真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「背徳の海 情炎に溺れて」(2014/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:小山悟/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:酒村多緒/スチール:阿部真也/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:友田彩也香・翔田千里・倖田李梨・山本宗介・那波隆史・岡田智宏・津田篤《友情出演》・森羅万象)。出演者中、カメオの津田篤は本篇クレジットのみ。
 BFFロゴに風音が被さる開巻、軽装の友田彩也香が、赤い鼻緒の下駄を脱ぎ海に入る。一方茂みの中から、フラつく足下がサマにならない山本宗介が現れる。自死を図つたのではないのか、一頻り波に洗はれると浜に戻つて来た友田彩也香を、山本宗介はインスタントに陵辱。事後、友田彩也香が果てた山本宗介の首筋を見詰めタイトル・イン。温(ぬる)いフォントが、映画全体の硬質なトーンとのミス・マッチ甚だしい。
 淡路夏陽(友田)は自身を犯した横山直也(山本)を何と自宅に招き、アラスカ産と知るまで焼き魚には箸をつけない飯をも振舞ふ。そこにポン酒を携へた、地場の工場長・野嶋勲(森羅)が夏陽の家族の弔問に訪れ、軽く夏陽の体にも手を出した上で追ひ返される。三年前、夏陽は漁師の父・鉄(那波)と母・香澄(翔田)。鉄の弟子筋で、夏陽と結婚を見据ゑた仮谷佐武郎(山本宗介の二役)と幸せに暮らしてゐた。ここで、松原一郎(≒下元哲)第二作「ブログ告白 熟女のエロい尻」(2006/脚本:水上晃太・関根和美/ちさと名義で主演)以来、まさかよもやの翔田千里ピンク復帰には驚いた。まだ来てないけれど、清水(大敬)組で二十年ぶりの大蔵再上陸を果たす加山なつこ、ex.逢崎みゆの青山真希に続く衝撃である。話を戻して、ところが金にはならない漁業に見切りをつけた野嶋は、工場誘致を画策。貧しさに厭き、大勢が野嶋に同調する中鉄らは海を汚染する工場建設反対を主張。いはゆる村八分の状態に置かれたある日、夏陽が一人待つ淡路家に、鉄と香澄と佐武郎は帰つて来なかつた。やがて酒瓶の転がつた無人の舟が沖で発見、三人は舟で酒を飲んだ末に、海に落ち死んだ形で事故処理された。
 配役概ね残り岡田智宏は、先の開けぬ海を一斉に捨てた周囲に与さず、鉄を慮り野嶋の誘ひに二の足を踏んでゐた大槻健太。三本柱にしては絡みが短い倖田李梨が、大槻との祝言を周囲に反対されて、ゐる所以が確か劇中には見当たらない内縁の妻・瀬戸暁美。その他鈍器を手に三人に迫る物騒な二人組は、多分演出部。横山直也の身許を洗ひ、野嶋から報酬を受け取る挙動不審の男は小松公典。直也に半殺しにされる男は血塗れで判らん、惨状を目撃し、悲鳴を上げる女は初めから判別出来るやうに抜かれてはゐないが、背格好だと友田彩也香?
 第27回ピンク大賞で優秀作品・監督・脚本・主演女優・男優の各賞を嘗めた、竹洞哲也2014年第三作。一旦死にかけて、結局死んだ海町を舞台に、意固地なリベンジャーの前に、非現実的、あるいは虚構的にリベンジャーの許婚と瓜二つのストレンジャーが現れるところから始まる物語。友田彩也香には、ワーキャー騒ぐほどの決定力は別に感じなかつた。寧ろクリア過ぎる撮影にも足を引かれてか、二戦目となる友田彩也香は薄さは感じさせない割に矢張り軽く、本来ならばサポートに回るべき山本宗介も、精悍なビジュアルは申し分ないものの、いざお芝居の方はといふと劣るとも勝らず心許ない。尤もこの辺りは、何れも随分マシな部類だと観念するほかあるまい。それと、鬱屈した作品世界に親和してゐるとの見方もあり得るのやも知れないが、正直ロケ中あまり天候に恵まれはしなかつたのでは。何処か知らないが折角の遠征を仕掛けながら、格好のロケーションがそこら辺に幾らでも転がつてゐさうに関らず、決定力のあるショットには終ぞお目にかゝれなかつやうに映る。対して見所は綿密に編み込まれた脚本と、覚束ないビリングをトメで締める量産型娯楽映画界の重鎮、その名も森羅万象。唯一打つた下手は、直也の位置情報を蛇の道に流したこと。一見ふてぶてしく強欲な諸悪の根源に思はせつつ、実は野嶋が己(おの)が身を犠牲にしてでも全てを愛してゐた怒涛のごんぎつね展開を通して、悪漢もとい圧巻の貫禄で重量級のドラマを支へ抜いた森羅万象が、美味しいところを全部持つて行く、ものかと思ひきや。地味に光つてゐたのが、何気に劇中最たるエゴイストに扮した岡田智宏。妊娠した暁美に堕胎を迫る、薄笑ひを浮かべた複雑な表情が出色。文字通りの一昔前には、絵に描いたやうなハンサム好青年か、対照的に戯画的なツッパリ。基本その二つきりしか抽斗を持たなかつたあの岡田智宏がと思ふと、隔世の感に近い興を覚えた。要所要所で森羅万象の脇を固めるポジショニングも重要に、画的にも野嶋が大槻宅に口説き落としに行く際の、ザラついた画調が最も印象に残つた。

 配役最後津田篤は、素人衆の浅知恵に、ザクッと冷や水を浴びせるプロの人。


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