真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「婚前交渉 淫夢に濡れて」(2003/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:図書紀芳/照明:小川満/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/助監督:竹洞哲也/監督助手:山口大輔/撮影助手:末吉真琴・田沼加奈子/照明助手:佐藤浩太/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボーサウンド/タイトル:ホーラX/現像:東映ラボ・テック/出演:りる・林由美香・風間今日子・柳東史・丘尚輝・小川真実)。タイトルのホーラXは、竹洞哲也の変名か。
 タイトル開巻、拘束された主演女優に、鋏を手にした白頭巾の男が迫る。旧姓堀内の嶋田光葉(りる)が、鋏を用ゐた危なつかしい愛虐に悶える淫夢から跳ね起きると、隣に夫が眠る寝室には、吊るされた人形の裂かれた腹から零れた綿が降る。のも、二段構への夢オチ。「その夢は、私に忘れかけてゐた二年前の忌まはしい出来事を思ひださせた」との光葉のモノローグで、本篇突入。堀内酒店看板娘の光葉がハイエースで得意の大泉家に到着、カットの端々でこれ見よがしに邪悪な相を見せる大泉徹子(小川)に、遅いと軽く怒られる。その日大泉家では、光葉とは幼馴染でもある智也(柳)の婚約者でセントエルモス病院看護婦・杉浦洋子(林)が、徹子に御挨拶。智也と徹子は、既に故人の智也父親が、智也が三歳の時に再婚した後妻が徹子といふ関係。一見話は恙なく進行しつつ、突如淫蕩女に変貌した洋子と智也はどさくさ破局。智也はさういふ形で別れた女が洋子で六人目ともなる不可解な悩みを、光葉に打ち明ける。
 配役残り風間今日子は多分五人目、巨乳未亡人の真山みかげ。別に喪服に袖を通すでもなく、寡婦属性は藪蛇か闇雲ともいへる。丘尚輝は最終的な光葉夫・淳と、洋子を寝取る男の首から下―と声―を兼任。
 中州に2006年五月までは大蔵の直営館があつたのもあり、2002年のデビュー以来ピンクは全作追ひ駆けて来たつもりが、何故か脱けてゐた加藤義一第七作、2003年的には第三作。改めて慌てて見てみたところが、小屋に来てゐない筈がない割に不思議なことに清々しく初見の印象。仮に脳内から欠落するくらゐ面白くも何ともないにせよ、何処か一カットか二カットは覚えてゐるか思ひだすもんなんだけどな。
 他愛もない私的な繰言はさて措き、物語の核―当然尺的な限界もあるゆゑ、枝葉といふほどの枝葉が繁る訳でもないのだが―としては、智也が深く付き合つた女といふ女は、ことごとく呪はれてゐるのではあるまいか。果たして、それは一体誰の仕業なのか、とでもいつた趣向のサイコスリラー風味のサスペンス。洋子宅にてオッ始まる婚前交渉と、如何にも怪しげな風情の徹子のミシン仕事が並走。カタカタ高速上下するミシン針と、柳東史のいはゆるピストン運動とをカットバックでリンクさせる演出は、おどろおどろしいといふよりも寧ろ馬鹿馬鹿しさ寄りに可笑しく、洋子が囚はれる淫夢の中で、人形に針が一本刺される毎に、林由美香の体中の穴といふ穴を責めるバイブの数が一本づつ増えて行くポップかつ煽情的な演出は、スリラーも何もかんもスッ飛ばして裸映画的には手放しで有効。尤も、方便が卒なく繋がる一転目までは普通に決まるものの、余計な色気を出したオーラスのどんでん返し二転目は正真正銘のレス・ザン・イントロダクションぶりに、蛇に描いた足が足にすら見えない始末、ある意味見事にやらかしてしまふ。だらしない緊縛にも映えるカザキョンの偉大なるオッパイと、りるの綺麗な乳首は全く以て眼福とはいへ、土台素面の劇映画的には無惨に引つ繰り返つた卓袱台を、デフォルトで決められた上映時間が有無をいはせる暇さへ与へず締め括るといふか強制終了してのけるのが、量産型娯楽映画のせめてもの救ひ。


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