真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 




 「沈黙の脱獄」(2005/米?/製作:スティーヴン・セガール《以下セガ》、他/監督・撮影監督:ドン・E・ファンルロイ/脚本:ケヴィン・ムーア/原作:ダニー・ラーナー/原題:『TODAY YOU DIE』/主演:セガ)。DVDにて鑑賞。昨年の日本劇場公開時には、関西までしか来なかつたので観に行けなかつたものである。
 セガ映画近作の常として、それなりに見覚えもあるものに加へ例によつて冒頭何処の国のものだかよく判らない不可思議なカンパニー・ロゴも並ぶのだが、もうその辺りを、骨折つてキチンと調べようといふ気にもなれない。安い原題の安いながらものカッコ良さが、今作に於ける頂点であるのかも知れない、などと筆を滑らせてしまふと、いきなり実も蓋も無い。

 自己紹介がてらにいふが、私の映画観のいろはのいの字は、「映画とは、小屋で観るものである」といふものである。よつてテレビで放映されてゐるものはテレビ番組で、DVDその他に焼かれたものはあくまでDVDその他ソフトである。即ち、それは映画ではない、とするものである。私は映画ならば時に、といふか月に数度は福岡から北九州にまで足を運んで観に行くが、テレビ放映や、DVDその他ソフトは以前はよく見たが現在では殆ど全く見ない。といふかそもそも、もうここ丸二年、テレビを持たない生活をしてゐる。勿論PCがあるのでDVDならば見られないこともないが、それにしても限りなく殆ど全く見ない。家に居てなほかつピンクの感想を書いてゐない時は、そんなことをしてゐる暇があれば寝てゐる。とはいへ私がセガファンであるといふことでDVDの頂き物があつたので、今回努めて時間を作つて鑑賞したものである。

 今回のセガの役柄は、悪党から金を盗んでは、貧しい人々や慈善事業に寄与する、いはゆる義賊。とはいへ泥棒は矢張り泥棒なので、危険な稼業を案ずる女の為に、セガは足を洗ふことにする。最後に選んだ仕事は現金輸送車を運転するだけの簡単な仕事の筈だつたが、クライアントにハメられ、セガは現金強奪と警官殺しの濡れ衣を着せられお縄を頂戴する羽目になる。獄中を仕切る黒人ギャングと仲良くなると、セガはギャングの手引きで脱獄。自分をハメた奴等に過剰に思ひ知らせるべく、何時もの殺戮行脚を繰り広げる。
 一言で片付けてしまふと、何ともヘナチョコな映画である。冒頭から、セガの女は何度も繰り返しセガが酷い目に遭ふ内容の、象徴的な予知夢を繰り返し見る。加へて、セガをハメた大ボスは設定では何やら悪魔主義者であるといふ。となると、ここはたとへば「沈黙の聖戦」(2003)のやうに、最終的にはセガクション(セガール+アクションの意、たつた今思ひついた造語)映画が何程かスピリチュアルな、あるいはオカルトな横道に羽目を外すのかと見てゐたところ、そんな展開欠片もありやしない。大ボス虐殺の件は、本当に心から、力の限りふざけてゐる。毎度毎度のことなのでこの期には最早通り過ぎるが、何時の間にやら大ボスの所在を掴み辿り着くセガ。余裕綽々と中身のまるで無い遣り取りを交した後、大ボスはセガの始末を手下に任せ、悠然と姿を消す。最初に出て来る手下Aは、派手なバク宙で登場すると、「ホアァァァァ~!」とまるでギャグかのやうな珍妙な雄叫びを上げる。ともあれ一応はマーシャル・アーツの達人ぽいので、手下Aとセガとが果たしてどんなエクストリームな肉弾戦を見せて呉れるものかと固唾を呑んでゐると、セガは「バン、バン!」と二発拳銃で撃ち殺して終り。何ぢやそりや、インディ・ジョーンズかよ。横着するな。続いて重火器を手に登場する手下B~Dも、何れもいとも容易く撃ち殺して終り。そしてヘリで飛び立たうとしてゐた大ボスは、予めセガが仕掛けてゐた爆弾で爆死。呆気ないにも程がある。予知夢は、悪魔主義は、繰り返し張つた伏線は一体何処に消えた。「オヤジの映画祭」の中では一番(まだ)マシだつた「沈黙の報復」のドン・E・ファンルロイ監督作といふことで、少しでも期待してしまつた私が浅はかだつた。一応大ボス爆死に続いて、残つた一味との最終的には建物一棟吹き飛ばす派手なドンパチを見せて呉れるクライマックスも設けられてはゐるものの、展開のいい加減さこそが最大の暴力で最大の謎な、地獄の底をも抜かすZ級作である。少なくともノートPCの液晶画面でDVD鑑賞した限りでは、「沈黙の報復」では観客を酔はせて呉れる、美しく荒れた画面のルックもまるで不発。クリアではあるけれどもノッペリとした何の面白味にも欠ける画調が、全篇を冷たく吹き抜ける冬風のやうに貫く。

 アクション面に於いては、セガ的には大きな破綻は無いものの、開き直つてボディ・ダブルを多用した挙句が、セガが後ろ向きで暴れてゐるショットが異常に多い。主役なのだから、観客に尻を向けるな。一箇所あまりにあんまりで度肝を抜かれたのは、セガが、雑魚キャラを窓を突き破つて建物の外に放り投げるシーン。セガが雑魚キャラを放り投げる建物の中からのカットと、窓を突き破つて憐れな雑魚キャラがお約束通りに手足をジタバタさせながら落下するカットとで、雑魚キャラが思ひきり別人である。セガと少しは対峙する役者と、スタントマンとでは背丈からまるで違ふ。事ここに至ると最早清々しさすら漂ふ。
 冒頭のそこそこ大掛かりではあるカー・チェイスも交へた現金輸送の一悶着の果てに、セガはパクられ、金は消える。消えた金の行方に関してセガは「記憶を無くした」だとかいふものの、どうせ白を切つてゐるものと思ひながら見てゐたところ、どうやらセガは劇中本当に自分が隠した金の在処に関して記憶を喪つてしまつてゐる様子。ところが最終的にセガが記憶を取り戻す描写はすつ飛ばしたままに、序盤で通りすがりに目にした資金難から閉院した小児病院にその金を寄付してたりなんかするのが、一応着地はちやんと果たしたつもりのラストである。舌の根も乾かぬ内に言葉を返すが、小林悟に劣るとも勝らない破壊力である。昨今、無理から沈黙シリーズと冠されて性懲りもなく劇場公開され続けるのはあくまで我が国に於いての局地的な特殊事情で、セガは母国では、初めから小屋は通り過ぎて近作は専らDVDストレートだといふことである。時代にフィットしてゐないことは千も承知の上で、なほのこと敢て言ふ。こんな代物、小屋で観てゐた方がまだしも救はれる。
 何処か悪くしてゐたのか、セガの血色が妙に悪いのも、今作を後ろ向きに加速させるポイントである。


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