真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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エロスのしたゝり/ビデオマーケット戦
さ行
/
2023年02月14日
「
エロスのしたゝり
」(1999/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/オリジナル脚本:小林政広/企画:森田一人・朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・福原彰/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/録音:瀬谷満⦅福島音響⦆/助監督:坂本礼/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:矢島俊幸・瀬野英昭/ネガ編集:門司康子/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/制作応援:大西裕・堀禎一/助監督見習ひ:黒川隆宣/制作協力:石川三郎・永井卓爾・《株》三和映材社・《有》不二技術研究所・アウトキャストプロデュース/出演:河名恵美・葉月螢・林由美香・本多菊雄・川瀬陽太・酒井健太郎・榎本敏郎・鎌田義孝・田尻裕司・今岡信治・女池充・上野俊哉・長坂しほり・佐野和宏・伊藤猛)。
タイトル開巻、国映と新東宝に、企画とオリ脚の三人のみクレジットを先行させた上で、鉄橋を望む画の広いロング。零細企業の経理担当・木村(本多)と、駆け落ちした君子(河名)が日曜の夕方前にお盛んな隣の部屋では、一応映画監督の岡田一郎(伊藤)が、映像学院同期の親友(酒井)とカップヌードルを啜る。てつきり
髙原秀和が明後日から連れて来た
ものかと思ひきや、酒井健太郎が実に十九年ぶりともなる一昨日に実は初土俵を踏んでゐた、世紀を跨ぐ帰還に目を向けられなかつたのは粗忽か寡聞の限り。電車に乗つた岡田が、佐野和宏の電車ハッテンを被弾。立ち食ひの蕎麦屋にて―面識のない―長坂しほりになけなしの五百円を借りて行かれ、仕方なく歩いて辿り着いた親友(以下サカケン)宅では、馬鹿デカいウェリントンの彼女(葉月)にアテられる。そんな最中、新聞を取る金はまだある、岡田を木村が訪問。君子が実はヤクザの娘で、木村が隠れてほとぼりを冷ます間、岡田に君子を匿つて欲しいといふ。キナ臭い話に一旦断りかけた岡田は、報酬として木村から提示された、三十万に脊髄で折り返し首を縦に振る。
配役残り、榎本敏郎と鎌田義孝に田尻裕司は、“電車の客”と別箇に括られる乗客要員。ハッテン電車に鎌田義孝と田尻裕司、佐野が今度は長坂しほりに電車痴漢を仕掛ける車輛に、榎本敏郎が乗つてゐるのは判る。問題が、佐野が電車の中で「あれ!?」する際、画面向かつて左に座つてゐるのが坂本礼なのはよしとして、右の上條恒彦みたいな髭は誰?川瀬陽太は、君子を捜し岡田のアパートを張り込む若い衆・斉藤。実家近くで捕獲した、木村は既に処理済み。ところが君子送還に失敗した場合、斉藤も消される模様。今岡信治と女池充に上野俊哉は、君子が主演女優で、男優部はドリ爆なレヴェナントを遂げた木村といふ、劇中撮影されるピンク映画のスタッフ。“電車の客”と同様に、“劇中スタッフ”と別括られる。上野俊哉がアリフレックスを構へ、女池充はアシスタント。助監督は斉藤だから、今岡信治は何をしてるのかな。一乃湯の脱衣所から現場を抜いた引きの画に、もう一人二人見切れる。ナノかミクロな内輪ネタが受けるとでも思つてゐるのか、逆説的な韜晦のつもりなのか。同じコンビで
五年後再び蒸し返す
、この手の自虐的な世界観に当サイトは薄ら寒さをより強く覚える。岡田が長坂しほりに半泣きで垂れる、リアルはリアルでもあれなほさら惰弱な繰言には卓袱台ヒッ剥してやらうかとも思つたが、改めて後述する、一発大逆転ラストに免じて一旦通り過ぎる。
暗転してエンドロールと、屁より薄い挿入歌が起動。した瞬間の、結局もしくは例によつて、何一つ満足に片づけないまゝ映画が終りやがつた。さういふ、別の意味での“衝撃の結末”―あるいは結ばずに欠けた“欠末”―に「うは」とガチのマジで軽く声が出た、最新作「さすらひのボンボンキャンディ」が津々浦々巡回中の、サトウトシキ1999年第二作で
