真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「白い肌の未亡人 私を苛めて」(1991『未亡人変態地獄』の2010年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/原題:『Look Into Me』/撮影:稲吉雅志/照明:斎藤久晃/編集:酒井正次/助監督:梶野考/監督助手:榎本祥太/撮影助手:村川聡/緊縛指導:唐木俊輔/協力:中村京子・歌舞伎町ファッションヘルス カリフォルニア/出演:姫ゆり・伊藤清美・水鳥川彩・池島ゆたか・今泉浩一・征木愛造・坂田祥一郎)。照明助手を拾ひ落とす。出演者中、征木愛造は本篇クレジットのみ。
 歓楽街を訪れた平井清隆(坂田)は、“歌舞伎町の公衆電話”を探してゐるだなどといふ、漠然とし過ぎてゐてアレな女から声をかけられる。ところで坂田祥一郎は、後の坂田雅彦。意識の低い風俗嬢・ミルク(水鳥川)を相手に遊んだものの却つて心の渇きを増した平井は、店の外で、先刻の女・真理江(姫)と再会する。平井とホテルに入つた真理江は、鞄を手渡す。鞄の中には数々の淫具が詰め込まれしかも上着の下の真理江の体には、予め自らの手で縄がかけられてあつた。その日乞はれるまゝに真理江を嬲つた平井は、妻・直子(伊藤)とは夫婦関係が冷え切つてゐるのもあり、後日夜の街に姿を探し改めて巡り会へた真理江との、関係に溺れて行く。
 平井に対しては人妻だと名乗る一方で、真理江の自宅には、そのやうな生活臭はまるで漂はなかつた。真理江はそこで過去に撮影したビデオを見ながら激しい自慰に溺れる。その中に登場する池島ゆたかは、真理江の亡夫・圭一。圭一は手替へ品替へ苛烈に妻を調教するサドマゾ夫婦生活の末に、ある日互ひに首を絞め合ふ情交に挑み、その果てに絶命する。
 適宜亡夫との過去の、何れも打球を遠くに飛ばす絡みを差し挿みつつ、真理江と、真理江に次第に日常の均衡も失して絡め取られて行く平井の姿には、終に命を落とした圭一同様、責められてゐる筈の女が何時しか肉体的にすら優位に立つ、一周グルッと回つた真の意味での倒錯が、扇情性に関しても抜群に見応へがある形で綺麗に描かれる。劇中世界の核を成す部分の充実を、二つの異なつた視点が加速する構成も更に秀逸。性に関しては完全なるどノーマルながら後に微妙な揺らぎも垣間見せる直子と、一見単なる端役に見えなくもない、今泉浩一演ずるアダルトショップ店員の視線が素晴らしい。真理江に対して使ふ目的のSMグッズを求める平井は、初めは如何にも初心者臭く店員に薦められたアイテムを薦められた通りに買つてゐたものが、次に店を訪れた際には、あれもこれもと自分チョイスで買ひ進み、レジからその様子を窺ふ今泉浩一は、恐らく上客が誕生したであらう瞬間に商売人、あるいは生活者の目を輝かせる。一人の平凡な男が魔性のマゾ女に淫獄に堕とされるといふ異常性愛のドラマが、別の者にとつては、純然たる日々の地平の上での、三度の飯の種となる。当たり前のことといつてしまへば実も蓋もなく当たり前のことでしかなからうが、その当たり前が、当たり前ではない物語の厚みを増す。表情は少々時代の波を超え得ずにバタ臭いが、姫ゆりの素直に成熟した肉体が被虐に映える様も強力。ピンクとしても映画としても完成度の高さを誇る、頑丈さが実に麗しい。

 出演者中残る征木愛造は多分、平井もロスト、もしくは撃墜した真理江が、オーラスに於いて再び捕獲するビデオ男か。又このラスト・シーンが凄まじい。上下はセパレートしてゐるものの、ヴィジュアル的にアスカのプラグスーツのやうな―因みにお断りしておくと、1995年のTVシリーズ放映よりも、今作は全く遡る―物凄い服を着た真理江が、これで私を撮つて下さいと一人には断られ二人目の男にホームビデオを差し出す。男がカメラを向けるや、真理江は上を脱ぎ、例によつて自縛済みの裸身を露にする。そのまま周囲に人だかりも出来る中での集団注視露出遊戯を、結構尺もタップリと使ひ、遠くロングから押さへるといつたエクストリームなものである。業の深さすら感じさせる真理江の欲望の質量と同時に、即物的にも清々しく満足させられる、正しく怒涛の一作である。


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