真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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移り気若妻の熱い舌技
友松直之
/
2011年03月21日
「
移り気若妻の熱い舌技
」(2010/製作:幻想配給社/配給:オーピー映画/監督:友松直之/撮影:飯岡聖英/助監督:貝原クリス亮・安達守・菅原正登/撮影助手:宇野寛之・玉田詠空/メイク:江田友理子/スチール:山本千里/制作担当:池田勝/編集:酒井編集室/ダビング:シネキャビン/出演:横山美雪・しじみ・若林美保・畠山寛・原口大輔)。提供ではなくオーピー映画配給としたのは、本篇クレジットに従つた。それと本クレでは、友松直之の筈の脚本が抜けてゐる。
居間のテーブルの上で、男がビールの空缶に囲まれ眠りこける。傍らに黙して立つ男の従弟は睡眠導入剤の紙包を握り潰すと、二階の寝室に眠る従兄の細君の寝込みを襲ふ。
結婚五年目の春、淑子(横山)と宏(畠山)に未だ子供はゐない。ある朝宏は、結婚当時高校生の従弟・ケンジ(原口)が、就職し研修で上京するといふので一晩泊めてやりたいと淑子に提案する。電話で遣り取りしたケンジはホテル代が会社から出ると一旦は断るが、宏はそれを浮かせて小遣ひを稼ぐのがサラリーマンの心得だと強引に誘ふ。ここで、何と今回友松直之は出張の宿泊費どころか製作費を浮かせるために、会社を跨ぎエクセスから一月後に公開された
メイドロイド
第二作「
最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。
」との、今作目線ではキャストの2/3を重複させる同時撮影を敢行したとのこと。凄い戦法を考へたものだ、オーピーと新東宝を股にかけてゐた時期の池島ゆたかでさへ、この大胆なアイデアを少なくとも実行に移したことはなかつたのではなからうか。話を戻して、友松直之の奇策に畏れ入るのも兎も角、二作の間で幾分饒舌なほかは然程造形も変らぬ畠山寛に対し、ステレオタイプのアキバ系ボンクラ学生からパリッとしたスーツ姿の若手会社員へと華麗なジョブ・チェンジを遂げた―実際には、本作の方が先に当たる―原口大輔は、さうしてみたところ意外にも河相我聞のセンの甘い色男にも見える。単に服装の相違のみに関らない、演技者としてのポテンシャルの高さも起因してゐるのであらう。式の当日、一人の控へ室でウェディング・ドレス姿の淑子が何故か流す涙を、ケンジは目撃してゐた。さりげなく夫の従弟は前のめりであるのに淑子は気付かないまゝ、ケンジが一泊した一夜はひとまづ平穏に明ける。ところが、前日宏の帰宅よりも先に家に着いたケンジと、“コソアド”と称してコッソリアドレス交換してゐた―別にコッソリする必要はないやうにも思へるが―淑子は、その日以降頻繁かつ、どうでもいい内容の割には微妙に粘着質なメールの乱打に悩まされる。そんな中、再び東京を訪れるケンジを、宏が矢張り家に招くといひ出す。何気に心療内科に通院し睡眠導入剤を服用してゐたりもする淑子は、鬱陶しいメールと、ケンジを泊めた夜、安物とはいへ脱衣所に脱いだ下着がなくなつてゐた事実を突きつけ抗弁を試みるが、幼少期から従弟を実弟のやうに可愛がつてゐた宏は、まるで取り合はない。
若林美保は、最初にケンジが淑子の家に泊まつた当日に、宏がホテルで火遊びする人妻ホテトル嬢・アケミ。出番は二番目の三番手濡れ場要員ながら、風俗の仕事を当然内緒にしてゐる夫には友達と食事と偽り外出して来たとの、さりげなくも後々鋭く機能するキラー・パスを通す。勿論避妊具の使用を求めるアケミに対し、宏は一旦は従ふ素振りも見せつつ、診察を受けた結果精子の数が足らず妊娠しないとの、さういふ問題ばかりでもあるまい暴論を振り回し生本番を強行、更なる最重要な伏線を落とす。更に更に、宏からその際のホテルの領収書を経理を騙くらかす小道具に渡されたケンジは、従兄の不貞に気付いてゐた。と、一欠片たりとてアケミのパートを疎かにすることもなく、本筋に頑丈に回収する執拗なまでの貪欲さはピンク映画として全く麗しい。若林美保が正方向に燻し銀の送りバントを決める一方で、明後日から獅子奮迅といふか一騎当千といふか疾風怒濤といふか、兎も角凄まじい大活躍あるいは大暴れを展開するしじみ(ex.持田茜)は、ケンジのセフレでゴスロリのメンヘラ女・サオリ。勢ひ余つて男の顔に頭突きもとい顔突きをかますと、鼻血で顔面が血塗(まみ)れになるのも顧ずなほも騎乗位で腰をガンガン振りまくるといふ、無茶苦茶な正しく狂乱ぶりを披露する。尤も、自身が扱ひ難く壊れてゐるとの自覚はあるらしく、都合二度、自分と付き合ふのは面倒臭いかと男に問ふた上で答へも待たず、「いいの、判つてるの」、「私だつて、私と付き合ふのメンドくさいんだからあ!」なる、横道と本道の別すら吹き飛ばし雌雄を決し得よう圧倒的なまでの名台詞を、超絶クオリティの舌足らずな口跡で炸裂させる。来てない以上仕方もなく、半分さへ観られてゐないにも関らず先走つて断言するが、しじみは2010年ピンク映画助演女優部門の、燦然と輝く最右翼に違ひない。
開巻から繋がり中盤の大半を費やす、宏を眠らせいよいよ凶行に及ぶケンジと、そもそも身を起こせばいいやうな気もしないではない淑子との攻防戦。部屋に迫るケンジの気配に、淑子が必死に抽斗を漁り後生大事に枕に隠した右手に忍ばせてゐたのは、何のことはないコンドームであつた。などと、腰も砕ける拍子の抜け具合が象徴的な、最終的には他愛もない移り気な若妻のよろめき物語は、最早逆の意味で清々しい。寧ろ、戦線の側面より飛び込んで来ては、正直物足らなくもない本筋を闇雲に加速しながら味つけする、鮮烈な飛び道具のサオリの印象が兎にも角にも強い。それはそれとしてスリリングな夜這ひを経ての、宏には“友達と食事”と告げた休日の淑子とケンジの逢瀬。如何せんその限りでは映画が心許ないところで、華麗にもしくは苛烈にクロスカウンターを放つべく宏を急襲したサオリが、二度目に文字通りの決め台詞を打ち抜いた瞬間の強度は、不思議なほどに比類ない。それでゐて、ラスト・ショットはそれまでに入念に積み重ねた、花束で締めてみせる辺りは実にスマート。一件薄味にも思はせておいて、正面だけでなく全方位にヒット・ポイントを満載した、頼もしいばかりの友松直之の充実を窺はせる快作である。
独特の浮遊感と、猛烈な突進力。イメージの動的と静的の顕著な差異もありながら、怪しい名女優・篠原さゆりの面影を今作のしじみに初めて垣間見たものであるが、如何であらう。それと忘れてゐた、しじみは昼下がりの淑子が見やるテレビ番組の音声中に、持田茜改めしじみのハーセルフでも登場。名乗りはしないが同時に聞こえる男の声は、多分藤田浩。
以下は再見時の付記< 若林美保はこれアテレコだな、主は判らんけど
再々見時の付記< 若林美保のアテレコの主は脊髄で折り返して山口真里にも聞こえたが、自信はない
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