真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「責め絵の女」(1999/製作:ENKプロモーション/提供:Xces Film/監督:剣崎譲/脚本:月岡よみ/企画:稲山悌二 エクセスフィルム/製作:駒田慎司 ENKプロモーション/原案:冴月嶺/撮影:牧逸郎・木根森基・薮田政和・山内泰/照明:北井哲男・田村正宏・岸田和也/緊縛指導:有末剛/助監督:溝口尚美・山口友尚/ネガ編集:不動仁一郎/スチール:渡辺哲/美粧:井谷裕子/衣裳:三宅寿恵/タイトル文字:森口美夏/製作:竹内和歌子・太田美希/作絵:太田美希/録音:立石幸雄 東洋スタジオ/リーレコ:日映新社/現像:東映化学/フィルム:フジフィルム/制作協力:クラブダウン・ランジェリーショップ エリー・関西映機・報映産業・AC/DC・翔の会・大谷優司/出演:イヴ《神代弓子》・梁井紀夫・門田剛・宗忍・鏡彩花・藤田喜昭・渡辺哲・亀山英一郎)。ポスターその他各種資料には、タイトルが「イヴ十五周年記念作品 責め絵の女」とあるが、実際の本篇に於いては「イヴ15周年記念作品」と開巻ど頭で謳はれ、本篇タイトルは―もしかすると、今2010年新版に限つてのことやも知れぬが―あくまで「責め絵の女」のみ。
 画廊といふよりは何処ぞの飲食店―協力のクラブダウンか―を借り切つて催された、漸く時代に追ひ着かれた異端の美人画家・室生柊青の個展。主催した美術プロデューサー・榊原祐司の妻・弓枝(イヴ)が、柊青の責め絵に見入る。榊原(門田)が美術ライターの矢島修一(亀山)と歓談するところに、秘書の牧村綾子(宗)を伴ひ室生(梁井)が現れる。既に泥酔状態の室生は、エログロ扱ひされ長かつた不遇の時代に拗らせた鬱屈を、場内に爆発させる。そんな不遜な室生も、自作に心を奪はれてゐる風の、弓枝の姿には目を留める。榊原に乞はれ、手伝ひとして室生の下へ向かふことになつた弓枝は、室生宅に足を踏み入れるや目を丸くする。スケッチブックを手に苦渋する室生の前では、縄をかけられた状態で半裸の綾子が、自慰に耽つてゐたからだ。自分は秘書兼半ば情婦も込み込みのモデルであるとの綾子の告白を、呆れるくらゐにジャンル的な清々しさですんなり受け容れた弓枝は、自身も同じ役割を果たす旨求められる。一方、創作中に度々重病フラグを立てる室生は、終に一旦昏倒する。往診に訪れた医師の青柳(渡辺)は、弓枝に衝撃の病状を告知する。三年前に胃の悪性腫瘍を全摘出したものの、今やそれは肺や肝臓にも転移し、室生の余命は幾許もなかつた。それでももつて半年とはいへど入院加療を主張する青柳に対し、弓枝は近親者ですらないにも関らず、芸術家としての天命を全うさせてやるやう、勝手に主張する。長く絵の描けぬ状態の続いた、室生は弓枝に関心を移すと同時に再び筆を執り始め、反面綾子からは心を離す。その嫉妬も交へ室生をいはば金蔓としてしか見てゐない綾子や、榊原の姿に激しく幻滅した弓枝は、自らが室生一世一代の大作を支へ抜かんと、明後日に決意する。
 無頼派気取りのあぶな絵師と、夫からは期待されたミイラ取りの使命も殆ど何処吹く風と、死に急ぐミイラの背中を進んで押す女との、性愛の情欲と創作の情熱とが重層的に交錯する、エクストリームを本来ならば志向したと思しき一作。とりあへず滞りなく進展するお話が掴めなくはないとはいへ、あのイヴちやんがまるで大女優かのやうに映りかねない―その限りに於いては、周年記念を祝ふ看板映画としては申し分ない、ともいへるのだらうが―直截に片付けるならば貧相な布陣と、工夫を欠いた平板な展開からは、狙つた筈の情念の質量なんぞ、凡そ窺ふ術さへない。イヴちやんの美しい裸身にテロンと生温く纏はりつく縄からも、表面的に要求されて然るべき苛烈さなんぞ特には迸らない。一昨日な見所としては、室生が呆れるほど淫らに多用する、吐血ギミック―その鮮やかな赤さからは、吐血といふよりは寧ろ喀血といふべきか―の底の抜けたポップさばかりか。映画全体の薄さから長閑ささへ漂ひかねない、自爆もとい自縛した弓枝を前に、室生が最期の気力を振り絞り画筆を走らせる荒野での一幕を経て、大作「責め絵の女」は完成し、室生柊青は終に絶命する。榊原にも綾子にも素気なく別れを告げた弓枝が、背景に景勝地の滝を置いた上で朱色がひとまづ鮮やかな橋の欄干に、中途半端に緊縛放置されるといふ半分呑気なラスト・ショットの頓珍漢さが、終始痒いところに手の届かない今作を、別の意味で見事に集約してみせる。

 配役残り鏡彩花は、妻を他の男の家に遣つた間に、榊原がのうのうと火遊びにうつつを抜かすホテトル嬢。最早輝かしいまでの、大絶賛三番手ぶりを爆裂させる。今回の名義は藤田佳昭ではなく藤田喜昭は、柊青に招聘される緊縛師。


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