真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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優しいおしおき おやすみ、ご主人様/DVD戦
あ行
/
2022年04月24日
「
優しいおしおき おやすみ、ご主人様
」(2020/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:石川欣/プロデューサー:髙原秀和/撮影監督:田宮健彦/録音:田中仁志/助監督:森山茂雄・菊嶌稔章/撮影助手:末吉真/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:下山天・末永賢・宍戸英紀・多和田久美・高橋祐太・木原伸夫・居酒屋タコピー/挿入曲 ギター演奏と歌:石川欣/出演:あけみみう・明望萌衣・並木塔子・吉田憲明・安藤ヒロキオ・重松隆志)。
嬌声はその部屋の住人でなく、隣から洩れ聞こえて来る安マンションの一室。淡白なタイトル・イン挿んで、主演女優が床に置いたスマホと対峙、固唾を呑む。着信したスマホを、ひなこ(あけみ)は百人一首感覚の脊髄で折り返して手に取り、十六連射の速さでLINEに返信。レトリックが旧い、何を今更。「チャリ借りまーす」、廊下からの呼びかけに熱戦の真最中でも応へて呉れる、奇特な隣家から拝借した青いママチャリに跨り、ひなこは最寄り駅に出撃。“×月×日夜、御主人様から連絡頂き駅に急ぐ”、自称“マゾひな”のひなこと正しく、もしくは性的な主従関係にあるヒロシ(重松)がのつけから、画角から何からボサーッとしたファースト・カットで改札に現れる。求職活動に沈んだ―カジュアルで行くからだよ―ヒロシとひなこは、道中二人乗りを咎める交通指導員(末永賢)は適当にやり過ごし、大絶賛実名登場の居酒屋「タコピー」に。ひなこと店員のカズヤ(吉田)が、勝てば生ジョッキ一杯無料のジャンケンで無限あひこに突入する傍ら、ヒロシは来し方を十分費やして回想―途中で語り部がひなこに交替―する。係長の座でイキッてゐたヒロシが新入社員のひなこに手をつけ、一応サドマゾも仕込む。ところが妻の美代(並木)に不倫が発覚、即離婚の高額慰謝料に窮し会社の金を横領したヒロシは、退職金と引き換へに辛うじてお縄は頂戴せず自主退社、結局自己破産する。さういふ塩梅で、今は矢張り馘になりはしたひなこの失業保険で生き長らへてゐる、といふ多角的に羨ましい次第。出し抜けに若い頃の夢ではあつたらしい、小説への志向を取り戻したヒロシは、題材の出汁にする方便でひなこにカズヤを戯れに誘惑させる、いはゆる寝取らせプレイを思ひたつ。
配役残り、末永賢を除いた協力部はタコピー隊、その中で下山天は多分大将格の店員。明望萌衣と安藤ヒロキオが、大体何時でもお盛んな隣人。終盤、木に竹を接ぐそこそこの地震が一帯を襲ふ。ひなことヒロシに、お隣の四人で逃れた近所の公園。怪我人救助の男手を乞ひ、駆けつける男は髙原秀和。地味に最大のアポリアがこの地震の件に何の意味があるのだか、当サイトには心の底から1mmも理解出来てゐないのだが。
しばしば喧伝される、“三十二年ぶり”といふのは買取系ロマポの「
SEXYダイナマイト マドンナのしづく
」(昭和63/脚本:吉本昌弘/主演:菊池エリ)から数へた勘定で、あくまであるいは、純然たるピンクとなるとソリッドな都会映画の秀作「
