真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「極選マダム 前も後ろもナマで」(1997『本番熟女 女尻の奥まで』の2008年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影:田中譲二・松本治樹・鏡早智/照明:秋山和夫・渡部和成/音楽:中空龍/助監督:佐藤吏/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/出演:成瀬美佳・吉行由実・青木こずえ・真央はじめ・樹かず・杉本まこと・久須美欽一)。
 和装の久須美欽一が、四つん這ひにさせた成瀬美佳の陰部周囲を髭剃り用のやうなブラシで責める。ブラシにはコードが付いてあり、コードの先には自作したと思しきこれは計器といふことなのか、適当に動くメーターと、パカパカ馬鹿みたいに点滅するランプ。久須美欽一が成瀬美佳の性感帯を測定してゐるらしき風情を伝へてタイトル・イン。
 夜の山田家、夫の和夫(真央)は、妻・未知子(成瀬)の打ち明け話に呆れ気味に仰天する。黒木真三(久須美)が主宰する「黒木健康道場」に於ける診断の結果、未知子の性感帯は、尻の穴の奥にあるといふのだ。健康道場自体がインチキ臭いとまるで取り合はない和夫は、真剣な未知子の言葉にも耳を貸さず何時ものやうに独り善がりな正面戦を展開する。その話を未知子から聞いた御近所で、未知子に健康道場を紹介した張本人である香山由岐(吉行)は憤慨する。オッパイの裏側といふ診断結果を受けた由岐は、夫の徹(樹)とそのことを実践に移した夫婦生活を満喫してゐた。然し十五年前のピンクに触れて改めて驚愕するのは、吉行由実は年を取らないのか!“埋れたまま等閑にされた性感帯が、心身のバランスを崩す”とする黒木理論に心酔する由岐は、何と大胆にも話の通らぬ和夫に代り、徹を未知子に貸し出すことを申し出る。徹的には、棚から牡丹餅感が比類ない。一方、未知子がいかがはしい新興宗教の類にでもハマッてしまつたのではないかと、満更明後日でもない危惧に気を揉む和夫は、未知子の妹・喜多川玲(青木)に相談する。一方一方、黒木は相談を重ねる未知子に、対照的な位置にある、即ち菊座深部に性感帯を有しつつ、一切登場しない妻からは相手にして貰へない吉沢順市(杉本)を引き合はる。
 薔薇族挿んで、浜野佐知1997年第二作。因みにこの年の浜野佐知は、薔薇族込みで全十三作を発表してゐる。量産型娯楽映画を実際に量産し得た、時代の何と麗しきことよ。状況が許さうと許すまいと、現に撮り上げた浜野佐知も凄いことは、無論いふまでもない。主演の成瀬美佳は、首から上を正対して捉へると、顔の曲りがスクリーンの大きさには正直耐へられないものの、柔らかな丸みも決して失はぬスレンダーなプロポーションは抜群に美しく、吉行由実との対比が非常に映えるのと同時に、青木こずえをも鼻差で凌駕する。但し、新日本映像公式にあるテレビ番組「平成女学園」出身といふ、当時的には訴求力を有してゐたであらうプロフィールは、現時点では確認出来なかつた。話を戻すとフル・ショットにして初めて画面を支へられる反面、表情から決して豊かではないお芝居の方は、何処まで譲つても御挨拶程度。それゆゑ、一応理解のない夫は余所に妻が自力で自身の性的絶頂を追及する。といふ如何にもらしい物語ではありながら、浜野佐知一流の前に出る馬力は感じさせない。寧ろ心に残るのは、さしたる罪も無いのに生活の崩壊した和夫に対する気の毒さ。破局の直接的な契機は、黒木の下から帰宅した未知子が、目撃する和夫と玲との情事。確かに、旦那を実の妹に寝取られるショックは理解に易しいとはいへ、そもそも己も己で健康道場で吉沢と一戦交へて来た帰りである以前に、重ねてその時点で既に、未知子が劇中男衆を総嘗めにしてゐること。更に映画的には。導入の強引も通り越し些か粗雑な和夫V.S.玲戦が三番手の濡れ場を無理矢理捻じ込んだものであることは、断じて忘れられるべきではない。となると久須美欽一は一旦別格として、真央はじめ×樹かず×杉本まことと男優部も色男を三枚揃へた、エロ映画はエロ映画にしても綺麗なエロ映画。といふ側面ともう一点目を引くのは、家を捨てた未知子が転がり込んだ黒木健康道場に、同様に遅れて吉沢も現れるラスト・シーンを、あたかも漸く結ばれた運命の恋人同士でもあるかのやうに堂々と描いてみせる、底の抜けたロマンティックがケッ作。(浜野佐知自宅の)庭の中央にて固く抱き合ふ未知子と吉沢を、縁側から黒木がウンウンと満足気に見守るカットの、開き直つた紋切型が清々しく笑かせる。ベタであることこそが娯楽映画の神髄、一観客の立場で、私はさう信ずる。


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