真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「獣 ‐けだもの‐」(1989/製作:バーストブレイン・プロダクツ/配給:新東宝映画/監督:佐藤俊喜/脚本:小林宏一/プロデューサー:佐藤靖/撮影:下元哲/照明:白石宏明/録音:ナガシマヨシヒロ/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/録音助手:田村亥次/編集:金子尚樹/音楽:ISAO YAMADA/助監督:上野俊也/演出助手:中野貴雄/メイク:田中ミキ/?:オオクラヨシオ/出演:朝吹摩耶・井上あんり・中村京子・伊藤清美・清水大敬・中根徹)。実際のクレジットは人名ローマ字のフランス語、洒落臭いことしやがつて。人名の片仮名は漢字に辿り着けないのと、オオクラヨシオの担当はフォントが小さくて判読不能。脚本の小林宏一は、小林政広の前名義。
 “Les Films BURST BRAIN PRODUCTS Presentent”、とフランス映画気取りの開巻、鼻を摘む。“MAYA ASABUKI et”とクレジットが続いて、キャップの脇からロン毛を覗かせた―ウィッグかエクステかも―中根徹。“幸運て奴は思ひがけない時にやつて来るものだ”、“あの時の俺は正にさうだつた”、“尤もそれも幸運だとしての話だが”と、早速暗雲の立ち込めるモノローグを連ねてタイトル・イン。中小広告代理店「朝日エージェンシー」に勤務する高木洋一(中根)が、喫茶店で行儀悪くランチを掻き込む。相席を要求された、赤いボディコンの女・紗耶(朝吹)に心奪はれた高木は、一応明日の再会を約し一旦は店を出ておいて、踵を返し最終的にはサクサク紗耶とホテルに入る。紗耶と逢瀬を重ねる高木は紗耶は何でも自分の求めに応じ、そのことを自ら望んでゐるやうだと勝手に解した。
 配役残り中村京子は、高木V.S.紗耶第一戦に入る直前に、別室の回転ベッドの上で乱れる女。映るのは正真正銘本当に一瞬だけの、凄まじい裸要員、因みにお相手の男は布団の中。伊藤清美は、高木の妻・明子。高木V.S.紗耶第二戦の中途で飛び込んで来る清水大敬と井上あんりは、高木先輩のカワシマと、同僚のミチコ。但しその間柄は、会社の応接室で仕出かしてゐた高木―とミチコ―が、ホテルから帰社した高木と鉢合はせるまで語られないゆゑ、あくまで飛び込んだ時点では、木に濡れ場を接いだ感も強い。ミチコがカワシマとの関係を理由に婚約を解消する一方、カワシマは元来の独身主義を決め込んでゐた。高木・ミーツ・紗耶の件に話を戻すと、高木後方の席に見切れてゐるのが、どう見ても平勘に見えて仕方ないのだが。
 演出意図もあらうが、平素の凡そ目の焦点も合はない心許なさとは正しく対照的に、絡みに入るやズボズボだグイグイだグニョグニョだビラビラだと無闇にオノマトペを乱打する、いはゆる淫乱系へと変貌。芸としての成立具合から察するに、恐らく後者が本来の持ち味なのではなからうかと推測する主演女優を擁した、佐藤俊喜(現:サトウトシキ)デビュー作。カワシマが結局叶へられなかつた人生の理想は、女を気儘に抱いて一緒にゐたい時はゐて嫌になつたら別れる。カワシマ曰くさういふ男女の付き合ひ方が犬猫には出来て人間には出来ないといふのが、ピンク映画らしからぬ公開題のこゝろ。単なるセフレぢやねえか何を大仰な、とザックリしたツッコミは兎も角、片や、実は“僅かなホテル代と喫茶店代で思ひのまゝになる女を所有して”ゐた、といふのが高木いふところのラック。今作面白いのが、フランスかぶれと全篇を通して臆面もなく垂れ流され続ける、勿体ぶつた割に中身の殆どない中根徹のモノローグ。あと生活感の欠片もない高木家の描写―階段の踊り場に電話が置いてある、訳の判らないロケーションは何なんだ?―と、取つてつけたやうな開巻に繋がるラストさへさて措けば、終盤カワシマが身から出た錆で文字通り痛い目に遭ふまでは物語らしい物語が起動するでもなく、各々キッチリ撮り上げた濡れ場濡れ場を淡々と積み重ねるに終始する。案外裸映画として順当に仕上がつてゐる点に関しては、後に四天王の一角としてシネフィルに持て囃される浅いパブリック・イメージからすると意外にも思へた。結局見通した末の、フランス語クレジットには改めて腹が立つのだけれど。


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