真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「背徳義母とふしだら娘 狂喜乱舞」(2003『疼く義母と娘 猫舌くらべ』の2011年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:五代俊介/撮影:創優和/照明:野田友行/編集:金子尚樹/助監督:加藤義一/監督助手:今村昌平/撮影助手:山口大輔/照明助手:谷田守/スチール:本田あきら/音楽:はなちゃん/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/制作:フィルムハウス/出演:立花りょう・林田ちなみ・ゆき・しらとまさひさ・岡田智宏・サーモン鮭山・野上正義)。出演者中、しらとまさひさがポスターでは漢字の白土勝功。プロデューサーの五代俊介といふのは、伍代の誤記か。
 リンプ・ビズキットのリミックス・アルバム、「ニュー・オールド・ソングス」(2001)のポスターが喧しく貼られた男の部屋。成瀬小百合(立花)と、彼氏・岩崎(岡田)の情事。事後「今日は家の用事があるの」と、小百合は岩崎宅を辞す。猫の鳴き声が添へられたタイトル・イン明け、狙つた唐突が綺麗に決まる、小百合の父・和弘(野上)突然の再婚宣言。実母の消息に関しては、一切触れられず。同時に紹介された和弘のお相手は、小百合と然程歳の変らぬ零二(しらと)も連れた、直截に“夜の蝶”スメルを爆裂させる華美な女・志津江(林田)。黙つて観てゐる分には流れに騙されかけつつ、実際に我が身に起こつた出来事だと思つてイマジンしてみると、再婚宣言までは兎も角既に家にゐる後妻with連れ子と即同居開始、などといふのは、また随分とぞんざいなシークエンスではある。和弘も和弘だ、とでもしか最早いひやうもないのだが、志津江が早速フル・スイングの嬌声を撒き散らす中、食傷気味に台所で発泡酒を開ける小百合に接触した、零二は出し抜けを畳みかける事実を打ち明ける。十五で夜の仕事を始め、男を取つ換へ引つ換へして来た志津江と、零二が実の親子関係にはなかつた。零二は何時かに志津江が関係を持つた男の息子で、志津江に引き取られる形になつて以来、零二は毎晩男々に抱かれる―正確には“義”―母の声を聞いて育つた。翌日、早速早速和弘の預金通帳と印鑑をくすね志津江は外出。一方、小百合は電話で親友の栞(ゆき/但し佐倉萌のアテレコ)と連絡を取る。結婚予定といふ栞の婚約者は、小百合も話だけならば知るクラブで捕まへたとかいふ学生ではなく、同僚とのこと。他方、岩崎の部屋には、何と志津江が。小百合と二股で岩崎は志津江の要は若いツバメで、真面目に求職してゐる気配も窺へないものの兎に角無職の岩崎に、志津江が貢ぐ状態にあつた。
 当然といふか何といふか、栞がクラブで捕まへた学生といふのも実は零二で、留守中に零二が自室でマスをかいてゐた粗忽に、こゝは掛け値なく臍を曲げ成瀬家を出る腹を固めた小百合は、ひとまづ転がり込んだ岩崎の部屋にて、志津江と額面通り衝撃的な対面を果たす。リアルに壊滅させられた撮影現場を、超人的な努力で立て直した前作にしてピンク映画第一作、「夢野まりあ 超・淫乱女の私性活」(2002/主演:夢野まりあ)に於いて秘かに発揮された山内大輔の強靭な構成力は、今作の箱庭のやうな劇中世間の狭さにも、然程どころか殆ど躓かせない。たゞし、正しく一転、義母に彼氏を寝取られたヒロインが、仕返し混じりに連れ子を寝取る。ハチャメチャな逆襲に転じるに至つては、二番手・三番手に残念ながら劣るとも勝らない―新田栄映画がしばしば仕出かす惨劇ほどではないにせよ―エクセスライクなビリング頭の決定力不足が、展開全体の求心力不足に直結するきらひは否めない。強ひていふならば、二作続けて山内大輔は主演女優に祟られた格好にもならうか。尤も、一旦抜けた底を力技で引き戻さん勢ひの、漂白する志津江と零二がまるで可哀相な風に描かれるちぐはぐなラストは、端的には木に竹を接ぎかねない筈なのに、妙な余韻を残す。となると、素直な説得力を有し得るのは少し戻つて、新しい妻と息子に二日で出て行かれた、和弘の呆然ばかり。因みに、三ヶ月後に封切られる、工藤雅典の「寝乱れ義母 夫の帰る前に…」(脚本:日下由子/主演:麻田真夕)が、ほゞ同様の着地点をトレースしてゐる、そこでは実息がしらとまさひさ。更に因みにそちらにも、ゆきは矢張り濡れ場要員として一枚噛む。清々しい量産ぶりが、今となつては麗しくさへなくもない。
 配役残りサーモン鮭山は、結婚後も男遊びを止めるつもりはなからう栞の、保険感覚のフィアンセ・小金井。待ち合はせた栞に、「オーイ」と駆け寄る間抜けなファースト・カットである意味華麗に登場するや、絡みの恩恵に与るでなく、二つ目にして最後の出番はロングで抜かれる、食事後に栞と歩くガード下。長身のゆきに巨漢のサーモン鮭山が綺麗に決めるベア・ハッグは、本筋とは感動的に関らない純然たる繋ぎの一幕ながら、無駄にもとい実に素敵なショット。

 どうでもいゝけれど旧題ないし元題は、猫舌比べてどうすんだ。本当に、エクセスの仕出かすことは面白いなあ。


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