真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 隣りの太股」(1995『痴漢電車 痴漢のテクニック』の2001年旧作改題版/企画:セメントマッチ/制作:オフィスバロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:田中二郎/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:森山茂雄/撮影助手:鍋島淳裕/撮影助手:市川修/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:藤原史歩・林由美香・杉原みさお・吉行由美・山ノ手ぐり子・神戸顕一・佐々木共輔・池島ゆたか・平岡きみたけ・佐竹秀雄・寺島京一・柿木貴光・白木努・樹かず)。出演者中、佐竹秀雄から白木努までは本篇クレジットのみ。
 八十年代の残滓を引き摺るサイジングの、ダサいスーツが板につかない樹かずのモノローグで「俺の名前は藤沢和哉、二十三歳になつたばかりのサラリーマンだ」。“大きな声ぢやいへない”、藤沢に最近出来た趣味といふのがズバリ痴漢、清々しすぎて真綿色したシクラメンも枯れる。てな塩梅で、若く予想外にムッチムチの山ノ手ぐり子(=五代響子=五代暁子)に電車痴漢敢行。手マンとワンマンショーを並走、山ノ手ぐり子の尻―パンティ越し―に精を放つ。そこまで好き放題し倒しておいて、満ち足りるでなければ勝ち誇るでもなく、虚しく手を洗ふ化粧室。何故なら痴漢してゐないと不能の藤沢はその理由を、“俺から去つて行つた美保の所為なんだ”と滾らせるか拗らせた繋ぎで電車の画にタイトル・イン。日常的な痴漢行為の元凶を、フラれた元カノに求めると来た日には。釘バットをブン回しながら、雌叫びをあげ浜野佐知が小屋に突入する幻影が浮かぶ。
 何時ものやうにホケーッと電車に揺られる藤沢は、大股開くどころか、乳まで露に佐々木共輔の痴漢に悶え狂ふ藤原史歩(吉行由美のアテレコ)の痴態に目を丸くする。「今度会つたら絶対痴漢してやる」とか藤沢が明後日な決意を固める一方、降車後桃子(藤原)は佐々共から三万円を受け取る。それは会社員の副業の、イメクラのプレイだつた。
 配役残り神戸顕一は、桃子の上司・田中課長。課長風情に斯様な権限があるのか甚だ疑問だが、内定を餌に就活時の桃子を一度だけ抱き、以来入社後も粘着質に付き纏つてゐた。中盤に飛び込み、華麗なヒット・アンド・アウェイで風のやうに去りぬ林由美香が、件の美保。一濡れ場どストレートな絡みを入念に完遂した上で、玉の輿に乗り換へると藤沢にケロッと別れを告げる。恐らく杉原みさおが声をアテてゐる吉行由美は、桃子が見守る中、藤沢に痴漢される女。殆ど声は出さず、下着を絞り込んだ二次的Tバックまでしか見せない。遂に桃子が藤沢の電車痴漢に相対する現場に、池島ゆたかと変な帽子の平岡きみたけが垂涎、完ッ全に発情した杉原みさおが「オリャ!」と乱入する。本クレのみエキストラ部は乗客要員、下手に目立つうじきつよし似は誰なのか。高田宝重と森山茂雄は、もしも仮に万が一見切れてゐたとしても確認出来なかつた。佐々共は、ダブル痴漢時とラスト電車、桃子の客とは別人面でもう二回乗客の頭数―車内の撮影は全てセット―を増やす。正直紛らはしい、悪手に思へる。
 別にex.DMMで見られるものを、前の週に観た新作が滅法面白かつたゆゑ、小屋に出撃することにした池島ゆたか1995年第三作。セクハラ課長に幻滅し、イメクラ稼業でストレス解消と男への復讐を兼ねる女と、現金彼女に絶望し、電車痴漢でストレス解消と女への復讐を兼ねる男、しかも平時はインポ。似た者同士と意気投合した二人は男の回春を図るべく、再度再々度と痴漢電車に乗る。主に藤沢周りの、平成の次代では凡そ通用し得まい行動原理にさへ目を瞑れば、まゝある“起”だけでなく、起承転結の全てに電車痴漢が不可欠な展開は何気に素敵な出来。首から上は飛鳥裕子系の、美人不美人の徳俵間際で攻防戦を繰り広げる馬面とはいへ、ウエストの細さを筆頭に、主演女優も素晴らしく美しい体をしてゐる。樹かずに負けず劣らず、私服のセンスは酷いけれど。寧ろワーキャー持て囃すのは積極的に避くるべき、良質の量産型娯楽映画たる物語本体よりも今回枝葉で目についたのが、全く以て自己中心的かつ、卑小な好色漢をその限りに於いて、それはそれとして綺麗に演じ抜く神戸顕一。桃子がラブホで田中に喰はれる件、徹頭徹尾一方的なセックロスに終始するばかりか、いざ挿入するや三こすり半レベルの鮮やかな高速。にも関らず「私は上手いだらうハハハ」、と勝手か正体不明に自信満々で高笑ふ鬱陶しさ極まりない神顕の姿には、グルッと一周して心洗はれた。山宗・細川佳央・櫻井拓也らの参戦で、現代ピンク男優部の厚みが俄然増したものの、神戸顕一に代るタレントが案外見当たらない。清大だと如何せん些か―でなく―パワフルすぎて、滑稽よりも高圧が先に立つ。


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