真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「やりたがる熟女」(2003『やりたい人妻たち2 昇天テクニック』の2006年旧作改題版/製作:旦々舎/配給:新東宝映画/監督:的場ちせ/脚本:山邦紀/企画:福俵満/撮影:小山田勝治・杉村高之/照明:小川満・小川大介/助監督:田中康文・伊藤一平/音楽:中空龍/協力:ホテル・アルパ/出演:桜田由加里・鏡麗子・佐々木基子・なかみつせいじ・柳東史・平川直大)。同じく2003年製作の「やりたい人妻たち」(出演:ゆき・鏡麗子・風間今日子、他/物語は全く異なる)も、矢張り06年に殆ど変化のない「やりまくる人妻」と新版公開されてゐる。
 ライターの川村絵里(桜田)は専業主婦は安逸を貪り社会に寄生する、夫に飼はれた家畜であると痛罵する『くそくらへ!専業主婦』を出版し話題を呼ぶ、あるいは物議を醸す。絵里を紹介するワイドショーを見て激しく敵対心を燃やした二人の専業主婦・梶珠代(鏡)と水田比呂子(佐々木)は、それぞれ別個に絵里に対する報復を誓ふ。
 オールバックに伊達なスーツの着こなしで、如何にもなキャラクターを巧みに造形するなかみつせいじは、絵里の担当編集・小宮隆志。絵里とは、男女の仲にもある。出版社の表で待ち伏せしてゐた珠代が、小宮を誘惑。ホテル・アルパpartⅡでの情事、激しい珠代のSEXに目を丸くした小宮は「君は・・・・?」、すると珠代はネットリと「専業主婦よう」。定石通りで先が読めてしまふともいへ、台詞が実に手堅い。一方比呂子は、ミニコミの編集者を装ひ、出版社から絵里の住所を聞き出す。それ、教へて呉れるのか?といふ以前に、教へちやいかんぢやろというのはとりあへずさて措け。比呂子は絵里の自宅前にてホーム・ビデオ片手に張り込み、絵里の年下の彼氏で作家志望の桑島孝司(平川)の姿を確認する。後に接近、絵里はして呉れないらしい尺八で、桑島を寝取る。柳東史は、珠代の夫・吾郎。『くそくらへ!専業主婦』の内容に憤慨する珠代に対し、吾郎は書かれてあることに一定の理解を示す。カメラは判り易い鏡麗子の仏頂面を捉へ、夫婦は擦れ違ふ。思想映画としての浜野佐知(=的場ちせ)の豪腕が成立し得るのは、かういふひとつひとつの細かい心理描写を疎かにしないところもその勝因のひとつに数へられよう、極めて当たり前のことでしかないのは恐縮ではあるが。
 女達の、文字通りの肉弾戦は苛烈に交錯する。絵里は桑島は比呂子に、小宮は珠代に奪はれる。『くそくらへ!専業主婦』続篇の企画は、何時の間にか珠代による『専業主婦の逆襲』に変つてしまつてゐた。反撃を期す絵里は吾郎に接近、ここで二人が交す会話の中での、吾郎の台詞が凄まじい。本当は絵里のやうな、自立した女性が好みだといふ吾郎が、とはいへ現実は、と吐き捨てる「発情した河馬を一頭飼つてゐる・・・・」。鏡麗子のことである   >“発情した河馬”
 最早何もいふこともあるまい、山邦紀の、解き放たれた清々しいまでの攻撃性に震へるのみである。この人一遍、本気で時代と刺し違へるつもりで脚本書いて呉れんかいな?とんでもないものが、出来上がりさうな気がするのだが。
 結局、最終的には絵里と珠代は互ひに認め合ひすらする形で、三人の女はそれぞれ、個々の性と自由とを謳歌する新しい道を歩み始める。それはそれで構はないのだが、よくよく考へてみるとひとつだけ疑問に残るのは。ガッチガチの職業婦人であり確か結婚してゐる、といふ話は聞いたことがない―後注:俺が知らなかつただけで昔から既婚である―浜野佐知個人が、専業主婦といふ存在に対してはどう思つてゐるのか、といふ点である。

 ところで新版ポスター、山邦紀の“”の字がMacでは出て来なかつた―確か機種依存文字であつたと思ふ―のか、山邦紀の名前が縦書きで“山_邦紀”となつてゐる、何て読めばいいんだよ(笑


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