真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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痴漢電車 百発百中/ex.DMM戦
深町章
/
2020年12月21日
「
痴漢電車 百発百中
」(1989/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:瀬々敬久/監督助手:小泉玲/撮影助手:片山浩・桑島泰弘/照明助手:京応泉/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:山本竜二・芳田正浩・橋本杏子・川奈忍・南崎ゆか・吉本美奈子・港雄一)。
藪から棒に安い戦争風の音効を鳴らしてタイトル開巻、“百発百中”にでも合はせたつもりなのか。通勤電車車内の実景を一拍挿んで、最初に飛び込んで来るのは山本竜二。兄弟分の山本竜二(以下山竜)とマコト(芳田)が、吉本美奈子を挟撃する。調子に乗つたマコトがおパンティの中まで指を捻じ込むと、途端に聞こえよがしな悲鳴をあげられる。托鉢僧(この人は本物かも)に喜捨しつつ、山竜がマコトに説教するロング。電車痴漢に開眼したマコトがうつゝを抜かしながらも、二人が電車に乗る目的はあくまで父親(家族は全く登場しない)の借金の形に母親と姉を犯した挙句、マコトの菊穴まで散らせた仇・新藤か進藤か新堂英次郎捜し。
黒田一平
でもあるまいし、人を捜すのに何故電車に乗るのかといつた原初的な疑問に関しては、度を越した吝嗇である新藤は、車なんて使はないとする方便で後々意外と律義に処理される。
新藤に青春を遠回りさせられ、床の中でくすんくすん泣きだすほど女とヤリたがるマコトを見かねた山竜は、一計を案じる。配役残り橋本杏子は、占師・高山堂学(完全なる当て字)に扮した山竜に、占はれるエルオー・藤井多美子。背後で手荷物を漁るマコトが個人情報を何やかや伝へるカンニングで外堀を埋め、すつかり信用させた多美子を―多美子の―自宅にて全身の黒子占ひに持ち込む、とかいふドリーミンなシークエンスが清々しい。川奈忍は一旦電車の中で軽く一戦交へたのち、山竜とマコトが海山保健所の職員を名乗り、トリコモナス菌の殺菌と称して急襲する人妻。その日の電車痴漢の標的を、山竜がマコトの琴線に任せるかとしたところで、リーマンに押された川奈忍が二人の間に割つて入らされるフレーミングが案外超絶。それとトリコモナス菌といふのは山竜が薬瓶を持ち歩く、豚の尻から採取した菌を純粋培養した、効能的には要は山芋のブツ。南崎ゆかはハシキョンと川奈忍に続くターゲット、トリコモナスを使ひたがるマコトを、山竜が「マンチョの匂ひが不幸」であると制するアユミ。山竜は俗物図鑑ばりの慧眼の持ち主であつたのか、降車後二人が家まで尾けてみたアユミは、漸く辿り着いたかものの弾みで巡り合へた新藤(港)から拘束された上での熱ロウにお浣腸と、何気でなくハードに責められてゐた。ちな、みに。各々のヤサは全て、津田スタを使ひ回す。一応、新藤は金持ち設定なのに。話を戻して山竜とマコトが保健所職員を名乗る際の、白衣その他小道具についても撮影所の大部屋俳優部であつた山竜がその時の伝(つて)で調達した旨、思ひのほか実直に回収してのける。
ビリング頭を山竜と芳正の二人で飾る、痴漢電車版「ばか兄弟」ともいふべき深町章1989年第五作。黒子占ひの体でおとなしく二人がかりでヤラれた末に、これといつたオチのひとつつくでないハシキョン篇に劣るとも勝らず、海山保健所の急襲を受け漸く電車内で塗布されたトリコモナスが効いて来た川奈忍に対し、山竜いはく「私共が開発した今世紀最高の治療法」と肉棒注射。川奈忍も川奈忍で「早く治療してえ」、「もつと治療してえ」と大歓喜。臆したら負けの抜けた底が天から降り注ぐ世界が繰り広げられる、穏やかな裸映画。とはいへマコトが家人と自身の失はれた青春の仇を討つ、本題は何次元の狭間に消えたのかと頭を抱へた手を放し匙を投げかけた、タイミングで三番手がばか兄弟を港雄一に誘(いざな)ふ、鮮やかな妙手が火を噴く。起承転結の転部までは、裸を映画が猛追する構成が満更でもなかつたものの。ショット単位では見事でなくもない砂の器に始まり、多羅尾伴内に破れ傘刀舟悪人狩りと来て、止めは血飛沫が水つぽい必殺仕事人。締めの濡れ場も疎かに、他愛ないパロディに終始するクライマックスが失速も通り越した完全に木端微塵。大体、マコトの尻に彫られた刺青なんて、ハシキョンと川奈忍両篇に於いてはそんな代物なかつたぢやねえか。斯様な無様な悪ふざけよりも、ウエストのヤバい細さを薄幸ルックスが加速する、南崎ゆかの裸をもつと愉しませるべきだ。序盤を潔く駆け抜ける濡れ場要員―所詮、女優部全員濡れ場要員みたいなものなのだが―かと思ひきや、再登場を果たした吉本美奈子が再び山竜とマコトの挟撃を被弾する、相変らずな日常に持ち込む力技の小団円が精々関の山の、肝心要で軸足を失した一作。ところでビデオ化に際しては、そんな大絶賛四番手に悪くいへば過ぎない吉本美奈子が堂々とパケを飾つてゐたりする、今となつては正体不明の匙加減は御愛嬌。
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