真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「カルーセル麻紀 夜は私を濡らす」(昭和49/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:大工原正泰/プロデューサー:海野義幸/撮影:山崎善弘/美術:横尾嘉良/録音:秋野能伸/照明:新川真/編集:辻井正則/助監督:飛河三義/色彩計測:村田米造/現像:東洋現像所/製作担当者:高橋信宏/音楽:奥沢散策/主題歌:「夜の花びら」 作詞:なかにし・礼 作曲:神保正明 唄:カルーセル麻紀 テイチク・レコード/出演:カルーセル麻紀・中島葵・宇南山宏・石津康彦・中平哲仟・浜口竜哉・小泉郁之助・五條博・叶今日子・島崎みどり・橘田良江・織田俊彦・溝口拳・谷文太・佐藤了一・賀川修嗣・小見山玉樹)。出演者中、浜口竜哉と五條博、島崎みどり以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 開巻と同時に主題歌起動、劇中では彫師の父親に彫られたとされる、左太股の牡丹を抜いて速攻タイトル・イン、クレジットが流れるフォーマットの安定感。ところで牡丹に話を戻すと、ウィキペディアでは薔薇とされてゐるのは何でなんだ?
 山西友夫(石津)がちびちびウイスキーを舐めながら自堕落に競馬新聞を広げてゐると、キャバレー「レディーファースト」のホステス・源氏名ミサこと鮎川涼子(カルーセル)が帰宅する。完全に水商売の女とヒモにしか見えないこの二人、厳密にはヤクザ者の池谷に、山西が退職金でナシをつけ涼子を身受け。但し墨を入れた女との結婚を嫌つた父親からは勘当された、山西が職も家族も捨てた格好の内縁の夫婦といふ関係であつた。尤も目下実質的には矢張り見た目通りホステスとヒモに過ぎず、二人はすつかり煮詰まつてゐた。そんな最中、涼子はレディーファーストのショータイムにて自慢の喉を披露する形で、歌謡曲ヒットメーカーの仙波良文(宇南山)と出会ふ。山西が池谷(中平)に競馬で三十万の借金を膨らませる一方、涼子は仙波と何時の間にか男女の仲に。帰宅してみると窮した山西に衣類・貴金属を質に入れられてゐた涼子が愕然とするその頃、山西は通ふ小料理屋の看板娘・三崎玉代(中島)と寝てゐたりなんかする煌びやかなまでのろくでなしぶり。アパートを出た涼子は、サクサク仙波先生にマンションを持たせて貰ふ。
 その他配役織田俊彦は、この人もこの人で軽快な名司会を披露する「レディーファースト」マネージャー。a.k.a.の市村博でポスターには記載される、五條博は仙波のマネージャー・石野。浜口竜哉は、仙波とミーツした夜の涼子と、今でいふアフターで連れ込みに入る常連客の秋山。小泉郁之助は小料理屋の大将・三崎英吉、関係性を明確に示す台詞に欠き玉代との間柄がよく判らないが、嫁にしては齢が離れ過ぎてゐるゆゑ男手ひとつの父娘ではなからうか。濡れ場を担当するビリング推定で多分叶今日子が、涼子に心を移した仙波に邪険にされる、石野いはく一発屋。池谷が山西に唆させ誘き寄せた涼子の、ブルーフィルムを撮る件。辿り着ける最後は、色事師の一人に佐藤了一がゐたやうな気がする。
 前年性転換手術を受けたカルーセル麻紀をタイトルと当然ビリング頭に据ゑた、西村昭五郎昭和49年第四作。とはいふもののこれが、凡そスターの看板映画とは思へない酷い扱ひ。美貌と天賦の才を認められ、栄光―と愛―を掴みかけたイレズミ者のホステスに、粘着質にもほどがある昔の男がグジャグジャ付き纏ふ。新居を探し当てた山西と涼子が外出してゐる隙に、仙波先生が一発屋を選りに選つて涼子に宛がつた筈のマンションに連れ込んでゐたり、山西と玉代が乳繰り合ふところに英吉が怒鳴り込むポップな修羅場に、時間差で山西を訪ねた涼子も現れてみたりする御都合的か脇の甘い箇所は兎も角、如何にも量産型娯楽映画的な、定石通りの下衆展開を積み重ねた果ての、テンプレの斜め上を行くどうしやうもないバッドエンドはあまりにも、といふかあんまりな無体さが圧巻。「あんた、アタシの幸せメチャクチャにするのね!」、今時の若い娘にはさうさう形にし得まい大時代的な常套句をカルーセル麻紀が放つた瞬間、清々しいほどに胸糞悪い映画を観たと思はずグルッと一周して感動した。素気ないロングから再度主題歌を暫し聴かせ、何もない水面に何故か寄つたかと思ひきや、暗転とともにエンド・マークが叩き込まれるラスト・ショットは、意味のなさが無常観に繋がつてゐるのではとか錯覚しかねないハッタリ感がある意味完璧。全盛期とはいへ如何せん些かくどいカルーセル麻紀―見せらんないのかも知れないが、頼むから寝る時くらゐ化粧を落として呉れ―よりも、不完全無欠に惰弱な山西を演じ抜く石津康彦の完成されたダメ人間芝居が寧ろ心に残る、出来が屑なのではなくクズい物語を描いたクズ映画の秀作である。


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