真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ぞつこんヒールズ ぬらりと解決!」(2021/制作:Grand Master Company/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:塩出太志/撮影:岩川雪依/照明・Bカメ:塩出太志/録音:横田彰文/助監督:田村専一・宮原周平/小道具:佐藤美百季/コンビニ衣装制作:コヤマシノブ/特殊メイク:懸樋杏奈/特殊メイク助手:田原美由紀/整音:臼井勝/音楽:宮原周平/タイトルデザイン:酒井崇/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:愛しあってる会《仮》・Seisho Cinema Club・青木康至・木島康博・田島基博・露木栄司・BLEND/出演:きみと歩実・西山真来・手塚けだま・新井秀幸・しじみ・尾形美香・香取剛・萩原正道・星野ゆうき・西田カリナ・折笠慎也・橘さり・松岡美空・津田菜都美)。
 ど頭に轟然と飛び込んで来るのはしじみ(ex.持田茜)の裸、但し陽子(しじみ)は事の最中、男からリミットブレイクに首を絞められる。一転きみと歩実が、覚束ない様子で水晶玉を覗き込む。当たらない占ひ師の松ノ木あゆみ(きみと)が口から出任せた、悪い女の存在が吐いた当人も驚く紛れ当り。依頼人の上野(新井)が主張するストーカー被害に、あゆみが一旦は警察に頼るやう勧めながらも、用意しておいた札片を上野に見せられるや、コロッと脊髄で折り返し文字通り現金に仕事を受ける。一方、眠らせられない催眠術師の東山マキ(西山)が、案の定術のかゝらないクライアント(香取)を当身で眠らせるといふか要は気絶させてゐると、友人のあゆみが手助けを乞ひ現れる。マキもマキで金になびき、二人で張り込んでみたところ神社に夜分参る上野の背後に、大麻を携へた大絶賛挙動不審の手塚けだまが。ハッパでなくて、“おほぬさ”の方な。サクッとトッ捕まへた、この人は生業にしてゐないゆゑ、自称霊媒師の手塚茂子(毛塚)曰く、上野は悪い霊に取り憑かれてゐるといふ。さうはいへ霊なんぞ見えやしない旨白状した茂子と、あゆみ・マキは意気投合。以降、事ある毎度々繰り返される暴飲暴食をオッ始めた流れで三本柱に、オーピーと塩出太志のみオープニング・クレジットを先行させタイトル・イン。三人のチーム名に、悪人からマキが思ひついた“ヒール”の単語にあゆみが俄かに喰ひつき、“ヒールズ”が賑々しく結成される。
 配役残り、無駄にアクの強い尾形美香は家賃を滞納するあゆみに催促する、だけの本筋には全く関らない大家、しやうもない口癖なんて要らねえ。全身赤塗りの萩原正道は、実際上野に憑いてゐた鬼、最後は結構フィジカルに倒される。鬼は消滅、上野家のクローゼットで死んではゐかつた陽子が、アグレッシブに蘇生して上野をボコる―のとヒールズ打ち上げ―までで前半戦終了。後述する、塩出太志前作に於いては主人公を務めた星野ゆうきが、マキと同棲する彼氏・鈴木。正確にいふと、鈴木家にマキが転がり込んでゐる居候。西田カリナはDV被害の相談でマキを訪ねる上田良子で、折笠慎也がクソ夫のトシヒロ。今回あゆみん共々、量産型娯楽映画を紙一重で担保する折慎が、さりとて一欠片たりとて救ひ処のない徹頭徹尾ゴミゴミしい役。新章の火蓋を赤いワンピースの背中で切る松岡美空は、これで案外繁盛してゐるのか良子と矢継ぎ早にマキを訪ねるハナコ。この人は緑塗りの橘さりはトシヒロに憑くのは憑いてゐた、寄生虫かウイルス感覚で人から人へ憑依するサムシング。固有名詞を持たないらしく、好きな食べ物を引つ繰り返してシースーとマキに命名される。津田菜都美はあゆみとマキがバイト中の茂子を連れ出しに行く、コンビニのギャル店員・海野渚、屋号は多分「EVERY DAY」。
