真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「欲望温泉 そろつて好きもの」(2004/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/選曲:梅沢身知子/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映ラボテック/出演:華沢レモン・水原香菜恵・佐々木基子・白土勝功・茂木孝幸・本多菊次朗)。を、プロジェク太上映の地元駅前ロマンにて、「どいつもこいつもみんな好きもの」と改題された2008年新版、ではなく、同年にインターフィルムよりリリースされた殆ど変らないDVD題、「欲望《秘》温泉 そろつて好きもの」として観戦したものである。スチールがもう一人元永斉。
 買物帰りの華沢レモン、左足の踝を右足で掻くカットは、結果論としては特に伏線でも何でもないやうだ。応接間では刺々しい剣幕の水原香菜恵が、本多菊次朗と佐々木基子の老夫婦に詰め寄る。本多菊次朗にはポップな老けメイクが施される反面、佐々木基子は和服を着ただけで特には普段通り。開巻の、物理的にのみ平穏な修羅場の内訳は、温泉ホテル社長・川合(本田)とその妻・梅子(佐々木)の息子・太一(白土)が、勤務するゆり(水原)が社長を務める芸能プロダクションの金を一千万持ち逃げしたといふ騒動。そんな次第で今作の舞台は御馴染み水上荘、ではなく、今回は塩川温泉廣友館、旅行ブログか。
 川合は警察に通報するなり告訴するなり好きにしろと、一旦はゆりに啖呵を切つてみせる。とはいふものの何のことはない、案の定帰つて来てゐた太一は匿はれてゐた。現金にも口止め料として三百万を寄こせといふ川合に対しては廣友館の従業員・洋子(華沢)との、強欲にも一千万全額を要求する梅子には同じく板前の藤巻(茂木)との不倫の事実を逆手に取り、太一は両親を撃退する。まあ確かに、欲望温泉の面々が、揃つて好き者ではある。根本的に顧るならば、欲望惑星の面々が、揃つて好き者でもあるのだが。洋子は洋子で太一とも関係を持ちいはゆる親子丼を達成する一方、部屋を掃除する呑気なカットを都合二度も費やし、所在に関して太一が口を割らない、一千万の行方を探る。ところで、オープニング・シークエンス時より、川合は正体不明の激しい偏頭痛に度々見舞はれる。よもや重大な腫瘍か何かではあるまいやと、終に重い腰を上げた川合は町の診療所へと向かふ。後に2シーン登場する診療所の山口先生役は、見慣れぬ顔であるのと情けない上映画質とに阻まれ、特定不能。
 直截にいふと、予想される以上―あるいは以下か―のルーズさが、漫然と別に火も噴かない一作。診察を経て明後日に思ひ詰めた川合の、他愛もない落とし処も容易に予想し得る重病杞憂を、一体如何にドラマの中で機能させるものかと思ひきや。藤巻相手にディスコミニュケーションが麗しい件を通過するところまではいいとして、その後に華沢レモンと水原香菜恵との絡みを二つ重ねる時点で、展開が一旦手にしかけた求心力も一昨日に失し、完全に物語が濡れ場に呑み込まれてしまつてゐる。水原香菜恵の裸も盛り込む方便とはいへ、ゆりが藪から棒に廣友館を手中に収めることを思ひ立ち、川合篭絡に動き始める件は幾らピンクとはいへ粗雑に過ぎる。挙句に万事を華沢レモンに背負はせる終盤の大技といふか荒技は、流石にあまりにも乱暴で、未完の小さな大女優にも些か荷が重い。稚拙な姦計に全てを失つた川合の、「ノーイッケツーッ!」のシャウト―いはずもがなを注釈すると、“脳溢血”である―には、浜岡賢二の『浦安鉄筋家族』実写版とでもいふべき妙な突破力が漲り、それでも意外に何となく据わりが良いかのやうに映画を無理矢理締め括る。

 以下は再見に際しての付記< 山口先生役は、派手に老けメイクを施した佐藤吏


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