真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「キャバクラ嬢 しぼり出す指先」(2007/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:三上紗恵子・荒木太郎/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大・江尻大/撮影助手:海津真也・種市祐介・広瀬寛巳/音楽提供:白井秀明/応援:小林徹哉/協力:佐藤選人・静活・HOLLY WOOD/タイミング:安斎公一/出演:桜田さくら・柳東史・華沢レモン・淡島小鞠・岡田智宏・安田憲明・宮川典子・静岡県風俗最強誌Men's TONIGHT、他・佐々木基子)。ポスターには音楽として白井秀明と併記される、三田村管打団?(はてなマークまで含めてユニット名)が本篇クレジットには無し。然しまあ、潤ひも味の欠片も無いタイトルではある。
 生真面目教師の赤木(柳)は、同僚・久本(荒木)に無理に引張られ、生まれて初めてのキャバクラに足を踏み入れる。場に馴染めない赤木について呉れたのは、店のナンバーワン・さゆり(桜田)。二週間後、赤木も忘れた頃携帯に「お元気ですか 良かつたら オイデクダサイ」といふ文面の、さゆりからの特に何の変哲も無い営業メールが届く。免疫の無い赤木はすつかり逆上せ上がつてしまひ、店に通ひ詰めるやうになる。忽ち金に困つた赤木は、妻・智子(佐々木)の貴金属や、学校の備品をも金に換へるに至る。
 積極的に回避してゐたので「桃色仁義 姐御の白い肌」(2006)以来観るのは五作ぶりともなる荒木太郎の新作は、驚くべきことに、堅物男が水商売の女に入れ揚げた挙句に全てを失ふ。たつたそれだけの、実も蓋も無い以前に在り来りなことこの上なく、こんな映画に木戸銭を落とすなんてまるで小馬鹿にでもされたかのやうな、どうといふこともないお話である。頭と尻に工夫を欠きつつも、その間の展開に工夫が凝らしてあれば幾らでも形にならうところではあつたのだが、その点に関しても決して成功を果たせてゐるとはいひ難い。終にはサラ金にまで手を出した赤木が、手にした洗濯ハンガーと体中に万札を貼付け、錯乱でもしたかのやうに小川を駆けて来るショットには昭和後期の日本映画が有してゐたパワーの残滓が感じられ、借金取りと大家の怒号の中、赤木が安アパートの一室それでも安穏とさゆりへの想ひに立て籠る件には、それはそれとしての安らぎが溢れもする。即ち、赤木絡みの―あるいは柳東史の、といつた方がより適当であるのかも知れない―描写は、いきなり身を滅ぼすまでにキャバ嬢に突つ込まざるを得ないことに対しての背景の欠如を除けば、概ねそれなりに充実してはゐるのだが、対してさゆりに関してが弱いといふか軸足が今一つ定まらず、無駄も目立つ。さゆりが、客が破滅しやうがどうしやうが金さへ絞り取れれば後は知つたことではない、冷酷なプロフェッショナルであるのか、それとも全力の赤木ほどではないにせよ半ば、赤木との出会ひを運命と勘違へてゐるのかが微妙にハッキリしない。勇猛果敢なロケーションであることだけは文句無く買へる、砂丘での濡れ場が逆に理解を妨げる。砂上に果てた赤木が妻子―娘・キョーコ役はスッピンに極短ツインテールがヤバい淡島小鞠―との、幸せだつた日々を想起するカットにはよもや夢オチかよ!と肝を冷やせられかけたが、流石にそれでは、赤木の転落に気を揉みながらもどうすることも出来ない、無力な傍観者としての久本の視点に説明がつかない。幾ら三上紗恵子―と荒木太郎―とはいへども、そこまでの出鱈目な粗相はするまい。豪快な青姦が劇中世界内での事実とすると、非情なプロであるならばさゆりが、どうしてカモとそこまでの無茶に至るのかが理解に苦しい。赤木との同伴デート中、砂丘の写真に「砂丘の写真を見ると落ち着くの」、「何もかも捨ててしまひたい、そんな気持ちになる・・・」とさゆりが目を留める件で外堀は埋めたつもりなのかも知れないが、その件自体、落ち着くと口ではいひながら、さういふさゆりはあたかも俄かに欲情でもしてゐるかのやうにしか見えない、ちぐはぐ極まりないカットであつたりもする。大体落ち着くといふことと、何もかも捨ててしまひたくなる心情とは連続するものなのか。赤木を焚付け、店の同僚・彩(華沢)を犯させる絡みにもさゆりの魔性はよく表れてゐるだけに、砂丘絡みの変なウェットさは、さゆりの人物造形にとつては矢張り余計、あるいは説明不足に思へる。どうしても、砂丘でのセックスを押さへておきたかつた、決意は酌めぬではないが。
 軸足の不鮮明に加へて、さゆりに関する無駄とは何かといふと。配役中、いい感じでナイスなガイぶりを振り撒く安田憲明は、さゆりの上得意・伊勢。何の店だか絶妙に判らない、「HOLLY WOOD」でさゆりを抱く。素肌にジャケットといふハチャメチャな格好で、クラックでもキメてゐるかのやうな破天荒な色男ぶりを暴発させる岡田智宏は、矢張りさゆりの客で、ホストの哲郎。三人目の―濡れ場をこなす―女優を、どれだけ木に竹を接がうとも是が非とも登場させねばならぬ場合は、仕方のないこととして理解するにも吝かではないが、今作さゆりを巡り赤木に気を持たせる男は、どちらでも構はないが一人居れば十分ではなかつたか。足りない部分至らない部分も残るだけに、敢て無駄と断ずる所以である。
 ファンは荒木調として賞賛し、当サイトとしては一貫して荒木臭として異を唱へ続けて来た、基本的に全うな商業娯楽映画への成就を妨げてゐるやうにしか思へない、割に荒木太郎は性懲りもなく固執するあれやこれやの不要な意匠は、今作に於いては見当たらず。荒木太郎映画の新作を観るのは久し振りなので、荒木太郎が漸くシフト・チェンジを果たしたものか偶々なのかは判らない。何れにせよ、致命的とすらいへる近作を通しての脚本の弱さは相変らず。今回はいはばついでで観たものであるが、脚本を三上紗恵子(=淡島小鞠)が書き続けてゐる限り、矢張り映画監督としての荒木太郎に明日は来ないのではなからうか。このコンビ、二人とも役者としては強いのだが。

 もうひとつ解せないのは、赤木のキャバクラ通ひが妻に発覚するきつかけといふのが、キョーコ(漢字不明)が父親の財布から金を抜き取らうとしたところ、さゆりの名刺を発見するといふ点。それまでの、それなりに幸福さうな家庭内の描写のみからは、娘のさういふ非行行為までは些か距離が遠い。
 キャバクラ店内に、店の人間や他の客要員として若干名登場。ポスターに名前の記載の無いその他出演者の中でも、一人大きくクレジットされる宮川典子は、さゆり・彩の他にもう一人だけ姿を見せるキャバクラ嬢か。明後日に話を戻すと、彩は、語尾に「ピャン☆」を付けるピャン言葉を駆使してみせる。かういふ離れ業を軽やかにやつてのけられるのも、小さな大女優・華沢レモンならではであらう。


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