真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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駄楽ひまなときブログ
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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溺れるふたり ふやけるほど愛して
荒木太郎
/
2017年01月18日
「
溺れるふたり ふやけるほど愛して
」(2016/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/撮影助手:宮原かおり・榮穰・岡村浩代/演出:
榎本敏郎
/演出ヘルパー:冨田訓広/制作:佐藤選人・小林徹哉/メイク:ビューティ☆佐口/ポスター:本田あきら/協力:花道プロ/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック株式会社/出演:神納花・松すみれ・塚田詩織・野村貴浩・津田篤・天才ナカムラスペシャル・冨田訓広/特別出演:平川直大・淡島小鞠・ほたる)。ポスターには記載のある音楽の首里音楽研究会が、本篇クレジットには確か見当たらない。
立体ロゴとタイトル開巻、先にクレジットが流れる。天下りの工場長・長谷川修平(荒木)が、朝から枯れ果てて定時出社。派遣の工員には陰口を叩かれつつ、仕事も特に何するでもなく、新聞をスクラップしかけた長谷川は突如襲はれた激しい苦痛に悶絶。担ぎ込まれた病院で、あつさり手の施しやうのない末期癌を宣告される。とまれとりあへず職場復帰してみた長谷川に、工場の事務員・小山内美紀(神納)は、「死んでる時間の中にゐたくない」だ「このまゝ終りたくない」だとかありがちな方便で退職を申し出る。ここで神納花といふのが、今何処田中康文大蔵移籍の第三作「
女真剣師 色仕掛け乱れ指
」(2011)・第四作「
感じる若妻の甘い蜜
」(2012)以来の電撃ピンク復帰を遂げたex.管野しずか。妻・秋子(淡島)と死別した長谷川は、秋子の思ひ出も残る親が遺した家での、現在は弟・哲平(野村)夫婦との同居生活。弟嫁の千里(松)のみならず、哲平も兄の遺産に対する色目を隠さうともせず、長谷川は家に帰つても針の筵に座らされてゐた。万事に力尽きた長谷川は、飛び込まうかとした急流の畔で、傾(かぶ)いたホームレスの保志(天ナス)と出会ふ。何のためにも誰のためにもならないとこれまでの来し方を述懐する長谷川を、山﨑邦紀に気触れたのか保志は完全な芸術家と称揚する。
配役残り塚田詩織は、保志が長谷川に引き合はせる謎の女・ジャネット。水上荘の法被を羽織り、寿限無をシャウトしながら賑々しく大登場。「イン・ザ・ムード」鳴り響く中、散発的に自慢の爆乳を最短距離で誇示する「オッパーイ!」を連呼する飛び道具的三番手にして、今作唯一の清涼剤。利いた風な口を叩いた割に、結局美紀はデリ嬢に。客(ナオヒーロー)と別れた美紀と、出社もしないで徘徊する長谷川は再会する。以降美紀を取り巻く男達が、順にコバテツが客、順番を前後して冨田訓広の二役目、ナオヒーローの二役目、津田篤があがりを吸ひ取るダニ。この中で津田篤のビリングが高いのは、絡みがあるから。こちらは加藤義一2014年第一作「
制服日記 あどけない腰使ひ
」(脚本:鎌田一利/主演:桜ここみ)以来のピンク帰還となるほたる(ex.葉月螢)は、偶さか平穏を取り戻した長谷川と縁側でかき氷を食べる、多分病人友達。その他、長谷川を揶揄する派遣行員は佐藤選人と冨田訓広に、台詞のないビューティ☆佐口と、背中しか見せないもう一人。あと、ぞんざいにステージ4を告知する医師のアフレコが、クレジットは完全に素通りしてゐるけれど岡田智弘に聞こえたのだが。塚田詩織に話を戻して、それどころでなくなる前に触れておくと、塚田詩織の豪快な起用法に加へ、松すみれに秋子の秘密を明かさせるカットでは、荒木太郎の演出も冴えてゐた。
改めて後述するが荒木太郎が心配にさへ思へて来る、2016年第二作。再会した美紀を、長谷川は食事に誘ひ、食後にはソフトクリーム、締めにブランコに乗る。それだけの一日が楽しくて楽しくて仕方がなかつた長谷川は、コバテツと別れた美紀を、再び同じ店に誘ひ、ソフトクリーム経由のブランコと、かつて美紀が“死んでる時間”と吐き捨てた工場での仕事と変らない、同じことを繰り返す。脊髄反射で臍を曲げ、一旦別れを告げるも踵を返した美紀は長谷川に、「金出せよいい夢見させてやんぞ」と悪し様に詰め寄る。これは、これはこれで無力に立ち尽くすほかないダメ人間に、延髄斬りを叩き込む残酷な天使が降臨するドラマが起動したのかとときめきかけたのは、俺史上最大級空前の早とちり。風俗嬢に入れ揚げ全財産を貢いだ男は、弟嫁まで含め全てを失ひ最終的には野垂れ死に。女も女でちよろまかした金をダニに吸ひ取られるまでは兎も角、何故か男の後を追ふかのやうにみるみる消耗、挙句急流に身を投げるストップモーションがラスト・ショット。だ、などと。斯くも一欠片の救ひもないどうしやうもない物語を、荒木太郎は一体何を考へて撮つたのか。長谷川と美紀の造形なり関係性から火を見るよりも明らかなやうに、黒澤明「生きる」の翻案をチラシに謳ふまでもなく実際に取り組んでおきながら、全ての生命力を失ひ落下運動の如く死に至るのが、荒木太郎にとつての“生きる”といふことなのか?全然生きてねえよ。侘び寂びなんぞでは片付かぬ明らかに尋常ではない生命観に荒木太郎が心配にさへ思へて来る、2016年恐らく最大の問題作である。
最後にもう一ツッコミ、為にする嘘ないしは事実誤認であるのかも知れないが、健康問題でも家族との不和でもなく、中高年―男性―自殺の原因第一位は経済的な要因ぢやろ。
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