国映大戦
第四十七戦。さすボンの話を続けると影山祐子は結構威勢よく脱いで下さる反面、最終的には自堕落なヒロインの造形が琴線をピクリどころかヒクリとさへ撫でなかつたのと、兎にも角にも、堅気のサラリーマンに見せる気が端から甚だ疑はしい、品のなければ大した華もない、原田芳雄のボンボンが致命傷。前述した、霞の癖に匂ふエンディング曲もこの倅の仕業。何処の世界の電車の車掌が、そがーなゴリゴリ墨入れとるんなら。
開店休業状態にあるピンク映画監督の独居世帯に、火種的な若い娘が転がり込んで来る。サカケンが映画の木戸銭にも欠く話題で、岡田が「芝居よりは安いよ」だなどと、地獄のやうな遣り取りを始めた際には匙を投げ、ようかとしたのは幸にも早とちり。所々飛行機雲的な木に竹も接ぎ損ねる無駄な手数もなくはないものの、全篇を通して演出の充実を窺はせる、冴え渡る会話の中身と細かな所作が逐一超絶。退避した岡田に、電車の中から佐野が送るにこやかな笑顔。君子と木村に関する顛末もそつちのけ、暴飲暴食エピソードを楽しさうに語り続ける岡田に、呆れたサカケンが投げる「焼肉の話なんていゝんだよ」。木村の死を知り大声で泣きだした君子を、斉藤に知られぬやう岡田が覆ひ被さり押さへつける流れで突入する。即ち、ジュックジュクの熟女が「暑いはあ」とか宣ひながら、ブラウスの釦を過剰に外して若い色男を誘惑もしくは捕食する数十年一日と同じ類の、イズイズム―今上御大的な無頓着の意―スレッスレといふかそのものでしかない絡みを、岡田こと伊藤猛が「いゝんですか」。「こんなどさくさ紛れでもいゝんですか」とアクロバチックに救済する、コロンブスの卵なクロスカウンター的名台詞には感心した。伊藤猛が放つ画期的な名台詞が、後(のち)にもう一撃。二十年別居してゐる―籍を抜いてはゐないぽい―佐野と長坂しほりが、公園で煙草を呑みがてら最早旧交を温める件。相手が喋つてゐる間も、二人が脇から送る視線が凄まじすぎて、決して派手に動く訳でもないのに、激しくスリリングなシークエンスにも震へさせられた。安アパートの侘しい寡所帯に、隣の部屋から天使が舞ひ降りる。要は体のいゝファンタジー的な一山幾らの物語が、血肉を通はせ軽快に走る。忘れてた、サカケンが三撃連ねる「僕のはアバンギャルドだから」を、終に岡田が文字通り塞ぐタイミングも鮮やかに完璧。煌びやかなカットの弾幕に、いゝ意味で眩暈がする。
裸映画的には下乳すら見えるか見えないか微妙な葉月螢を殊に、二三番手を共々一幕・アンド・アウェイで半ば使ひ捨てる一方、突かれるとぷるんぷるん弾むオッパイがエモーショナルな、主演女優の裸は質的にも量的にも十全に拝ませる。最初で最後のピンク参戦で、女優部トメの位置に座る長坂しほりが単なる艶やかな賑やかしに止(とど)まらず、佐野を介錯役に気を吐いてみせる点も、大いに且つ絶対に忘れてはなるまい。何より、締めの濡れ場を見事に直結してのけた、奇想天外な大団円が出色。途方もない奇縁と、途轍もない棚牡丹はさて措けば。三度目の邂逅、長坂しほりが岡田に映画が好きであるか尋ねる切り口から流石にあんまりな、大飛躍が高く遠すぎるきらひは如何せん否めなくもない。佐野が、渾身の自脚本をそれこそ何処の馬の骨とも判らない、赤の他人に譲るのかといふ割と根本的な疑問も些かでなく拭ひ難い。必ずしも純然たる、初対面ではないにせよ。尤もほかにも特筆すべきなのが、君子と輪唱する二発目では二つ目の句が“君子の”に変形する、「僕と」、「君との」、「エクスタ」、「シー」フィニッシュは何と奔放なメソッドなのかと正方向に引つ繰り返つた。大概、もとい大体煮ても焼いても食へなんだ意図的な不安定が、軽やかに弾ける自由なり可能性に初めて結実する、当サイトがこれまでサトトシを観るか見た中では最高傑作に近い一作、そんな略し方聞いたこたねえ。
私生活に於いては恐らく嗜まぬと思しき、長坂しほりが上半身を矢鱈と屈み込ませる、ストレンジな煙草の火の点け方―腰を折らずに、ライター持つて来ればいゝよね―は兎も角、地味に最大のツッコミ処は、斉藤の名前を耳にした途端口汚く罵り始める、それまで覚束なく宙に浮いてゐた、君子の足が俄かに地に着く悪口。「出臍なのあいつ、昔つから出臍なの」。事もなげに岡田はスルーしてしまふが、基本出臍は生まれた時から出臍だらう、そこ黙つて聞き流すのは勿体ない。
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