真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「破廉恥願望 丸見え下半身」(2002『夢野まりあ 超・淫乱女の私性活』の2011年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:山内大輔/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:野田友行/編集:フィルムクラフト/助監督:城定秀夫/監督助手:江利川深夜/撮影助手:山口大輔/照明助手:増田勝/ヘアメイク:小川幸美/効果:梅沢身知子/タイトル:道川タイトル/出演:夢野まりあ・山咲小春・ゆき・しらとまさひさ・平川直大・野上正義・サーモン鮭山・柳東史)。ビリングが、オープニングとエンディングとで異なる。オープニングでは後ろ三人の順番が、サーモン鮭山・柳東史・野上正義。
 崩れたX字型に拘束された主演女優、ファースト・ショットの破壊力は申し分ない。人工臭が否めなくなくもない超絶ボディを陵辱する、余程これまで不幸な一生を送つて来たことも偲ばせる、すつかり拗らせた女一般への憎悪を振り回す監禁犯の正体は、服装は繋ぎの作業服、首から上は目出し帽の上からガスマスクを装着した怪人物―以降ガスマスク氏と仮称―であつた。ガスマスク氏は、事ここに至る顛末を回想する。撮影は三日目と思しき―後述する―三年前、ここでは一貫して胸元から下しか抜かれないガスマスク氏は、高校の掃除夫として働いてゐた。しらとまさひさと平川直大は、イケメン高校生のカオルと、大胆にも金髪の同級生・石川。石川の不敵な造形も、恐らくは後述する要因によるものなのであらう。ガスマスク氏唯一の心の潤ひは、生徒から軽んじられる自分にも温かく接して呉れる、美しい美術教師・梶浦ケイ(山咲小春/ex.山崎瞳)の存在のみ。ところがケイは、気に入つた男子をモデルと称して美術室に連れ込んでは、絵も確かに描きつつ後に喰ふと事後赤ラークを気怠くキメる、大したタマの淫乱女であつた。日頃の感謝と愛情の印にと、コッソリ美術室を掃除しようとしたガスマスク氏が、ゴミ箱から出て来た使用済みのコンドームに愕然としたところに、カオルに続きその日は石川を伴つたケイが戻つて来る。平素の優しい顔をかなぐり捨てたケイから口汚く罵られ、石川にもシメられたガスマスク氏の、普段から傷めた心は完全に壊れる。ガスマスク氏は目出し帽とガスマスクで武装し、ケイを襲ふ。
 ケイ篇まで通過して初めて登場する柳東史が、ガスマスク氏の正体。ケイの一件で傷ついた柳東史は、ランパブに救ひを求める。ここでこちらはex.横浜ゆきのゆきは、柳東史の素顔でガスマスク氏が執心する、ランパブ嬢・リョウ。サーモン鮭山は、実家から届いたゴーヤを贈つたガスマスク氏が呆気なく袖に振られるのに対し、同じく実家からでもこちらは松茸をプレゼントしリョウをモノにする小金井。ゴーヤは論外として、松茸ならばランパブ嬢がオトせるのかといふのも、よく判らない話ではあるが。兎も角ガスマスク氏は、再びリョウにも狂気の矛を向ける。
 ケイとリョウに連敗した柳東史は、今度は売れつ子ソープ嬢の伊藤深雪(夢野)に辿り着く。そこに学習能力を欠くとのツッコミ処を見出すのは、だから後述するのでもう少し待たれたし。果てには同じソープ店で働き始め偶さかの平定を見出すガスマスク氏ではあつたが、実は就職の決まらぬ大学四年生でもあつた深雪は、上客の一流企業社長・矢崎(野上)の秘書の座を射止め、店も辞めることに。例によつて深雪から悪口雑言を浴びせられかけた柳東史は再々度ガスマスク氏に変貌し、漸く展開は開巻に連なる。
 それまでは残虐Vシネで名前を売つた山内大輔の、大難産の末に何とか撮り上げられたピンク映画第一作。盟友・山内大輔と共に、今作がピンク映画初陣となるサーモン鮭山が御自身のブログで明らかにしてゐる騒動の内幕を、書ける範囲で改めて整理すると。諸事情につき、撮影初日が壊滅。文字通り夜を徹した、山内大輔と城定秀夫による脚本の大改稿を経て、演者には物語の全体像が全く見えないまま撮影再開。挙句に柳東史の拘束が二日目で解けてしまふ為ガスマスク氏役に、最終的には平川直大と城定秀夫に江利川深夜まで含めた、驚愕の四人一役いふならば“クォーター・ロール”を敢行したといふもの。本来ならば常々、小屋に木戸銭を落としただけの素面の観客として、裸の裸映画に相対することを宗としてゐるところではあるのだが、今回はさういふ裏逸話を事前に知つてゐたこともあり、あはよくばシーン毎のガスマスク・マシーンズの特定をも試みんと、下世話な色気も抱いて観戦に挑んだものである。したところが、各ガスマスク・マシーンの特定はおろか、壮絶な悪戦苦闘の存在すら微塵も感じさせない。エクセスの惨劇を―表面的には―回避した抜群の三女優に、社会不適応のダメ主人公がルサンチマンを暴発させる。女々を捕まへては犯し捕まへては犯す、純然たるハード系のピンク映画におとなしく仕上がつてゐることには、大いに驚かされた。既に柳東史は現場に存在しない、三日目をタップリと使ひボリュームを稼いだと思しき、ケイ篇に於いてガスマスク氏の表情が執拗に回避されることに関しては、強ひていふならば不自然と思へなくもないものの、ガスマスク・マシーンズの識別は、素人目にはまづ不可能と思はれる。山内大輔の名前以外には何も知らずに観る分には、逆に平板な出来栄えに見えかねないのかも知れないが、その頑丈な論理性が、人知れず火を噴いたステルスな一作。端的には単純なエロ映画に過ぎない以上、名作だの傑作だのと騒ぎ難いのは心苦しいところではあるが、何れにせよ、秘かに日本商業映画史に残り得る、凄い仕事であることは疑ひあるまい。


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