痴漢バス バックもオーライ
」(昭和62/新東宝/脚本:アーサーシモン/主演:長谷川かおり)以来更に一年遡り、実に三十三年ぶりともなる石川欣驚天動地のピンク映画電撃帰還作、髙原秀和が連れて来た。当人的には、“「敵のOP映画」に新人の気持ちで挑んだ作品”とかいふ認識らしい、敵なんだ。といふか、ことこの期極まりないこの期に及んで未だなさういふ敵味方の二元論的思考が、己は心の棚に上げ込んだ上で、そもそもどうなのよと思へなくもない。尤も、石川欣と大蔵の接点でいふと厳密には、髙原秀和の大蔵第一作「
フェチづくし 痴情の虜
」(2018/監督・脚本・編集:高原秀和/原作:坂井希久子/主演:涼南佳奈)に於いて四足くらゐ先に、石川均名義で馬力の店内を賑はせてゐたりする。腐れドコモが越した新居に回線を繋ぎきらず、番組を知り得ないうちにKMZを通り過ぎてゐたものを、今回尼にて円盤をポチッた。交通費込みの総額だと、実はそつちの方が安く上がるのは内緒ね。
打率の決して高い訳でも別にない、ズブの外様が淫らに跋扈する昨今。オールド、もといビッグネームの復活に度肝を抜かれた余波もあつてか、今作に対する世評は概ね高い、やうではあれ。見たまゝ筆を荒げると、
佐々木浩久
と比べれば精々マシな程度、比較の対象が糞すぎる。一般公募を募つてのベストテンで二位に飛び込んで来るのは、当然石川欣の監督賞含め流石に悪い冗談にも度が過ぎるだらう。本隊の面々は腹を立てるまでもない、端的に呆れていゝと思ふ。
所詮身から出た錆の無職を拗らせた挙句、能書に谷崎潤一郎の名さへ持ち出し―雷にでも打たれてしまへ―作家志望を称する。体格からパッとしない脂ぎつた、ついでで配偶者からは放逐されてもゐる中年男に、若く可愛い奴隷女が御主人様御主人様とひたすら健気にかしづき従属する。ヒロシが度々疑義を呈するひなこのマゾヒストとしての資質以前に、単なる自堕落で場当たり的な行動に終始する、一言で片づけてしまへば甚だ幼いヒロシが果たしてサディストの名に値するのか。といふ対照的か根本的な問題については、際限がなくなるので一旦さて措く。とりあへず当サイトには、精神を論ずる資格に一層欠いてゐるのは、ひなこでなく寧ろヒロシであるやうに映る。
話を戻して禿てはゐない中年御主人様に、手放しでピッチピチの奴隷女が正体不明の勢ひで何が何だか尽くして呉れる。と、来た日には。主要客層の臆面もない欲望にそぐふ、ないし惰弱な琴線をフルコンタクトで激弾きする。よしんば数十年一日にせよ愚かで劣つてゐたにせよ、なればこそ麻薬的に甘美な一撃必殺力任せのファンタジー。たり得ておかしくもなかつた、ところが。何処からツッコむのが順番的に正解なのか最早判らない、といふかより直截には十全に構成を整理するのが面倒につき手当たり次第で火蓋を切ると、のうのうとトメに座る、男主役の重松隆志が最も顕示的な致命傷。呻きながらも内容を判然と聞かせはする、地味に長けた発声には伊達でない二十年のキャリアを覗かせ、つつ。面相もメソッドも徒に仰々しいばかりで如何せん余裕に乏しく、端から底の抜けた夢物語を、軽やかに転がすのを拒む。最初に感じた躓きを、最後まで拭ひきること能はなかつた。素人考へでしかないがかういふ役は硬軟自在の大本命・なかみつせいじか、個人的な理想としては全盛期の久須美欽一。それ、監督は新田栄だろ。ナオヒーローなら今上御大、
その面子でよくね?
