真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「花芯の刺青 熟れた壺」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:小沼勝/脚本:松岡清治/プロデューサー:伊藤亮爾/企画:奥村幸士/撮影:森勝/照明:川島晴雄/録音:福島信雅/美術:土屋伊豆夫/編集:西村豊治/音楽:新谷武治/助監督:高橋芳郎/色彩計測:森島章雄/踊り・振付:花柳幻舟/刺青:凡天太郎・河野光揚/現像:東洋現像所/製作担当者:田中雅夫/出演:谷ナオミ・北川たか子・蟹江敬三・中丸信・花柳幻舟・長弘・結城マミ・谷文太・宮崎あすか)。出演者中、谷文太と宮崎あすかは本篇クレジットのみ。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”、なのか?
 右オッパイから舐めた、歌舞伎役者の彫物を背負つた背中にタイトル・イン。京都での卒業制作の写真撮影から吉野たか子(北川)が帰京、クレジットと連動して帰宅。饒舌なメイン・テーマ―実際には樋口康雄によるものらしい―が鳴り止むのを待ち、たか子は人形作りに没頭する義母・みち代(谷)にカメラを向ける。後妻として結婚後、半年で一切登場しない夫とは死別したみち代は、以来十年歌舞伎ものの人形師として女手ひとつでたか子を育て上げたものだつた。人形問屋の貝島(長)が、料亭にて一服盛つたみち代を手籠めにする。朦朧とする意識の中、歌舞伎座出入りの鬘職人の娘であつたみち代は、娘道成寺を十八番とする歌舞伎役者・尾形珠三郎(花柳)に女にされた過去を想起する。家にまで押しかけた貝島をたか子は撃退するも、その場を目撃しショックで飛び出してゐたたか子が交通事故に遭ふ。病院に駆けつけたみち代の前に現れた、飛び出したたか子を撥ねた男・尾形ヒデオ(中丸)は珠三郎の名も襲名する、珠三郎の忘れ形見であつた。
 配役残り結城マミは、貝島のファースト・カット、みち代の来社を伝へる社長室で抱かれてゐたエプロン姿の女・芳子。満足に造形の語られることもなく、後にも先にもそこにしか出て来ない清々しいまでの裸要員。中丸信よりもビリング上位の蟹江敬三は、料亭を離脱後みち代が急な雨を逃れた軒下で最初にミーツする、彫師・辰。みち代の友人で歌舞伎の造詣も深い飲み屋のママ・冬子は、花柳幻舟の二役目。谷文太と宮崎あすかには、手も足も出ない。
 エクセスが進んで回してゐるのか、小屋が好んで呼んでゐるのか、兎も角小沼勝昭和51年第四作。運命的に出会つた色男を巡る、母娘の大雑把な愛憎劇。花柳幻舟が絢爛に舞ふ尾形珠三郎のイメージ・ショットは確かに昨今には逆立ちしようが何しようが撮れまいが、それと一本の映画としての面白さなり出来といふのはまた別の問題。乞はれて自ら彫つた“花芯の刺青”に、辰がホラー映画感覚で恐れ慄くのは振りきれたシークエンスともいへ、偶像崇拝を禁じたイスラム法でもなからうに、観音様を映すことを禁ずる律に無策な正面戦を挑み、むざむざ完敗を喫した画には間抜けさも禁じ難い。ラスト二十分で猛どころか超加速するみち代のエモーションには正直理解に遠いまゝに、どんなに無理から拡げた風呂敷とて、主人公が死ねば畳めるとでもいはんばかりの、どさくさ紛れスレスレの唐突なラストまで一直線どころか垂直落下。輝かしいほどのクリシェぶりを爆裂させ、泣き崩れるヒデオが笑かせる。とかくロマポだ、やれ小沼勝だやれ谷ナオミだやれ蟹江敬三だと、やれやれとでもいつたところだ。ブランドなり名前に囚はれぬ付き合ひの悪いピンクスにとつては、ワーキャー持て囃すに足る一作ではない。


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