真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「弁護士の秘書 奥出しでイカせて」(2006/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:茂木孝幸/監督助手:中川大資/撮影助手:矢頭知美・田嶋信/応援:田中康文・樹かず/出演:日高ゆりあ・笠原ひとみ・持田さつき・本多菊次朗・野村貴浩・竹本泰志・津田篤・池島ゆたか・山ノ手ぐり子・神戸顕一・白井里佳)。
  am/pm二階の咲坂法律事務所、所長で弁護士の咲坂真一郎(本多)が、何故かフル装備の掃除夫姿で担当する認知訴訟打ち合はせの日程を調整する電話を受ける。先方から指定された日時が、あたかも偶々空いてゐるかのやうに装ふ咲坂ではあつたが、スケジュール板上段の、咲坂の月間予定はスッカスカであつた。反面下段の、咲坂とは先輩後輩の仲にあり同じく弁護士の浜田正治は、出演するテレビ番組で“ハマショー弁護士”として人気を博し多忙を極めてゐた。ハマショー、輝かしく要らぬ小ネタだ。嫉妬心も含め浜田をタレント弁護士と揶揄しそれなりに仲良く喧嘩した咲坂は、雑用などせぬとも済むやう、秘書を雇ふことを漸く決意する。そんな訳で咲坂法律事務所に、中里ルイ子(日高)が働き始める。事務所を開く際には世話にもなつた義父に、孫の顔を見せ更なる援助も引き出すべく目下絶賛子作り期間にある妻・百合子(持田)が居ながら、咲坂は書類整理を命じた際に、ルイ子のタイトスカートの悩ましげな膨らみに催すと襲ひかかる。一旦は抵抗を見せつつ咲坂の、初めから下心を持ち採用したとのまるで弁明にもならぬ弁明に、ルイ子はコロッと体を任せる。ここで、序盤のこの時点で咲坂と百合子の夫婦生活が置いてあることについて、残らぬでもない疑問に関しては、意外に小さくはない問題であるかも知れないので終段にて後述する。
 一方浜田も、既に肉体関係を持ち、向かうの両親に会ふことも求められる彼女・青島さやか(笠原)が居るにも関らず、ハマショーさんのファンですとのルイ子の声に脊髄反射で鼻の下を伸ばす。浜田からも迫られたルイ子は、ケロッと体を委ねる。後日、女優である妻・竹田美和(全く登場しない)と離婚係争中に、当人いはく二回しかシテゐないらしい別の女から出産した子供の認知を求める訴訟を起こされた、ややこしく忙しい舞台演出家・小田ヒデキ(竹本)が、DNA鑑定用のサンプルを採取する為に咲坂法律事務所を訪れる。この件に登場する山ノ手ぐり子は、DNAサンプル採取の担当官、あるいは名前は仁科か?茶を出しに現れたルイ子は、小田の琴線にもポップに触れる。ブレスレットを落として来たふりで誘き寄せたルイ子と、小田は接近を図る。そんな中、夜の資料室で咲坂がルイ子と致してゐる最中に、折悪く戻つた浜田が出くはし騒動となる。互ひに二股をかけられてゐようなどとは夢にも思はなかった咲坂と浜田は、それぞれ既存の男女関係は解消することを宣言し、ルイ子を争ふ構へを見せる。等閑視しても構はないやうな気もするが、資料室の入り口にプレートで“資料室”と掲げられてゐるのは兎も角、二人のデスクがあるメインの一室を捕まへて、同様に“オフィス”と称する無造作な判り易さは些か如何なものか。“オフィス”て、確かにオフィスだけれどさ。いつそのこと、その“オフィス”は特に不要であらう。
 山ノ手ぐり子と登場順は前後して神戸顕一は、さやかの部屋で乳繰り合ひながら、自身が起用された栄養ドリンクのコマーシャルを見せようとする浜田をヤキモキさせる、神戸印の白アンパンCMに登場するヒムセルフ。池島ゆたかとその盟友・神戸顕一とが、池島ゆたかの監督作百本連続出演を誓い合つたといふ男と男のドラマに対しては、胸が熱くなることも禁じ得ないと同時にさうはいへ頂けないのが、如何せんこの白アンパンCMのクオリティが低い、低過ぎる点。流石に画面を汚す弊しか、少なくとも事情を知らねば見当たるまい。意地の悪い見方をすれば、まるで緩衝材かのやうに設けられた浜田のものにしても、間違つても高い訳ではないのだが。役得感を爆裂させ楽しさうに缶ビール片手に女優を抱く池島ゆたかは、百合子の浮気相手で咲坂とも懇意の不動産屋社長・内山。津田篤は、浜田に見切りをつけたさやかの新カレ・とおる。激越ないはゆるバックシャンぶりを披露する白井里佳は、遂に成立した竹田美和との離婚を伝へると共に、小田に突撃インタビューを敢行するTVリポーター。
 天真爛漫な小悪魔に綺麗に翻弄される、間の抜けた男達。史上最強のピンク五番打者・林由実香の面影を見た池島ゆたかが発掘時より絶賛し、現在進行形で重用する日高ゆりあにとつての初主演作である。とはいふものの、ルイ子はといへば言ひ寄られると、殆ど自動的なまでの尻軽さでホイホイと寝るばかり。劇中全く通り過ぎられるバックボーンはおろか、恐ろしいことにルイ子の感情らしい感情さへ十全に描かれてゐるとは凡そいひ難い。その為、終始軽快な勢ひだけならば悪くはないが、主眼をルイ子に置いて観ようとすると、全篇が良くも悪くも軽やかに上滑る印象は兎にも角にも強い。それでゐて、そんなルイ子が咲坂や浜田との情交の模様を、これで相手の男が気付かないのが非現実的に激しく無防備な携帯電話の使用法も駆使し、百合子やさやかに音声中継する荒業を仕出かしてみせるのは、この際ちぐはぐとすらいへよう。さうなると寧ろ、女優三本柱を全員彩り要員と踏ん切り、現に開巻を飾ればオーラスも締め括る咲坂と浜田による、いかりや長介と仲本工事の“ばか兄弟”ならぬ“ばか師弟”のスラップスティックとして捉へるのが、今作のより正解に近い鑑賞法であるやうにも思へる。

 メイド服を着用した女が尺八奉仕する姿を、尻から背中を舐めるカットで入ると、メイドは日高ゆりあでなければ笠原ひとみですらなく、持田さつきでありました。といふのが、百合子と内山との絡みの導入である。ルイ子そして浜田にも向けられた、妻とは十年間レスであるとする咲坂の言の真偽なんぞは、最早瑣末と徒に拘泥するつもりはない。但し、この秀逸なフェイントの印象が素晴らしく強烈であつただけに、それまでには一応顔は見せるだけ見せておいて、咲坂との夫婦生活を描く描かないとは別に、持田さつきの濡れ場は対内山戦を最初に持つて来た方が、更に出オチが効果的に決まつたのではなからうか。


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