真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪服妻 浅く深く」(1994/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男・井上和夫/照明:石部肇/美術:衣恭介/音楽:鷹選曲/効果:協立音響/編集:井上編集室/助監督:小林豊/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:神代弓子《イブ》・二階堂美穂・浅野桃里・羽田勝博・神戸顕一・平岡きみたけ)。美術の衣恭介は、木俣堯喬の変名。出演者中神代弓子の、ヴでなくイブ表記は本篇クレジットまゝ。ついでで、DVDジャケではイヴ。
 適当にバイオリン哭くプロ鷹パニロゴから、早くも映写事故かと見紛ふ五秒の長尺暗転。開巻直後に、エンブレム刻んで来やがる。北沢小夜子(イブ)が平社員の家にしては、矢鱈な豪邸に帰宅すると夫は北海道出張の筈であるにも関らず、どうも人の気配が。恐々家内に入ると居間にて、半裸の羽田勝博が寛いでゐたりするカットの傍若無人な破壊力。アバンから、飛ばして来る飛ばして来る。開発課長の上条シンキチ(羽田)は三年前にレイプした小夜子を愛人にしておいて、重役の娘との政略結婚が決まると、部下である北沢に払ひ下げたとかいふ関係性。自身も北海道に行つてゐる体を整へてある上条が、小夜子ににじり寄つて赤転タイトル・イン。タイトルバックで、男優部の個別的具体性は廃したイヴちやんの痴態をひとまづタップリ見せる。
 明けて電話が鳴るのは、喪服妻、あるいは未亡人もののある意味お約束。電話に出た小夜子は絶句する、会社が北海道でチャーターしたセスナ機が墜落、乗客・乗務員全員死亡したといふのだ。一人殺せば事済むものを、また随分な大風呂敷オッ広げたな。自身の不在証明も崩れた、上条は複合的に慌てる。
 配役残り、大正義正常位で飛び込んで来る平岡きみたけと浅野桃里は、北沢の同期・木村と、上条に劣るとも勝らず男漁りの激しい妻、木村が漁られた側。普通に精悍な色男の、北沢遺影の主は不明、俳優部の宣材辺りに映る。二階堂美穂は木村の妻、ラストまで温存。神戸顕一は小夜子が金で雇つた、全く更生してゐない出所した連続強姦魔。
 コンマビジョンが「平成ロマン映画」レーベルで未配信旧作をリリースしてゐるのに、外王の店頭で気づいた珠瑠美1994年第二作。鈴木ハル(a.k.a.鈴木敬晴)風にいふとハル服部と再来年に結婚する二階堂美穂(ex.二階堂ミホ)にとつて、恐らく最後の裸仕事、配偶者の映画は知らん。それと、ハル・ハートリーを鈴木ハル風にいふこと自体の意味は問ふな。大閑話休題、とは、いへ。かれこれ二週間外王の敷居を跨ぎ続けアダルト棚に通ひ詰めたといふのに、情事もとい常時貸出中。何時まで経つても借りられない、マクガフィンでも追ひ駆けてゐるかの如く借りられない。終にトチ狂つた時代が珠瑠美に追ひ着いたか、野獣シネフィルが二階堂美穂の裸を狩つてゐるのでなければ、よもや前の借主はテクノブレイクでソータリー死とかしてゐるまいな、エターナル延滞か。外王に文字通り日参するのも動線が甚だ窮屈で仕方なく、遂に痺れを切らしex.DMMで円盤をポチッてしまつたものである。
 上条が周知の醜聞を、義父に揉み消して貰つた―消えてないけど―ところまでのそこそこ入り組んだ顛末を各々の、重複も厭はない説明台詞で懇切丁寧に解き解く。映画的な無為無策と紙一重の判り易さは、煙に巻かれるでなく物語が一応つゝがなく進行してゐる分、それでもまだマシなうち。紙一重といふか、そのものではある。会社主催の慰霊式当日、北沢を慮つた一種の義憤、より直截には北沢を出汁にした明後日か一昨日な岡レイジに駆られた木村が、いはゆる送り狼と化して小夜子を強姦。完遂したタイミングで、上条改め憤怒に瓦顔を歪ませた羽勝が飛び込んで来る、魔シークエンスが火を噴くのが僅か二十分、尺を1/3しか消費してゐない。ところが、もしくはここから。驚く勿れ呆れる勿れ、高速作劇はなほも加速。木村によつて初めて女の悦びを知つた小夜子が、無心の含みは留保した上で、“誰にも束縛されない自由な女”を目指し男の逆を行く女主体のセックスを希求する旨、上条に颯爽と訣別を叩きつける。そこ、だけ。ピンポイント中のピンッポイントでそこだけ慎重に切り取れば浜野佐知的な一幕で、未だ折返しも前、浜野佐知に殺されるぞ。寧ろ攻めに転じた挑発的な装ひに着替へる、イヴちやんのストリップで三十分の短篇を畳んでみせた方が、余程納まりもよかつたものを、二番手の不脱さへさて措けば。あと話を戻して、上条は兎も角、きみたけ以下認定された木村の無念を推し量るに、滂沱のティアーズが止まらない。
 以降の推移が俄然読めなくなつたにしては、右往左往が妙に猛然とした速度を維持する後半が、良くなくも悪くも珠瑠美の真骨頂。そもそも、最初に上条から手篭めにされた時点で小夜子二十歳―公称を真に受けた場合三年前となるとイヴちやん二十八―とかいふ地味なツッコミ処はこの際通り過ぎるとしても、小夜子が自宅に招いた浅野桃里を神顕に犯させる、ものかとてつきり思ひきや。“上条にこんな酷い目に遭はされた”と、先に自らをヤラせるのが不意を突いて斬新。ビリング頭の濡れ場を、下手な鉄砲であらうとなからうと些末に囚はれず執拗に数撃つ、苛烈な貪欲と捉へられなくもない。支離滅裂な行動原理がグジャグジャに混濁するのも、藪蛇な選曲や唐突なイメージの乱打同様珠瑠美の常なのだが、溜めに溜めた二階堂美穂を解禁する方便が、小夜子が自身を目覚めさせた木村の、配偶者と愛し合ふ本当のセックスを見たいとする素頓狂な願望、逆によく思ひついた。来訪した木村夫妻を迎へた小夜子は、何故か喪装。その所以が“出来る限りの自制を自分に誓つてのためなの”といふのも奮ひ倒してゐるものの、無論、殊勝に制してゐる訳がない。二階堂美穂に媚薬を盛る形で、人の家なのに兎に角夫婦生活開戦、遮二無二開戦。当然割つて入つた小夜子が、木村を強奪。呆気にとられるニカミホを余所に、騎乗位に喜悦するイヴちやんが挙句達するですらなく、適当な止め画に赤転ENDを叩き込む何時も通りの唐突なラストはもう完璧、逆の意味で。一言で片付けると酷いは酷いなりに、タマルミが凄いといへば凄いのがいふほどの当り外れも特になく、常に同じくらゐ酷い妙な安定性。要は端から判つてゐた経験則ながら、斯様な代物を酔狂にも事欠いて、わざわざ買つて見た当サイト悔恨の叫びを聞け、金返せ


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