真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「一度はしたい隣の女房」(1996/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:高橋定二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:原良一/録音:シネ・キャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:芦田ミキ・杉本まこと・河名麻衣・神坂広志・丘尚輝・風見怜香)。
 失敗した目玉焼きを、誤魔化してスクランブル・エッグに移行。新婚二週間にして、明日からアメリカに短期の単身赴任で発つ酒井元春(サカイの漢字は適当/神坂広志)は、卵ひとつまともに割れぬ妻・みつき(芦田ミキ/新田栄映画でよく聞く声のアテレコ)の料理に匙を投げる。匙を投げつつ、朝つぱらから夜の営み。片や、酒井家左隣の石川家。亭主の出世を見込んでマイホームを買つたものの、当ての外れた看護婦の朋美(河名)が、石川八三(杉本)に共働きをボヤきながら先に出勤。トボトボ家を出た八三が、表を掃除する憧れの隣の女房に挨拶してタイトル・イン。クレジットを通して、八三は遠目過ぎて判別も不可能な風見怜香からチラシを受け取る。“男性の方大歓迎”との料理教室のチラシと、先に出たのに遅く帰つて来た朋美に、八三が跨られる石川家の夜を経て、満啓子(改めて風見怜香)の料理教室の門を叩いた八三は、渡米中の料理修行を元春から厳命された、みつきと一緒になる。
 配役残り丘尚輝は、三人ばかりの料理教室生徒もう一人・隅田川。濡れ場の恩恵に与るどころか、台詞ひとつ与へられない純然たる頭数要員。
 新田栄1966年第三作は、二作後「何度もせがむ隣の女房」(主演:小山美里)の、新日本映像いはく“日本全国津々浦々で大ヒット”したとの前作。朋美役が河名麻衣から杉原みさおに正直清々しくダウングレードした以外には、二作を通しての主人公たる八三の造形のみならず、石川家・隣家の物件も全く同じ。売家の札の掲げられた―因みに何度もせがむで登場する不動産屋は新田栄―旧酒井家に、“今度はどんな奥さんが越して来るかなあ”と八三のモノローグが被さる今作のラスト・ショットを見るにつけ、ことによると初めから続篇ありきの企画であつたのやも知れない。
 物語の基本構造は何度もせがむ同様、隣の女房が赤く見えるだけの他愛ない一作。丘尚輝の占ひを軸に、両家と三番手をもがダイナミックに交錯する何度もせがむに対し、一度はしたいは八三が隣の女房と料理教室にてミーツするといふ寸法。亭主が匙を投げるほどの料理下手であるみつきは兎も角、八三が料理教室に通はうとした理由が、最近朋美が料理作つて呉れないといふのを、最初に通しておかない明確な疑問手は一旦さて措き。中盤を完全に支配する風見怜香が、特別レッスンと称して居残りさせた八三とみつきを交互に喰ふ二連戦に際して、家庭教師ものに類似した料理教室ピンクなる新機軸を撃ち抜いてみせるのが地味に出色。満啓子V.S.八三戦がそれなりに―事後ケーキが完成する―料理の真似事をしなくもない一方、適当に百合しか咲かせてゐないV.S.みつき戦の事後にも、何時の間にかドーナツが出来上がつてゐたりするのが禅問答みたいでジワジワ来る。そこまではいいとして、みつきが教室に通つた成果のハヤシライスを八三に振る舞つた直後に、ノー・モーションで突入する八三と一度はしてみたかつた隣の女房との一戦が、結局八三のイマジンに過ぎなかつたのか、よもやの劇中現実であつたのかが結局満足に白黒つけられぬまゝに何となく通り過ぎられるのは、映画の背骨をヘシ折る致命傷。主演女優は佇まひとお芝居こそエクセスライクにせよ、俳優部最長のタッパを誇る正しくモデルばりのプロポーションは何気に超絶。三本柱は何れも圧勝の三連勝、抑へ目の照明が激しくエロい、両家の夫婦生活と風見怜香のオッパイとで裸映画的には一度はしたいに軍配が上がる反面、お話的には案外深いテーマの何度もせがむの方が断然面白いといふのが、新田栄による隣の女房二部作の概評である。

 因みに、粒の小さな1999年正月映画、深町章版の隣の女房が「隣の女房 濡れた白い太股」(1998/脚本:深町章/隣の女房は相沢知美、久保チンが八三ポジ)。


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