真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 腰くだけ夢心地」(1996『痴漢巨乳電車 ゆれてはさんで』の1999年旧作改題版/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:渡部和成/編集:フィルム・クラフト/助監督:佐藤吏/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ・プロ/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/出演:かとう由梨・まりも《新人》・姫川夢子・桃井良子・吉行由実・港雄一・坂入正三・山本清彦・白都翔一)。
 車窓から見える住宅地と、一転走り来る電車の画。ジッパーを激しく下げ悩ましい胸の谷間をガンッガン見せつけるかとう由梨の背後に、スーツ姿の白都翔一が忍び寄る。セットを外からカメラが左にパンすると、来よつた来よつたとスポーツ新聞越しに様子を窺ふ港雄一。白都翔一が手を伸ばしてみたかとう由梨の尻は、あらうことかノーパン!すると斜めに捉へたギラついた港雄一の、触り易いやうにパンツ脱がしてやつたんや感謝せえよなるモノローグが差し挿まれるのは実に親切設計。量産型娯楽映画といふのは、斯くあるべしと思ふ。ミナコが達したところで、『塀の中からアイラブユー』で知られるヤクザ上がりの作家・荒木啓三(港)が「どやワシの女房の触り心地は、ええ思ひしたなう」と介入。目を白黒する純(白都)に、交叉する電車ショットを噛ませてタイトル・イン。クレジット明けると荒木とミナコ二人きりの駅のホーム、普通に煙草が吸へた時代の大らかさ。投げやりな時制移動で振り返られる顛末は、結婚以来の勃起不全に悩む荒木はある日、電車痴漢に悶えるミナコの痴態に愚息の復活を予感。集めた痴漢男にミナコを抱かせ、荒木を勃たせた者が勝ちとする底の抜けたグランプリを企画する。一方、免許証と名刺を取り上げられ、東京湾をも匂はされた純に泣きつかれたイメクラ嬢の彼女(桃井)は、母集団の増員を図り他の参加者を探すことにする。
 配役残り坂入正三は、赤ちやんに扮し看護婦スタイルの桃井良子と事に及ぶイメクラ客。看護婦の次に人妻が好きとのことで、桃井良子の口車に乗せられ一件に棹もとい首を突つ込む。吉行由実アテレコのまりもは桃井良子と同じイメクラの嬢・あすか、山本清彦はあすかの客。やまきよは純と同じく、電車の車内で荒木に捕まる。その件、凄んだ港雄一が介入するや、時代劇にて凄腕が登場する際の感覚で、如何にもそれつぽく鳴る尺八が堪らない。アテレコの主だけに止(とど)まらない吉行由実は、一旦荒木家に招集され消沈し帰りの電車に揺られる三馬鹿の、集団痴漢を被弾する女。なかなか以上に刺激的な一幕ではあるものの、ジーンズを軽く下ろされたパンティまでしか見せず、画面向かつて左にはスポーツ紙で顔は隠した小林悟も見切れる。姫川夢子はサカショーの相手をする、三人目のイメクラ嬢、清々しいまでの劇中世間の狭さは気にするな。サカショーに乞はれ、対ミナコ―あるいは荒木―の奇策を思ひつく。
 大御大・小林悟1996年全十一作中第五作、ピンク限定だと全九作中第四作。インポの強面亭主が回春を目的に、眼前で女房を痴漢師なり助平男に抱かせる選手権を仕掛ける。纏めてしまへば簡単明瞭かつ在り来りな物語ではありつつ、大御大の語り口が大雑把過ぎるため、展開のそこかしこに開いた大きく深い溝を適宜補ひながら見るか観る羽目になる。状景を空想するほかない文字情報に対し、画像媒体、殊に動画のテレビなり映画の受容に関し想像力の欠如を促す弊を唱えへる御仁は、全体如何なる名画ばかり通つて来たのか。兎も角、今作に於ける一撃必殺の決戦兵器は、今風に譬へるならば幾分地味にして、その分オッパイは大きい篠田麻里子ともいふべきかとう由梨の眼福。前半は尻を見せる程度に出し惜しみ、V.S.純・サカショーの二連戦をほぼ孤軍奮闘する桃井良子と、何れも短いまりもと―しかも脱ぐ訳ではない―吉行由実に任せた上で、かとう由梨が初めて濡れ場らしい濡れ場を披露するのは三十一分半の荒木家バイブ戦。バイブ戦ゆゑ男の体に遮られることもない、長く伸ばした美しい肢体の素晴らしさにはストレートに惚れ惚れさせられる。荒木曰くの“性の祭典”当夜、トップバッターはサカショー。最大の見せ場はここから、姫川夢子の対ミナコ奇策といふのが、自身に加へあすかも投入しての三輪の百合畑。姫川夢子とまりものエクストリームなオッパイ合はせに、かとう由梨も参戦する魅惑的なオッパイ・トライアングルは超絶。決定力の漲る第一戦、繋ぎに徹したやまきよの第二戦、それなりにドラマ的な捻りも交へた純の第三戦と連なる構成は地味に秀逸。そもそも、最大の爆発力を有した吉行由実を温存してなほ、かとう由梨から桃井良子まで、ルックスにも何ら遜色のないオッパイ班を四枚並べた布陣はあまりにも強力。何といふこともない起承転結とはいへひとまづ綺麗に纏め、裸映画的には大鉄板。プログラム・ピクチャーの大樹、枝葉の先なれど華やかに咲き誇る一作である。


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