真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「質屋の若女将 名器貸し」(2000/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:里見瑤子・荒井まどか・しのざきさとみ・かわさきひろゆき・神戸顕一・入江浩治)。出演者中、ポスターに名前のある丘尚輝が本篇クレジットには載らず。ところで2003年に「質屋の女房 筆おろし」といふ新題で、既に一度旧作改題済みではある。即ち今回は旧題ママによる、二度目の新版公開といふ寸法になる。
 田舎町の駅前に降り立つたさくら(里見)は、テレカで公衆電話をかけかけて思ひ留まる。2000年といふと、幾ら何でも若い娘はもう大概が携帯電話を持つてゐた頃合でもなからうか、とは思へるのだが。かくいふ私は、今現在に於いても持つてゐないが。話を戻して、かと思ふと如何にも思はせぶりな風情で急に嘔吐するさくらの傍らを、シンキチ(かわさき)が自転車でテローッと通り過ぎる。シンキチ(新吉?)はさくらの母親・桃代(しのざき)が営んだ「さくら質店」の番頭で、さくらは母の仕事を嫌ひ、家出以来十年ぶりに初めて郷里に戻つて来たものだつた。ところが桃代は一月前に、クモ膜下出血で死去してゐた。さくら質店を守るシンキチに、ひとまづ変らぬ実家の様子を案内されたさくらは、蔵の前に差しかゝるや表情を曇らせる。桃代はそこで近所の城東大学に通ふ金のない学生達に、彼等の若い肉体を質草として金を貸してゐた。さくらが家を出たのは、そんな母の行ひを激しく嫌悪したからであつた。そんな次第で回想シーン兼しのざきさとみ唯一の濡れ場に登場する神戸顕一は、かつての城東大学法学部一年生・魚住。腰に手拭ぶら提げた、ポップなバンカラぶりを好演する。
 さくらが帰郷したのは、暴力男(欠片も登場せず)からお腹の子供を守る為であつた。一方その頃近隣一帯はリゾート開発と、それに付随する地上げとに揺れてもゐた。荒井まどかは、男を替へる度に贈らせたブランド品を質に入れ金に換へる、自称“ラブ・マスィーン”の持ち主ことナオコ。シンキチを誑し込み、まんまと言ひ値で買はせる。今回持つて来たブツの貢ぎ主は、ナオコの腹の上で死んだとのこと。シンキチもその話を聞かされておいて、よくそんな女を抱けるな。入江浩治は、シンキチの留守にさくら質店を訪れては、人騒がせにも店先で行き倒れる城大現役苦学生。不憫に思つたさくらは入江浩治に飯を食はせるものの、伝統といふ方便の一点張りで挙句に自身も母のやうに喰はれる。そんな中、地上げヤクザの一味に襲はれたシンキチが、そこそこの怪我をして帰つて来る。
 アウトラインとしては母に反発し家を飛び出した娘が、遺された質屋を継ぐ継がないの一騒動。とでもいつた塩梅になるのであらうが、兎にも角にも、どんでん返りはしないが逆の意味で“衝撃のラスト”とでもいふべき、映画史上空前の大蛇足が噴いて呉れなくとも構はない業火を轟かせて呉れやがる一作。少々強引でもあるが、道を踏み外しこそすれ、魚住が仁義を通しに来るところまでならば結構正調の人情映画、たり得てもゐた筈なのに。そこからの取つて付けられた頓珍漢な一幕が、着地に木に竹を接ぐどころか、完全に卓袱台を引つ繰り返し映画をバラバラに壊してしまふ。さくらが桃代の立場に理解を寄せる段取りで既に隠しきれなかつた飛躍もしくは説明不足が、取り返しのつかないレベルで逆向きに加速され正しく万事休す。そんな無体の伏線が、わざわざ十全に敷設されてゐる辺りが一層悲哀を増しもしよう。百万歩譲つて岡輝男が書いてしまふのは仕方のないこととしても、それをそのまま撮つた深町章も深町章だともいへまいか。乱暴をいふが、少しの台詞も与へられる魚住の子分・井口(丘)が運転する黒塗りのセダンが水上荘を後にしたところで、映画を畳んでゐればまだしも印象はまるで変つてゐたのではなからうかと思へる。


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