真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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自己紹介
福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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喪服姉妹 タップリ濡らして
あ行
/
2012年01月02日
「
喪服姉妹 タップリ濡らして
」(1999/製作・配給:新東宝映画/監督:榎本敏郎/脚本:井土紀州・榎本敏郎/企画:福俵満/撮影:中尾正人・田宮健彦/編集:酒井正次/助監督:小泉剛・吉田修・関根直人/応援:田尻裕司・堀禎一/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:伊藤清美・佐々木麻由子・里見瑶子・元井ゆうじ・秦国雄・田中邑季・下山次郎・陶山正夫・永井健・和田好美・木全公彦・川瀬陽太・松田政男・熊谷孝文)。出演者中、田中邑季から木全公彦までは本篇クレジットのみ。
シネキャの前にポスター・スチールで元永斉
奥秩父で葡萄園を営む大石(松田)の、五年前に死去した妻の法事。大石とその長女・文子(伊藤)、それに文子の婚約者で役場勤めの公務員・義雄(熊谷)の三人で墓を参る。大石が綺麗な棒読みで、融通の利かない娘である文子を宜しく頼む旨を、義雄に語りかけたところでタイトル・イン。
水上荘
である大石邸に戻つての鍋料理の夕食、大石は墓参りにも現れなかつた次女・弘子(佐々木)に雷を落とす。大石家を離脱した義雄が向かつたのは、同僚兼恋人の政美(里見)宅。即ち、義雄は相当のつぴきならない二股をかけてゐた。てれてれ義雄が文子との仲を深める中、政美が、義雄の子供を中絶する。その際、涙ながらに詫びる義雄がお為ごかしな方便で、生活力の欠如を嘆いてみせるのは些かどころではなく如何なものか。公務員に甲斐性がなかつたら、一体何の職に就いてゐれば所帯を持てるといふのか。義雄と文子は、弥三郎岳にデートに行く。二人が乗らうとしたロープウェーに、政美も乗り込んで来る。文子は全く知らなかつたが、義雄の不誠実に、政美は気づいてゐた。文子がそこそこ離れた場所から不安げに様子を窺ふ、崖つ縁(ぷち)での義雄と政美の修羅場。ここは繋ぎの手際が甚だ拙く、義雄か政美の故意、あるいは政美の過失もしくは不慮による事故。真相は終に語られずじまひのまゝ、縁(へり)で呆然とする義雄と駆けつけた文子を温(ぬる)い煽りで捉へた画ひとつで、政美の転落死が粗雑に語られる。政美が足を滑らせたと主張しつつ、義雄は自分が殺した風に思はれてゐるに違ひないと激しく怯える。ここも飛躍が決して小さくはないが、文子は義雄を庇ふために自首。娑婆との別れに、伊藤清美最初の絡みからカット明け、出頭すべく警察署に向かつて歩く文子の強く黙した背中が、今作のベスト・ショット。直後に何を映したかつたのかよく判らない、正体不明の現象も仕出かされるものの。数年後、出所し実家に戻つた文子は愕然とする。大石は既に亡く、葡萄園はあらうことか弘子と結婚した義雄が継ぎ、二人の間にはミユキ(多分田中邑季)とかいふ幼稚園に通ふ娘までゐた。挙句に、生前大石に可愛がられ義雄とは何気に反目し合ふ葡萄園従業員の有田(川瀬)と、弘子は密通してゐた。
そこかしこに結構潤沢なその他出演者の内、特定出来たのは政美の通夜の席、木全公彦が弔問客向かつて右。姉のポジションにあるのではと思しき佐倉萌も見切れるが、クレジット中、三本柱以外に女名は和田好美しか見当たらない。別名義といふ可能性もなくはないが、仮に、細山智明の「ボディ・スペシャル 調教」(昭和61/未見)に出演する和田よしみと同一人物であるならば、いふまでもなく佐倉萌とは別人である。どうにかしたいところではあれ、元井ゆうじもロストする。
狂ひうねる愛憎と、冬を前にした山村に否応なく漂ふ閉ざされた寂寥。何れも本来ならば目には見えぬものもフィルムの魔力で刻み込む、概ね緊張感を維持する撮影は、状況の歴史的な変化が生じつつある昨今に於いてはなほさら、頑丈に見応へがある。女の情と欲を時に静かにも重く、時に濃厚に演じ抜く伊藤清美と佐々木麻由子、まるで自身が辿る悲劇を見通したかのやうな、川瀬陽太の遠くを見やる透いた視線も素晴らしい。ただ反面、さうなるとたとへば深町章の緩やかなコメディには全く遜色なく馴染むにしても、熊谷孝文の穏やかな締りのなさはソリッドな劇調との違和感以前に、そもそも何で又ヒロインはこんな男のために破滅を選ぶのかといふ点にも躓かざるを得ず、如何せん苦しい。ただでさへ意図的に極限まで抑揚が排された演出の中、重ねて濡れ場により物理尺以上に薄められる感も否めない物語も、矢張り厳しい。さういふ、展開の中身としても映画全体の在り様としても、二重に救ひのない一作を文字通りすんでのところで正しく救ふのは、プロローグを回収するラスト・シーン。娘の不器用さを、不器用なまゝに温かく見守る父親の眼差し。その、着ては貰へぬと頭では判つてゐるセーターといへども、涙堪へて編まずにはをれない何も女に限らず人といふ生き物に、なほかつ注がれる優しい視座こそが、全ての創作物を統べるべき最も核の部分であるのではなからうかと、たとへそれが負け犬の駄々でしかなくとも、当サイトは断固として信ずる。最早論証の労は折らぬ、それが形而上的な思ひ込みに過ぎなくとも構はない。メリハリを欠きダラダラとした始終と、無体な結末の果てに、最後の最後で一等重要なエモーションを叩き込む今作を、平素の尻の穴のミクロな娯楽映画偏重からは全く齟齬を来たしてゐやがるやうに受け取られるやも知れないが、決然と買ふものである。
ところで、他愛もない余談を。今回は旧題ママによる2011年二度目の新版公開で、2003年一度目の旧作改題時新題が「喪服妻 男狂ひ」。そこまでは、元題も元題なのでまだしもとしても。2001年アドバピクチャーズよりリリースされた際のビデオ題が、「濡れ濡れ卍妻 喪服で昇天」だなどといふのは流石にあんまりだ。“卍妻”なる謎の用語の意味が全く判らない、エクセスか。そもそも、喪服にせよハーケンクロイツにせよ、劇中に登場する妻といふのは弘子ただ一人である。ヒロインを軽やかに等閑視して済ますタイトルといふのも、凄い話ではある、よくある話でしかないが。
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