真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫ら姉妹 生肌いぢり」(2000/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:かわさきりぼん/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:里見瑤子・水原かなえ・浅倉麗・岡田智宏・かわさきひろゆき)。
 石川善幸(岡田)は祖父の死去に伴なふ帰郷の道中、山梨県は甲州市、大菩薩山麓の山道で車をエンコさせる。場所柄修理も俄には呼べず、仕方なく善幸は母親に連絡を入れ、ひとまづ車はその場に置き近隣で一泊することに。ところでこの件とオーラスに都合二度見切れる、明らかに飼ひ犬と思しき精悍な黒犬は一体何処の犬なのか。別に劇中善幸が、連れて歩く訳ですらないのだが。さて措き、そんなこんなで善幸が訪ねた近場の温泉旅館が、水印の紋章から抜かれる御馴染み水上荘。玄関口で暫し待ち惚けさせた善幸を、老婆(別人のやうに老けメイクを施した水原かなえ)が出迎へる。暇な時期なので来客は稀だと善幸に詫びた老婆は、質問に対し宿を切り盛りするのは自分の他に妹がもう一人居ることを答へた上で、わざわざ離れの蔵には近づくななどと、感動的なまでに鮮やかにフラグを立てる。通された間で一息ついた善幸は、閑散期の割には隣の部屋に宿泊する、見るからに深刻さうな風情の加藤しおり(浅倉)と出口和男(かわさき)の情交に鼻の下を伸ばす。ここで、ピンク映画的には前世紀終盤に活動した浅倉麗は、2009年に山邦紀の「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」主演で返り咲き、2010年には浜野佐知の「色情痴女 密室の手ほどき」で頑丈な助演を務めた朝倉麗と同一人物。十年といふ歳月のことを考へると、幾分肉の厚みも増したほかは、結構驚異的に変つてゐない。その晩、風呂に浸かつた善幸は、隣の女湯に入る“この世のものとは思へない”ほどに美しい里見瑤子に垂涎する。里見瑤子は、善幸が足を滑らせ湯船に落ちたことにも気付かなかつたのか、幽然と、もとい悠然と離れの蔵に消える。老婆の禁を当然破り、後を追ひ善幸も蔵に入つてみたところ、里見瑤子こと水上ハルは、そこで善幸の“死んだ爺さんの名前と同じ”、信一といふ情人を待ち続けてゐるやうだつた。人を待たせるよりは待つ方がマシだ云々と、ゴミのやうな世間話も切り出しハルに接近した善幸は、姿を消したハルに誘(いざな)はれるかのやうに、夜とも昼とも、夢とも現とも定かではないがどうやら昭和十八年の大東亜戦争中らしい異界に彷徨ひ込む。そこでは善幸いはく“あれ?あいつ俺にソックリ”で、“まるで戦時中”のやうな格好をした、学徒出陣に赴く信一(岡田智宏の二役)を白いドレス姿のハルと、対照的に赤い服装の姉・サキ(水原かなえの二役)とが奪ひ合つてゐた。
 正直に負け戦を認めるが、封切り当時にリアルタイムでm@stervision大哥に語り尽くされた一作。本来それはそれとして定番な筈の幽霊譚が、にも関らず過剰な親切設計を施された、天井かと見紛ふまでに上げ底の珍台詞と怪展開の数々に彩られるどころか、木端微塵にされてしまふ様は、下手に生真面目に付き合ひ難じてみせるよりは、寧ろ万歳を連発しながら底の抜け具合を気軽に楽しんだ方が、いつそ吉とすらいへようか。大体が、老婆が善幸に信一の面影を見ない時点で既に起動した不自然は、終に悲恋物語の真相が明かされるクライマックス、綺麗な棒立ちで現れた信一とサキの幽霊が、仔細を御丁寧に説明して下さるそのまんま舞台劇のやうな手法で完成される。但し、善幸の一晩に六十年の歳月を行き来する遍歴の余波として、大絶賛濡れ場要員ポジションを担ふ、しおりと出口の駆け落ち心中カップルを正方向の着地点に回収してみせる娯楽映画としての誠実さと、爽やかなラスト・ショットは実は悪くない。一夜明け、善幸は喪服姿で水上荘を後にする。車は、ピントも合はせられぬ二人組みの工員が、ちやうど修理も終へたところだつた。やれやれと一旦一服しかけた工員が、歩み寄る善幸の気配を察し慌てて深々と頭を下げるストップ・モーションが、意外と十全な強度で映画を締め括る。

 ところで今作は2004年に「ツボいぢり 狂つちやふ」といふ新題で、既に一度旧作改題済みではある。即ち今回は旧題ママによる、二度目の新版公開といふ寸法になる。


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