 塩出太志(OP PICTURES新人監督発掘プロジェクト2017⦅第一回⦆審査員特別賞)の2021年第一作は、初陣の「童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ!」(2019/主演:戸田真琴)に続くピンク映画第二作。このあと、OPP+版用に“追撮した部分から再構成した”とかいふ、ウィキペディアによる概要の意味がよく判らない2021年第二作が歳末封切りで控へ、昨年末にはフェス先行したピンク版ヒールズ第三作―OPP+的には都合二本―が、矢張り歳末に封切られてゐる。即ち、現状2020年が最終となる正月痴漢電車の運休―ないし痴漢電車ごと廃線―以来、2021年城定秀夫の「キモハラ課長 ムラムラおつぴろげ」(主演:七海なな・麻木貴仁)挿んで、二年連続正月番組の大役を塩出太志が任されてゐる格好となる。雑にいふとポッと出の塩出太志は元より、城定秀夫にせよエクセスから越して来た外様といへば外様。あれこれ思ふところもなくはないけれど、反動的な与太は一旦控へる、限りなく控へてない。
 ビリング三番手は幸か不幸か潔く温存、脱ぐのは頭二人としじみに西田カリナの四枚態勢。しじみが鮮やかな開巻奇襲をキメ、あゆみの何気ない日常風景に際し、きみと歩実が惜し気もなくか兎に角お裸を御披露なさる形で濡れ場の場数を稼ぐ誠意を窺はせつつ、双方経験値の足らない介錯する男優部と舵を取る演出部、何れにより重い責を帰すべきなのかはとりあへず兎も角、裸映画的には最低限腹は立たない、もしくは挨拶程度に止(とど)まる。同様に、全篇通して縦横無尽に飛び交ふ、間断ない細かいツッコミの弾幕に関してもネタ的には満更でもなささうな割に、俳優部のキレなのか演出のテンポなのか、微妙にオタつく手数の多さが寧ろ無理した窮屈さを覚えさせる、諸刃の剣感も否めない。後半戦序盤、二番手の絡みが一応飛び込んでは来る点も踏まへ、鬼退治とマキが上手いこと共存に漕ぎつける対シースー、手堅い二部構成は全体的な体裁を大いに整へ、はするものの。犯した罪に比して、トシヒロに対する懲悪が軽過ぎはしまいかといふ不均衡は拭ひ難く、そもそも、茂子が如何なる理由で上野を実質スタークしてゐたのかなる、割と根源的な疑問もどさくさし倒す中で結局放置されたまゝ流される。威勢よくブン回す金属バットはまだしも、もたもた失笑、もとい疾走し損なふあゆみの鈍重なローラブレードに至つては、完全に藪を突いて出した蛇。ハナコのクラファン救済でそれなりの大団円に辿り着いたかにも思はせ、大雑把な銘々のイントロとヒールズ誕生までをといふか“までは”は描く、パイロット的な印象の強い一作、別に空を飛ぶ訳ではない。もうひとつ見るから顕著なのが、貧しい画面のルック、それは見るからだらう。俳優部の顔が矢鱈白くトブのが目につく、幾ら小屋のプロジェク太性能に留保ないし譲歩の余地を残すにせよ、断じて高くはない画質については物語に引き込まれた所以なのか、段々と気にならなくなりはする。単なる慣れの問題に過ぎないのかも知れないし、要は、クレジットから容易に看て取れる布陣の如実な薄さではある。協力の中にもそれらしき面子は見当たらず、さうなると撮影部に相当する頭数が二人しかゐない。しかもうち一人は演出部兼任といふか当然演出部が本職の塩出太志、噂あるいは昔話に伝へ聞く、まるで矢竹―正知―組みたいな現場だ。まあまあ楽しめこそすれ、ワーキャー褒めそやすには特に当たらないともいへ、俗物性に嫌気が差したマキがパンチの効いた別れを鈴木にカマしての、劇中ホントに常態化してゐるヒールズ飲み食ひ会。トシヒロを催眠術で変心させるべく、チームとしての活動開始をマキが高らかに宣言する「ヒールズ始動やで!」。鮮やかなテンションとタイミングで叩き込まれる颯爽とした名台詞が、偶さか蘇つた映画を輝かせる。

 主に撮影部―時々照明部―の横田彰司と一瞬混同しかけた、塩出組の録音部でしか今のところ見かけない横田彰文は、近しい関係にでもあるのかしらん。


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