真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人秘書 パンストを剥ぐ」(1997/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:大蔵雅彦/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:加藤義一/監督助手:立澤和博/撮影助手:諸星啓太郎/照明助手:耶雲哉治/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:佐野和宏・佐々木基子・杉原みさお・神戸顕一・雅野新・木村健二・小山亜樹子・田口あゆみ)。
 古の、麗しの大蔵王冠開巻。新都庁から、麓の公園にたどたどしくティルト。タッパのある男が佇むのを、遠目に捉へてタイトル・イン。「眩しくて目が潰れさうなんだよ」、神戸顕一が小林徹哉似の禿男(木村)をポップに揶揄する、酒を酌み交すルンペン三人組(もう一人は雅野新、この人何者なんだろ)にクレジット起動。鳩の餌を売る杉原みさおを通り過ぎて、無闇にスカート丈の短い同僚(小山)と話をする佐々木基子の手前で、徘徊する視点の主が歩を止める。改めて、全員抜いた引きの画に監督クレ。最初のカットに話を戻すと、逆に曇天を煽るラストもさうなのだが、何でまたそんなカメラの動きがぎこちないのか。
 「貴方、コーヒーが入りましたよ」。子供達も待つ鎌倉の家を出て十年、ホテルで暮らす夫で小説家の桜木文彦(佐野)に、良枝(田口)がコーヒーを淹れる。何某か体に爆弾を抱へる風情を窺はせつつ、桜木は自身最後の長篇と目した『遠き家族』に取りかゝつてゐた。オーソドックスに攻める夫婦生活の事後、外堀を埋める会話がてら桜木が妻の方を向くと、良枝は消失してゐた。
 この人等は別に消えたりしない、配役残り。書きかけの原稿を読ませて貰ふと、「イケますよ先生、この調子でサクサク書き上げて下さいよ」。神戸顕一は如何にも難しさうな大先生に、ぞんざいに接する編集者の鈴掛、流石五代暁子の脚本だ。佐々木基子は単なる秘書といふより、自らも新人賞を目指し筆を執るとなると、書生に寧ろ近いと思しき由美子。そして杉原みさおは桜木がハメ撮りにうつゝを抜かす、一度ならず部屋に呼ぶホテトル嬢・キナ。
 池島ゆたか1997年第一作は、前年上陸を果たした大蔵第二作。豆腐にかすがひの野暮を一吹き、プリミティブにツッコんでおくと美人の秘書は確かに出て来るけれど、パンストを剥ぐシークエンスなんて特にない。
 シティホテルの一室を舞台に繰り広げられる、部屋の主たる作家を中心に据ゑた色事の数々。実はど頭のロングで長身の男、あるいは徘徊視点の主にビリングを踏まへるとなほさら決して辿り着けなくもないゆゑ、要はタイトルバックでオチが読めるといへば読める、m@stervision大哥が二十年前に御指摘の通り、2003年第四作「牝猫 くびれ腰」(脚本:五代暁子/主演:本クレだと本多菊次郎)と同じネタの一作。無論、先行してゐるのが今作である以上、正確には「牝くび」を全面的な焼き直しといふべきか。m@ster大哥は種明かしの冗長さを主に難じられた上で、「秘書パン」の方に軍配を上げておいでだが、冷酷なうつし世と対照的な、甘美で栄光に満ち満ちたよるの夢の、夜の夢ならではの揺らぎを描く点に関しては、「牝くび」の方が幾分長けてもゐる。飛び道具込みで俳優部の面子的にもさして遜色は見当たらず、当サイトは「牝くび」にも分があると看做すところである。といふのも、五代暁子の暴力的な陳腐に池島ゆたかの大根演出が火にガソリンを注ぎ、主人公が文学者にしては、逐一自堕落な遣り取りの羅列が割と耐へ難い。書きかけの新人賞応募作を読んで下さいと乞ふ由美子に対し、「完成してからぢやないと読まないよ」。大学の文学サークルの先輩でもあるまいに、どうして斯くも言葉が軽いのか。たとへば山﨑邦紀辺りであれば、もつと幾らでも形を成してゐたらう雑な印象も禁じ難い。つ、いでに。後述する乱交の一夜に関し、のうのうと配偶者に語る桜木が指摘された甘えを認めると、当の良枝は何なら軽く得意気に「貴方の最期を看取るのはアタシですよね」、「だつて妻ですもの」、だとさ。放埓の限りを尽す亭主を、甲斐甲斐しく甘やかし倒して呉れやがる献身的な良妻。とかいふ男にとつてクッソ都合のいゝ造形が、五代暁子の手によるものといふ一種の利敵行為。浜野佐知の地獄突きを喰らつて、一遍血反吐でも吐けばいゝ。一方裸映画的には、とりあへず正攻法に徹する。岡惚れを拗らせる鈴掛に、桜木が由美子を宛がふ件。押し倒された由美子が、鈴掛の棹の先も乾かぬうちに和姦に応じるへべれけさには、もう立ち止まらない、それこそキリがない。無防備な隣室に潜んだ桜木とキナも交へた、並走する絡みのカットバックから、最終的には怒涛の乱交に突入する展開は大いに盛り上がる。桜木とキナが由美子と鈴掛に見つかつた際の、「キナでーす」は杉原みさおにアテ書きされたとしか思へない軽やかな名台詞。反面、桜木が募らせる猜疑の形を採つた、流れ的にどうしやうもなかつたのかも知れないが、締めの濡れ場でトメの田口あゆみを介錯するのが佐野でなく、神顕といふのは矢張り些かならず厳しくはないか。


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