真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「実録エロ事師たち 巡業花電車」(昭和49/製作:日活株式会社/監督:林功/脚本:田中陽造/原作:吉村平吉『実録エロ事師たち』立風書房刊/プロデューサー:岡田裕/撮影:安藤庄平/美術:柳生一夫/録音:古山恒夫/照明:田島武司/編集:山田真司/音楽:月見里太一/助監督:山口友三/色彩計測:田中正博/現像:東洋現像所/製作担当者:古川石也/出演:星まり子・二條朱実・殿山泰司・武智豊子・牧れい子・榎木兵衛・三川裕之・雪丘恵介・浜口竜哉・五條博・森みどり・玉井謙介・影山英俊・北上忠行・桂小かん・水木京一・小見山玉樹・池田誉・しまさより・大谷木洋子・近江大介)。出演者中三川裕之から浜口竜哉、森みどりと玉井謙介、桂小かん以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 東京地方検察庁、お勤めを終へるエロ事師の殿村銀次郎(殿山)が最後の段取りで、出納係の愛子(星)に売防法違反の追徴金三万円を支払ふ。いい女だと殿村が新聞紙越しに色目を呉れる愛子が、殿村の名を呼んだカットを止めてタイトル・イン。浅草の町を通過して殿村が向かつた先は、料亭「蔦の家」。三川裕之や玉井謙介ら、昭和の顔をしたオッサンが詰めかけた一室にて、五郎(北上)をマネージャーに和美(牧)と福夫(影山)の白黒ショーがオッ始まる。ところで、抜いた上での台詞まで与へられるにも関らず、清水国雄がまたしてもクレジットレスで客要員に加はる。福夫、あるいは影英がグダグダで無様なショーに、匙を投げた殿村は中座。一旦仔細は豪快にスッ飛ばすとして、興行会社の社長(雪丘)から男女の白黒ならぬ、要は百合を咲かせる白白ショーの一週間地方巡業を持ちかけられた殿村は、“花電車のマユミ”なるどストレートな異名を轟かせるマユミをまづ想起、相方は愛子に目星をつける。
 「蔦の家」をあとにした殿村が一人で水割りを舐める店に、五郎らも臆面もなく現れる。クレジットあり出演者残り、浜口竜哉と小見山玉樹に池田誉は、続けて来店するオカマ三連星。ここでコミタマの隣に、池田誉の代りにサブこと庄司三郎がゐればといふのは、矢張り欲張りか。後述する、兄弟感覚で酷似する榎木兵衛―ヒョーエが兄貴―も出るし。殿村のヤサは、アパートにしては中に入ると戸建にしか見えない「三浦荘」。武智豊子が、かつては吉原の遊郭「角海老楼」にてその名を馳せたレジェンド女郎であつた、戦後の荒稼ぎが脳にキテ以降は殿村が面倒を見る朝顔太夫、殿村の筆を卸したのもこの人。森みどり(a.k.a.小森道子)は住み込みの女中、多分ヨシエ。五條博は、福夫に業を煮やした殿村が訪ねる、女社長に囲はれ引退した名白黒ショー男役、人呼んで歌麿ボーイ。この辺りに雪丘恵介の出番挿んでしまさよりは、殿村が物量作戦で愛子を口説き落とす過程の美容師。そして二條朱実が、日本一と評される卓越した花電車芸を誇るマユミ、何故か各種資料にはジュン子とある。影山英俊ともどもハマリ役ぶりが清々しい榎木兵衛は、殿村率ゐるマユミと愛子の白白ショーに同行する、興行主・柿本。大谷木洋子は、四人での雑魚寝を成立させるべく、柿本に買収される仲居。水木京一と近江大介は、マユミがリンゴ切り―マン力でタコ糸を引き、林檎を切断する花電車芸―を失敗した際の客。桂小金治(二代目)弟子の桂小かんは、愛子がリンゴ切りに成功する際、殿村の背後の座席に座つてゐた男。時代も時代なこの頭数で珍しくロマポの俳優部を完全攻略出来たものの、しまさよりの少し前に登場する、普通に美人の喫茶店ウェイトレスに該当する名前が見当たらない。
 小屋に来れば観るが、殿山泰司を除くと皆勤する―少なくとも―星まり子・二條朱実・五條博・榎木兵衛の配役が全然違ふ点を見るに、二ヶ月半前に封切られた曾根中生昭和49年第一作「実録エロ事師たち」(脚本:下飯坂菊馬/主演:二條朱実)とは精々パラレルな、続篇でも何でもない別の物語と思しき林功昭和49年第二作。世界一周するにも厳しい、八十日間に満たないとなると流石に量産型娯楽映画が二匹目の泥鰌を狙ふにしても些か早過ぎる、全体元々どういふ企画であつたのか。
 映画は殿村が四人で温泉街をドサ回る、湯煙ロードムービーが尺の後ろ三分の一強を占める。頭三分の二弱は、折角シャバに戻つたばかりでホームタウンを離れるのを初め渋つてゐた殿村が、寂しさを紛らはせるべく旅に出る腹を固めるに至る顛末の二部構成。兎にも角にも、正しく狂ひ咲く超絶のロマンティックとラウドなエモーションとを、やさぐれた馬鹿馬鹿しさで慎ましく押し隠した前半のラストが果てしなく素晴らしすぎて、尻すぼむといふほどではないにせよ後半が脱力する、あるいは二條朱実と榎木兵衛は電車に乗り遅れた感は否めない。前半ラストに話を戻すと最初に気づくのが、あれで仁義は弁へた福夫、即ち影山英俊のプチ見せ場といふのも何気にグッと来る。二條朱実同様、中盤真のクライマックスに蚊帳の外とはいへ、憚りながら初見の星まり子―恐らく無印「実録エロ事師たち」がデビュー作―には、昭和は遠くおろか平成も終らうとするこの期に目を見張つた。エッジの効いたいはゆる男顔と文字通りの雌雄を争ふ、たをやかさを感じさせる正調美人かつ、当時「泣くなおつぱいちやん」(作詞:富永一郎/作曲:井上忠夫/a.k.a.井上大輔)なる、案外エクストリーム名曲をもリリースするに足るグラマラス。平凡な人生を諦めるかのやうにくすむ東京地方検察庁出納係と、殿村に口説き落とされ、一皮剝け華やかに開花する裸稼業の女。演技指導の成果か地力のなせる技か、対照的な二つの相を麗しく輝かせ、遂に成功したリンゴ切りに笑顔を弾けさせるラスト・ショットは、失速した終盤を幾分以上に救ふ。とこ、ろで。濡れ場ひとつ満足にこなすでない、殿山泰司を恭しく有難がるのはシネフィルに任せる、そんなに憎まれ口を叩くのが楽しいか。悪し様に罵り倒す、武智豊子との絡みは確かに絶品。反面、最期に投げる「ババア!」のシャウトの、脊髄で折り返したスピード感が泣かせる。


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