真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「通夜の喪服妻 僧侶にもてあそばれて・・・」(1998『色情僧侶 喪服狩り』の2010年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:坂本太/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/録音:シネキャビン/現像:東映化学/監督助手:竹洞哲也/照明助手:平井元/ヘアメイク:松本貴恵子/スチール:本田あきら/出演:藤崎加奈子・扇まや・村上ゆう・中野耕・山本清彦・久須美欽一)。
 開巻、半端に華美なラブホテルの一室での、主演女優の藤崎加奈子と、山本清彦の濡れ場。いよいよ挿入といふ段になると、女は拒む、生殺すにもほどがある。藤崎加奈子が首から下はまあまあ綺麗な体をしてゐるのだが、唇から下がまあ長い。宮部流活花家元の夫(遺影すら登場せず)を一年前に亡くした霞(藤崎)は、気晴らしに店内に花を活ける手伝ひもする、友人の藤原里美(扇)が営むクラブで知り合つた山崎和夫(山本)から求婚されつつ、未だ気持ちの整理をつけられずに保留する。一方、互ひに特別な感情も懐てゐた霞の義弟で警察官の隆一は、兄の没後間もなく行方不明となつてゐた。その悲嘆に暮れる隆一の婚約者・前田涼子(村上)は、道端で擦れ違つた萬念寺住職・黒岩巌鉄(久須美)から、数打つた下手な鉄砲に恋人の喪失を偶々言ひ当てられると同時に、心を絡め取られる。ところで今回、安普請も仕方のないピンク映画にしては頗る珍しく、久須美欽一の右こめかみから頬にかけて、右目をも塞ぐ醜い肉腫の特殊メイクが、そこそこのクオリティで施されてゐる。巌鉄の弟子・巌隆(中野)が門前に立つ萬念寺を、里美が訪れる。こちらはピンクらしい晴れやかな世間の狭さを誇るのか誇れないのか、霞同様夫に先立たれた里美は以来不感症に悩み、巌鉄の焚く如何にも怪しげな香と肉棒説法との、完全な虜となつてゐた。ところでのちに、里美が霞の矢張り不感症を指摘してみせる件は、同境遇ならではの明察といふよりは、山崎が口を滑らせたのかと勘繰る方が、余程話は通り易からう。話を戻して、吸ひ寄せられるかの如く萬念寺を訪ねてみた涼子は驚愕する、頭を丸めた巌隆―巌鉄は剃髪せず―こそが、姿を消した隆一であつたからだ。騒ぐ涼子を小部屋に連れ込み、ひとまづ抱いておとなしくさせた隆一は、事情はあくまで秘したまゝ霞への口止めと、以後一切萬念寺には近付かないやう厳命する。
 ぷちラスプーチンばりの怪僧、卑劣な結婚詐欺師。二人の後家と、婚約者の不在に苦しむ可憐な青木こずえ。そして道ならぬ恋情に焦がれなくもない、忙しいアンダーカバー。バラエティに富み過ぎる面々が目まぐるしく交錯する、ジッェト・コースターなメロもといエロ・サスペンス。とでもいへば、聞こえはいいものの。流石に所詮は高々六十分で勇猛果敢に拡げた大風呂敷が手に余つたか、力と尺とを尽きさせた坂本太は、物語が混乱を来たしはしない以上、ある意味十全な交通整理と同時に、空前の無茶も仕出かす。再会に乗じて部屋まで上がり込んだ、巌鉄の涼子撃墜後の数カットで霞を萬念寺に放り込む光速展開に驚かされ、更には締めの濡れ場明けの正しく僅かワン・カットで、物語を強引どころでなく無理矢理にエンド・マークにまで押し込む超光速展開には度肝を抜かれた。葱を背負つた鴨たる、霞がいきなり土地屋敷の権利書を持参する本来ならば相当無造作なツッコミ処さへ、まるで可愛らしく思へてしまふくらゐ。中盤までは何気なく充実した坂本太の舵捌きがさりげなく光り、上手く転べば娯楽映画の秀作たり得てゐたやも知れない可能性を窺はせた反面、終盤蛮勇も通り越した荒技が豪然と火を噴く、チャーミングな無謀もしくは無体作である。ある意味衝撃的といふか、別の意味でのインパクトならば無闇に猛り狂ふ。

 枝葉で繋ぎのシークエンスながら、そこはかとなく心温まる描写に感心させられたのは、巌鉄と里美の情事に際し、巌隆は体よく所払ひされる。そもそも本気で仏門に入つた訳でもないゆゑ至極自然に、巌隆改め隆一が容易に想起される肉欲に悶々と悶える件の、人間的な素直さが微笑ましい。そんな里美と巌鉄の絡みは、窓の外には渓流が流れる、妙なロケーションを誇る部屋にて撮影される。清々しく、寺とは全く別物件であるのはいふまでもあるまい。


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