真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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駄楽ひまなときブログ
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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淑女の裏顔 暴かれた恥唇
荒木太郎
/
2012年01月11日
「
淑女の裏顔 暴かれた恥唇
」(2011/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:西村晋也/原題:『エマニエル2011』/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:三上紗恵子・遠藤聡/撮影助手:海津真也・玉田詠空/編集助手:鷹野朋子/協力:上野オークラ劇場、静活、ビ・ス・ク、佐藤選人/タイミング:安斎公一/出演:星野あかり・美咲恋・淡島小鞠・岡田智宏・野村貴浩・太田始・平川直大・津田篤・那波隆史)。ポスターのみ、出演者として更に別所万伸の名前が並ぶ。
“最近、しつくり行かない妻と、仕事の見つからない自分に苛立ち、早朝のアメ横を歩いた”町井智治(那波)は、薔薇を携へた伊達男(津田)に手を引かれる、金髪ショートのウィッグを着けた華美な女(星野)に目を留める。ビルとビルの隙間にて、「エマニエル、このドスケベ女め」と吐き捨てた津田篤は、華美な女・エマニエルと乱暴に事に及んだかと思ふと、何と事後は両腕を拘束した半裸のエマニエルを放置し立ち去る。慌てて助けに駆け寄つた町井が車を探す隙に、エマニエルは姿を消す。所変つてバーのテーブル席、向かひ合つて座る画面左から岩尾浩二(野村)と牧田重雄(岡田)が、エマニエルに関する噂に花を咲かせる。二人の話に耳を傾ける、正面に並んだ三人組の内、中央は荒木太郎映画常連の画面片隅を飾るイイ顔要員・ドンキー宮川(=宮川透)で、一番右は別所万伸。普通のプレイでは相手にして呉れないエマニエルは、刺激的な状況下では幾らでも男にその身を任せた。一旦袖に振られかけた牧田が、四人連れの浮浪者(エース格に太田始、残り三名、と前述三人組の一番左は不明)に犯させたエマニエルを、自身は公衆トイレで抱いた武勇伝を語る。二人の話に、初老の紳士・須山恭三(荒木)が興味を示す。エマニエルの連絡先を教へませうかと水を向けられた須山は、胸が悪いことを理由に固辞する。太田始は、後にエマニエルに身を持ち崩したスーツ姿の男役でダブル・ロールも披露。
とりあへず―ピンク映画的にも―夫婦関係を持つも、妻・葉子(淡島)との間には溝を否定し難い町井に、札幌在住の友人・樫原(電話越しの声のみ、声の主は矢張り不明)から連絡が入る。図書館司書の妹・なつきと連絡が取れない故、様子を見て来て欲しいといふ。須山がメールに貼付して寄こしたなつきの写真は、印象は大きく異なれど、エマニエルと同一人物だつた。ひとまづ町井がストーキングしてみたなつき(無論星野あかりの二役)は、全く普通の暮らしぶりで、勤めにも出てゐた。但しここで岩尾が、強引に蔵書整理中のなつきに言ひ寄る同僚役で再登場を果たすのは、些か不用意に思へなくもない。ところが、客からの呼び出しを受けたなつきは、アミューズメント・パークの手洗ひで人格レベルからエマニエルにお色直し、華麗に出撃する。赤い革のジャケットをカッチョよく決めた平川直大は、北原美奈(美咲)をエマニエルに引き渡す形で3Pに興じる盛屋亮。美奈のことを初めてのヨゴレ役に挑むと紹介するところから見ると、女を喰ひ物にする歓楽街の男にでもしか見えない造形ながら、演出家か何かのやうだ。一方、なつきが須山を訪ねる。恩師なのか主治医なのかは微妙だが、なつきのエマニエルとの二重生活は、なつき本体の精神の平定を保つ目的で、そもそも須山により勧められたものであつた。つらつらと展開は連なり、さしたるエキサイトを用意するでもないままに、町井はエマニエルとの情事に漕ぎつける。いよいよ葉子との距離を遠くする町井はエマニエルに溺れ始め、なつきもなつきで、これまではそれなりに安定してゐた、自身とエマニエルとの間に動揺を覚える。
目出度くなくも南映こと
南映画劇場
の最終番組にも選ばれた今作は、残存する南映公式サイトによると、“
多呂プロ15周年記念大作
”の第二弾とのこと。確かにといふか何といふか、美奈絡みの濡れ場の舞台が上野オークラ旧館であることに対し、殺風景なビル屋上に遺された小さな天文台風の廃屋―かつてはプラネタリウムであつたらしい―が印象的なエマニエル隠れ家のロケーションは、残念ながら南映の四ヶ月後(あと)を追ひこちらも閉館してしまつた、
静岡小劇場
跡地である。即ち、この御時勢に豪気にも東京での主要な撮影に加へて、一部静岡ロケも敢行してみせた格好になる。それは兎も角、肝心の物語自体の出来栄えは如何なる塩梅なのかといふと、これが逆の意味で感動的な、物の見事ではない清々しいまでの支離滅裂。案外底は浅かつたなつきのエマニエル変身ギミックをひとまづ軸に、町井となつき乃至はエマニエルの道ならぬ恋模様、町井と今度は葉子との夫婦物語、エマニエルに引き摺られる形でなつきの中で次第に混濁する、夢と現(うつつ)。拡げられるだけ拡げ散らかされた無駄風呂敷は、別の意味で綺麗に放り捨てられる。葉子は捨てる腹の町井を待つなつきの部屋に、飛び込ませた須山に刃物を振り回させる修羅場まで設けておいて、結局始終の一切は明後日あるいは一昨日に何処吹く風。町井は葉子と安寧にヨリを戻し、他方エマニエルをいはば便宜的なイニシエーションに、なつきはなつきで一人の女性として成熟する。だなどといふ着地点には、あまりの無造作な仕打ちに素面で吃驚した。幾分語り口が丁寧な、あるいは叙情的であるだけで、往年の小林悟をも髣髴とさせる無法な破壊力である。挙句に、荒木太郎らしいダサさを発揮した盛屋が性急に止めを刺すに至つては、塞がらぬ筈の開いた口も閉口する。腹を立てるだけの気力も萎え、そしてピンクスを途方に暮れさせかねない一作。最大出力で好意的に捉へる無理難題に挑むならば、偶然にも矢張り御大を想起した木端微塵の初陣「
THEレイパー 暴行の餌食
」(2007/監督・共同脚本:国沢☆実)に始まり、照明から貧しい第二戦「
お掃除女子 至れり、尽くせり
」(2010/監督・脚本:工藤雅典)と続き、三作何れも劣るとも勝らない今回の惨状。要は、星野あかりといふ人は、ピンク映画に際しては画期的に作品に恵まれぬ、余程特殊な星の下に生まれた悲運のヒロインなのではなからうか。最早さうとでも思つてゐないと、とてもではないがやつてゐられない。
大体が、事この期に―しかも荒木太郎が―何で、あるいは何がエマニエルなのだかサッパリ判らない辺りも、既に消えた火に油を注ぐ。下元哲が、海外ロケ×国内アテレコを観光、もとい敢行した「
淫婦義母 エマニエル夫人
」(2006/脚本:関根和美・水上晃太/主演:サンドラ・ジュリア/声:持田さつき)の方が、まだしもエマニエルといはれてしつくり来る、主演が外国人ではあるし。
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