真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 どうやら世間の目は画期的にこの映画の方を向いてはゐないやうだが、そんな瑣末は一切ものともせず、「キャプテントキオ」(2007/監督・脚本・編集・出演:渡辺一志/撮影:岡雅一/照明:上田雅晴/美術:磯見俊裕・黒川利通/編集:加藤雄樹/音楽:PANTA/出演:ウエンツ瑛士・中尾明慶・泉谷しげる・いしだ壱成・渋川清彦・飯田一期・藤谷文子・山岡由美・日村勇紀《バナナマン》・設楽統《バナナマン》・車だん吉・石立鉄男、他)は真の傑作である。
 西暦20XX年、東京をマグニチュード10の未曾有の巨大地震が襲ふ。日本政府は木端微塵の東京の復興を断念、日本国から放逐する。荒野と化した東京には何時しか若者達が集ひ、独自の文化圏を構築して行く。さうして様々な芸術文化の最前線となつた自由と暴力とが支配する地獄の楽園、それが今作の舞台・新東京都である。
 新東京都に内地から二人の高校生・映画好きのフルタ(ウエンツ)とロック・キッズのニッタ(中尾)が、開催が噂される巨大ロック・イベント目当てにやつて来る。とはいへ二人を早々に、手荒い洗礼が襲ふ。警官ファッション・マニアの追剥ぎ(車)に身包みを剥がれたフルタとニッタは、人買ひに売られる。何処へ連れて行かれるとも知れぬ軽トラの荷台で途方に暮れる二人は、滅茶苦茶な手法で映画を撮影するアウトローの映画集団と巡り会ふ。ジャリタレ主演の青春アイドル映画、といふのが企画の基本線でその上でも立派に成功を遂げてゐるのだが、この、アウトロー映画集団が兎にも角にも魅力的。面々は、チェ・ゲバラのやうな扮装でエキセントリックの斜め上を行く映画監督・映画屋(渡辺)。ワイルド7でいふとヘポピーな巨漢カメラマン・タムラ(飯田)に、ガッチガチのロンドン・パンク録音技師・モヒカン(渋川)。実は映画なんて殆ど観たことがない、映画屋とは腐れ縁のプロデューサー・アロハ(石田)。二人と、映画屋達との出会ひのシーンといふのがいきなりトップ・ギアで痛快。カー・スタントシーンを撮影中の映画屋組、そこに、フルタとニッタを乗せた人買ひのトラックが走つて来る。「良さ気なトラック来たぞ」(アロハ談)といふことで、撮影スタート。映画屋がバズーカ砲でトラックを吹き飛ばし、それをそのまま撮るといふのである。他にもイカし過ぎてゐるのは、映画屋の吐く台詞は映画史に残る名台詞ばかりなのだが中でも格別なのは、本番を撮影しようとしたところ、モヒカンが空を指差し飛行機が飛んでゐるといふ、すると「馬鹿野郎、そんなもん撃ち落せよ!」。
 そんな映画屋達ではあつたが、新東京都のPR映画を撮つて欲しい、といふ都知事(泉谷)の申し出を「コマーシャルなんかやつてられつか」(映画屋談)とけんもほろろに断つたころ、指名手配される。実は母親思ひな孝行息子のタムラは撮影への参加を断念、タムラの代りにフルタのカメラで撮影は続行されるも、独善的な映画屋の態度に今度は映画屋とモヒカンとが衝突、撮影チームはバラバラになつてしまふ。フィルムの調達もままならぬ中、それでもアロハはダチである映画屋の為に奔走する。やつとこさ五巻の16mmフィルムを手に入れたのも束の間、都知事の手の者により、アロハは非業の死を遂げる。フルタが血染めのアロハシャツに包まれたフィルムを映画屋に送り届けた時、映画屋組は再結集する。決起した映画屋とフルタとモヒカンに、タムラも合流。権力に虫ケラのやうにブチ殺された仲間の為に、ショット・ガン片手に横一文字で死地へと赴くその姿は、正しくデス・マーチ。ジャリタレ主演の青春アイドル映画であることなど何時しか忘れ、一人、又一人と壮絶に死んで行くタムラ、モヒカン、映画屋。勘のいい方ならば既にお察し頂けようか、頑強に権力に立ち向かふ不屈の反骨心。やさぐれたならず者達の、終には口に出されることのない、暴力によつてしか語られ得ぬ愛。さうまるで、この映画は、ペキンパーの映画のやうぢやないか!
 それでゐて、恐らくは周到に計算され尽くしたであらう脚本により、同時に青春映画としても立派に機能は果たしてゐる。色恋沙汰の要素はチと薄いが、青春の夢と挫折、そして再起はしつかりと描かれる。都知事の下に殴り込んだものの、タムラとモヒカンは死に、映画屋は重傷を負ふ。右往左往するフルタに映画屋は言ふ、「監督はお前だ。自分で決めろ」。一方ニッタは、汚れた金を手にライブ会場に向かふ。も、結局はチケットは手にせず、追剥ぎに奪はれてゐたギターを買ひ戻し「オーディエンスぢや駄目なんだよな」、と何時の日かロック・スターとして観客としてではなく、演者としてステージに立つことを胸に誓ひ会場を後にする。ニッタが挫折とデス・マーチへの呼び水とはいへ、取り返しのつかない裏切りを犯してしまつてゐることは致命的な脚本の設計ミスのやうに思へなくもないが、細かいことは気にするな。減点法なんぞ、近代的個人の採る手法だ。前のめりの映画は、こちらも前のめりに観る。それもひとつの、出来上がつた作品への礼儀であらう。
 どういふ撮り方をしてゐるのだか技術的なことはよく判らないが、充溢する黒が素晴らしく映画的で美しい撮影、ところどころのギャグ演出も絶好調、加へて飛び道具としての石立鉄男も100%有効。有りものの音源を使つてゐるだけとはいへ、頭脳警察がカッコよくない訳がない。因みにPANTAも、ロック・イベント目玉のカリスマ・ロッカーとして少しだけ出て来る。寡聞にしてこれまで渡辺一志といふ男の名は恥づかしながら存じ上げなかつたものではあるが、一発で覚えた。俳優業も兎も角、是非とも次の映画も観たい。早く観たい、長谷川和彦の「連合赤軍」よりも観たい、何ぢやそりや。

 二週限定―尤も、私の住む地方都市では公開は二週で終了してしまふのだが―で本篇終了後に上映される短篇の内、二週目上映の映画屋達の映画「メキシコの烙印」も、ふざけてゐるやうで実は秀逸。ジャリタレ主演のアイドル青春映画でありながら、その主演のジャリタレ二人が「死ね!」といひながら撃ち合つて二人とも死ぬ。といふ非道い無茶をさりげなくやつてのけてゐる、こちらの方も必見。


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