真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れ絵筆 家庭教師と息子の嫁」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:小関裕次郎/撮影助手:赤羽一真/監督助手:高木翔/協力:鎌田一利/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・神咲詩織・成沢きさき・竹本泰志・折笠慎也・深澤幸太・森羅万象)。
 ヒール舐めのチャイナドレスで飛び込んで来るのは、2019伊豆映画「5人の女 愛と金とセックスと…」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:平川直大)から二本続けての三番手。安住慎二(竹本)が“毎日一緒にはゐられない”仲の石田里奈(成沢)に、その代りと称した指輪を贈る。さういふ立ち位置を全く意に介さない里奈と、安住がいざオッ始めようとすると安住のスマホに着信が。安住からは切られ続けつつ、執拗に電話をかけて寄こす女の、左手薬指にも指輪が。半ば強迫的に四発目をリダイヤルする、古川いおりの軽く引いた背中にタイトル・イン。アバンで特筆すべきなのが成沢きさきの、事に及ぶと紅潮する表情が素晴らしい。ピンクを観てゐて何時まで経つても不思議なのが、本篇で動いてゐる方が全然可愛い残念なポスター写真。
 役所でぼんやり掲示板を見て回る前川修(森羅)に、息子から連絡が入る。息子夫婦の高志(折笠)と陽子(神咲)が来宅しての、前川の定年退職を慰労するすき焼き、美味しさう。遺影もスルーする前川の妻は早くに没し、多分高志は一人息子。池島ゆたか2018年第一作「だまされてペロペロ わかれて貰ひます」(脚本:五代暁子)以来の神咲詩織が、かれこれ五年目の六本目。加藤義一的には、2017年第三作「悶絶上映 銀幕の巨乳」(筆鬼一=鎌田一利と共同脚本)ぶり。実家での高志と陽子の夫婦生活を十全に撃ち抜いた上で、前川は何か働き口か習ひ事でも探してみるかと再び役所へ。職員改め期間の過ぎた掲示は絶対処分するマン(深澤幸太)が無下に捨てようとする、絵画家庭教師生徒募集の直筆ポスターを救出した前川は、ポスターだけ返すつもりで記載された番号にかけてみたところ、サックサク話を進めて来る相手の勢ひに負け受講する破目に。そんなこんなな家庭教師初日、前川家を訪ねたのは、大蔵美術大学美術学部絵画学科卒の藤村愛美(古川)。素人相手に、美術理論を割と容赦なくガチる最初の授業を経て、散歩する前川は愛美が安住に追ひ縋る、何処から見ても芳しくはない現場を目撃する。俳優部の戦歴最後、別に内トラで事済みさうな嫁の七光りは、加藤義一二作前の2019正月痴漢電車「痴漢電車 食ひ込み夢《ドリーム》マッチ」(しなりお:筆鬼一/主演:桜木優希音)エキストラの前となると、竹洞哲也2017年第五作「まぶしい情愛 抜かないで…」(脚本:当方ボーカル=小松公典・深澤浩子/主演:優梨まいな)まで遡る。
 初老の男が黒髪ロングの、オッパイに勝るとも劣らず御々尻が悩ましいウルトラ美人に惚れられる。加藤義一2019年第三作は、なかみつせいじの初期造形が不用意にクソすぎて、ファンタジーが初めから成立するに難かつた前作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ=加藤義一・星野スミレ=鎌田一利)の敗者復活映画。今回は見た目はガッハッハな森羅万象に案外ジェントルなキャラクターを当て、幸薄い情愛に拗れる女が次第に懐の広い男に惹かれて行く過程が、それなりに無理なく粛々と進行して行く。今回は今回で、幾ら竹本泰志の色男を以てしても、徹頭徹尾自堕落でしかない安住の姿に、何でこんなゴミのやうな男に愛美が斯くも依存するのかサッパリ判らない難問さへさて措けば。中盤暫し女の裸が途切れる大きな代償を払つての、丁寧に敷設した伏線が苛烈に交錯し全ての外堀が埋まる一幕は、必ずしも森羅万象に頼らずともビリング頭二人だけで成立させてのけた点まで踏まへ、裸映画から裸を引いたとてなほ大いなるドラマ上の見所。中盤が薄い分終盤怒涛のラッシュを仕掛ける濡れ場の、地味に高い完遂率も灯る程度に光る。そして決して粒が大きくはないものの、幹と枝のみであつたプラタナスに、実のなるエモーション。殊更ワーキャー騒ぎたてるほどではないにせよ、キャリア的にも加藤義一がこのくらゐ安定してゐて呉れるとひとまづ安心な一作。一般映画を横目で追ふ不誠実の以前に、絡みの淡白さを突いて行けば、別に竹洞哲也なら倒せないこともないやうに思へる。

 とこ、ろで。どうにも腑に落ちないのが、愛美がその日は前川を川原に連れ出してのスケッチ。傾いて潰れ気味なのは兎も角、前川がフォークを忘れた―皿もない―ケーキを、愛美はフロム・箱・トゥ・口でフィルムだけ剝いてガブリ。当然鼻の頭や口の周りにはホイップがつき、あら嫌だうふふふ的なシークエンス。個人的にはあり得ないとしか思へないのだが、何か?WAMの一環辺りで、世の中にはケーキを手掴みで食ふ女といふカテゴリーでもあるのであらうか。


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