真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫女房 絶品淫ら顔」(1994『不倫妻 夫の眼の前で』の2002年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/脚本・監督:佐々木尚/プロデューサー:高橋講和/撮影:紀野正人/照明:三浦方雄/音楽:伊藤善行/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/助監督:堀田学/ヘアメイク:中村乃里子/スチール:小島浩史/監督助手:井戸田秀行・広瀬寛巳/撮影助手:塚園直樹/照明助手:佐藤文雄/編集助手:網野一則/出演:浅井理恵・草原すみれ・吉行由美・杉本まこと・久須美欽一・真央元)。
 マンションの外景に秒殺タイトル・イン、但しこのマンションは、純然たる単なる背景。原宿駅に降り立つた伊原か井原か庵原忠男(真央)は、タップリ二分費やしてお目当ての一軒家に。若い真央元の、トレード・マークたるカリ高カットのカリの高さが、未だ発育途上なのが―この時点では―微笑ましい。結局夫婦どちらの縁故なのかは語られずじまひに済まされつつ、母親が死に天涯孤独の身となつた忠男は、東京の親戚宅に身を寄せることに。ドアを開け忠男を招き入れる主演女優のファースト・カットをわざわざ二度繰り返し、忠男は早速広瀬真由美(浅井)に欲情する。部屋に通されたタイミングで、郷里に残した彼女・吉行由美との一戦の繋ぎの判りにくい回想挿んで、よくよく考へてみるとさうさうないシチュエーションにも思へるが、忠男は夫婦と同居する真由美の女子高生の妹・美紀(草原すみれ/a.k.a.西野奈々美)にも劣情を滾らせる、清々しく節操のない男だ。その夜、闇雲に魔王然とした夫・康弘(杉本)に激しく責められる、真由美の派手な夫婦生活の気配に目を覚ました忠男は、そのまゝ始終をガッツリ覗く。だから、さうなるといよいよ以て美紀の同居が不自然ではある。
 配役残り久須美欽一は、忠男のために康弘が捻じ込んだ就職先の上司。職場にはモブ―計五名、若い広瀬寛巳の姿も―に加へワン・カット明示的に抜かれる形で、上垣保朗夫人の小泉ゆかも見切れる。
 ロマンポルノ「ピンクのカーテン」シリーズ(昭和57~58)で知られる―手前は未見なのに何だが―上垣保朗は一旦Vシネ戦線に退いた後、九十年代中盤二年間に亘り、佐々木尚と名義を変へ三作のピンク映画を発表。更にその間、佐々木尚第二作「義母と息子 不倫総なめ」(1995/主演:小泉ゆか)との間に上垣保朗名義で監督した、唯一のピンク映画の新版を再来週観に行く―正直無駄に話がやゝこしい―予習がてら、DMMに入つてゐるのをこれ幸と見ておいた佐々木尚第一作。忠男が真由美を手篭めにするまでで、マッタリ前半を消化。久須美欽一に勤務態度を注意されるや逆ギレ退職した忠男が帰宅すると、広瀬家には雪国から吉行由美が強襲上京。改めて後述するとして忠男には勿体ないのはさて措き、吉行由美の二戦目が拝めるのは喜ばしいにせよ、その後は元々設定程度の物語が、木端微塵に砕け散る。転がり込んだ先とはいへ自宅でついでに事後にも関らず、何故か再びスーツを着込んだ忠男は真由美を連夜の陵辱。続けて深夜、カルピスを飲みに起きたところを犯された美紀は、何と止めに入る姉の前で忠男を受け容れる。ここでディテールを詰めるべく、日日(ひにち)を整理しよう。忠男が真由美を初めて手篭めにした日を初日に設定すると、何だかんだといふか何が何だか判らないけれど兎に角いはゆる姉妹丼が成立するまで、忠男がまさかの一夜にして女優部三冠を達成するまでが二日目の出来事。康弘の一週間のシドニー出張は明後日からと二日目の朝に語つてゐたゆゑ、その日ともう一日は帰宅しておかしくないのに、杉本まことは二日目の朝以降綺麗に退場。それ以前に、棹の根も乾かぬ内に忠男の部屋でヤッた直後の、吉行由美の存在が消失するイリュージョンが逆の意味で画期的。結局手替へ品替へ巴戦し倒した末、ヤリ疲れそれぞれ眠る真由美と美紀を残し、忠男が新しい旅立ちとばかりに一人広瀬家を後にするラストは不完全無欠に正体不明。そもそも、ある意味真央元はハマリ役なのだが、自己中心的で粗暴な忠男の造形が感情移入に激しく難い。居候しかも無職の分際で、忠男が卓の下では姉妹に尺八を吹かせながら、偉さうに肉を喰ふ件なんぞ憎くて憎くて仕方がない。三本柱に穴はなく、現在の水準より普請の厚さも感じさせる画作りは終始堅い。申し分ない筈の裸映画が、となるとゼロで十分なのに積極的にマイナスにまで突入した劇映画に足を引かれる、珍しい形の一作である。

 因みに今作、真由美が康弘の眼の前で、忠男なり美紀に抱かれるシークエンスは一切全く一欠片もない。


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