もしくは監督が松岡邦彦で吉田祐健、但しその場合、ファンタジーの頭にダークを戴く。甲斐太郎×山﨑邦紀の組み合はせで、オルガン理論火を噴く、火に油を注いだ観念論の迷宮に突入してのけるのもまた一興。
キモオタがこの手の与太を吹き始めると永遠に終らないゆゑ、ザクザク先に進む、つか進め。だから欠片たりとて魅力の乏しいオッサン御主人様に、凡そ不釣り合ひな奴隷女子が兎に角添ひ遂げて呉れるんだつてば。説得力?蓋然性?そんなモン知らねえよ。とかく都合のいゝへべれけなお話にしては、パッヘルベルのカノンをお上品に選曲するのが気取つて聞こえ、悦に入つた自ギターを鳴らすに至つては直截に片腹痛い。どうせ三十二年か三年ぶり、他愛ない体面なんぞかなぐり捨て、ズンドコ鳴らしてみせればいゝのに。戯けた裸映画には、戯けた劇伴を。といふか裸映画的にも、この御仁完全に勘が鈍つてしまつたのか、と匙を投げさせかけられるお粗末な始末。顎に余らせた肉は等閑視するとして、実質三番手のビリング二番手が中盤撃ち抜く、唯一エモい濡れ場が首の皮一枚繋ぐ徳俵。御主人様主導の対ヒロシ戦を専ら強ひられる、あけみみうは端から負け戦。尺的には一時間前後、土壇場に漸く猛然と飛び込んで来る並木塔子も、美代がヒロシを喰ふ形ではあるものの、最終的には重松隆志の、文字通り尻の下に敷かれるしか能のないマグロぶりに足を引かれる。ひなことヒロシが延々もぞもぞ縄に絡まつてゐるのが、全体何を描かうとしてゐるのか即物的な節穴にはてんでピンと来ない、それでゐて乳尻を満足に抜きもしない。要はまるで締まらない締めの濡れ場には一旦思ひ止(とど)まつたものを、改めてスプーン大遠投、地の果てまで届け。貞子ばりにノートの液晶に出現した美代が、ひなこにヒロシの実も蓋もない実相を突きつける。凄まじい鬼シークエンスを繰り出しておきながら、結局着地する屁のやうなラストにも尻子玉を抜かれるかと思つた。鼻クソ以下の小説論を打つヒロシの傍ら、清々しく我関せずなひなこがアイドルの振り付け風にてれんこてれんこ踊る。主にあけみみうの手柄で狂ほしくキュートなカットが全く皆無ではない反面、丹念なロケハンの成果を窺はせる、決定力のあるショットは終ぞ見当たらず。良くも悪くも変らない日常を表出する、交通指導員の起用法。第一次NTRプレイ、の事後。それまで“焼き鳥”なり“道具”なり、符丁でのみ呼んでゐたカズヤに関し、幾分親しくなりはしたひなこが口にする“カズヤ君”といふ固有名詞に、ヒロシが「名前で呼ぶなー」と抜群の間でツッコむのには普通に声が出た。所々面白いのは面白いにせよ、総じては漫然とした一作。あ、もう一点思ひだした、枝葉を執拗に刈つておくか。カズヤがRCサクセションの大ファンで、忌野清志郎のゐない日本を捨てての渡米を夢見る。だ、などと、生した苔が朽ち果てるアナクロ造形はどうにかならんのか。土台清志郎が死んだのなんて、今作時点で既に十一年前。吉田憲明の公称鵜呑みでカズヤ当時十九歳、随分のんびりしてやがる。一歩間違はなくとも、あの髙原秀和にすら劣るとも勝らず酷い。どの髙原秀和なら、どれでも変らねえよ。ピンク映画の現在形ないし新時代を摸索するに際してこの辺りの、詰まるところ古臭いの一言で事済む人間を連れて来る意義―の有無―を、大蔵は一遍真面目に検討してみた方がいゝのではなからうか。
もう一点の二点目を思ひだしたぞ、大体無間ジャンケン一点張りの、タコピー描写の弾け飛ぶレス・ザン・手数も非感動的。“~で、あーる”、ひなこがシレッと繰り出す昭和軽薄体の衝撃は、テレビを見る見ない以前に持たないため知らないが、さういふコマーシャルもある模様につき通り過ぎる、ホントに際限がない。
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