真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「盗撮ファミリー 母娘ナマ中継」(2014/製作:ラボアブロス/提供:オーピー映画/監督・脚本:田中康文/撮影監督:下垣外純/編集:酒井正次/音楽:小鷹裕/助監督:菊島稔章/監督助手:奥本裕也/撮影助手:大坪隆史・藤井良介/編集助手:鷹野朋子/応援:小林徹哉/メイク:ビューティ☆佐口/出演:佳苗るか・里見瑤子・月美弥生・柳東史・世志男・津田篤・岡田智宏・北川帯寛・和田光沙)。クレジット終盤に力尽きる。
 公園をホテホテ歩く佳苗るかが、ジョギング中の北川帯寛と擦れ違ふ。北川帯寛に佳苗るかが心を奪はれてゐる風情を窺はせると、劇伴が起動しタイトル・イン。その夜の竹内家、誰の蔵書なのか少女コミックで埋め尽くされた部屋。同級生の友達・茜と電話で話す女子大生―大学周りのロケは早稲田周辺―で多分一人娘の美織(佳苗)は、キャッチが入つたと電話を切る茜の態度に女の友情の儚さを嘆く。美織がカルピス・ウォーターを取りに台所に向かふと、父・浩介(柳)はヱビスと枝豆で晩酌をやつてゐた。そこにパックの白い顔で現れた母・加奈子(里見)と、浩介の夫婦生活は結局浩介が拒み不発。一方、実は未だ生身の男を知らぬ佳苗はローターを持ち出し、北帯をオカズに自慰。すると画面手前に悶える美織を置いて、部屋の壁に佳苗るかと北帯の濡れ場をドーンと映写する大胆な演出は裸的にも映画的にも映える。ところがその模様は、竹内家の表に停めた車の中から蕪木(世志男)に盗撮されてゐた。世志男の煙草てマルメンライトなんだ、哀川翔や瀬々敬久と同じだ。茜(和田)に連れられ行つた合コンで知り合つた院生・南部(津田)と、美織が地味に距離を近付けつつあるある日、例によつて擦れ違つたテコンドー教師とのウォン・ビンビン(北川)は、帰国せねばならなくなつたと出し抜けに美織に告白する。
 若干前後して配役残り、美織がビンビンの求愛を被弾する前段、攻撃的な胸の谷間を見せつけ飛び込んで来る月美弥生は、出張先での浩介の火遊び相手・愛美。首から上は幾分垢抜けないものの、魅惑的なトランジスタ・グラマーと驚異的な腰の括れが棹の琴線を激弾きする、超絶ボディを誇る。エロ映画のエキスパートたるフィルム・ハウス勢を主としたエクセス重戦車軍団が事実上退役した今、浜野佐知に任せたい逸材、清水大敬もいいかも。ビンビンは篭絡した美織の目隠しされた事後の写メを、美織のスマホから加奈子のガラケーに送信。岡田智宏は、美織を誘拐したとする蕪木に加奈子が誘惑することを指示される、偶々竹内家を訪ねて来た興亜生命セールスマン・高野。サクサク上げた応接間、加奈子がわざと高野のズボンにコーヒーをこぼす火蓋がケッサク。当然その様子もモニタリングする蕪木のツッコミも、ここは劇中僅かにクリシェのクリシェぶりを効果的に加速する。それと、チラッとだけ見切れる茜の彼氏は、菊島稔章でも田中康文でもないゆゑ奥本裕也?
 何故か大蔵公式はコメディとして推す、田中康文2014年第二作。といつて、劇伴の軽妙さを除けば然程も何も笑ひ処がある訳でもなければ、終始平板な画作りにも足を引かれ、予想外のネットワークで繋がる盗撮隊の面々がギャラを奪ひ合ふ件以外には、特段シークエンスも弾まない。定番中の最強定番・黒のセルフレームと、ロリッロリした扮装がエクストリーム・キュートな主演女優。ゲリラ的に爆裂するダイナマイト級の三番手に、中盤の長丁場を背負ひ抜く、その内二十年選手ともなると女優としては十二分にレジェンド枠の里見瑤子。大概強力な三本柱を擁しながら、演出部・撮影部双方の非力に阻まれ下心の盛り上がりにも大満足には至らない始末。荒木太郎や国沢実はおろか、加藤義一や竹洞哲也にも正直望みは薄く、しかも後ろからは山内大輔やよもやの今岡信治までもが猛然と追ひ駆けて来る中で、田中康文に小さく纏まつて貰ふ場合ではない。重ねて筆を横滑りさせると、2010年代ピンク映画の依然最高傑作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)以来、強ひられてゐるのか自発的なものなのかは与り知らぬ以上一旦兎も角、兎に角森山茂雄が長く沈黙し続けてゐるのも全く以て全身全霊を込めて如何なものか。今作に話を戻すと、最終的には美織が眼鏡をオミットする、この星の上の数少ない真の美に唾する人類史上最大の大罪も、当然断じて酌量の余地なく看過し難い。


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