストのもう一幕。伏線も張り済みとはいへ、木に竹を接いだ蛇足に見えなくもないが、ひとつの日常の終りに続いて劇中世界の新たなる日々の始まりを設けようとした、意図も酌めなくはない。

 美花は、幹生の部屋から筒抜けに聞こえて来るアサミの嬌声に終にブチ切れると春風寮を飛び出し、神社の境内で衝動的にラケットを振り回す。そこに、深雪が通りかかる。他の出演者と全く同等にクレジットされる安達守は、そんな二人の周囲をうろつく浮浪者。手に提げた紙袋の中に大量の紙筒が突つ込んであるのは、それはひよつとしてポスターか?受験勉強に専念して色気の欠片もない、といふキャラクター設定の美花は、ジャージ姿は別にどうでもいいが、まるで似合はぬ銀縁メガネが却つて一層堪らない。お前にはそれしかないのかと問はれるならば、改めてお答へしよう。ああさうさ、それしかないさ
 美花がヒッ剥がす貼紙は“禁欲”


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 刺青淫婦 つるむ デリヘル嬢 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。