「マニアの選ぶ歴史美男」
私の立てた物好きな投票に参加して下さってる方々にお礼申し上げます。
ここに挙がってる顔ぶれについて、書きたいことをいくらか。
なお、私が最初に挙げたのは、アウグストゥス、土方歳三、アレクサンドロス。あとで追加したのは、ルートヴィヒ2世、ゲルマニクス、ドルスス、源頼朝。
新しく加わっている上杉景虎は、私も推薦しようかと思い、かつ迷いもあった名前である。
北条氏康の実質七男(早世した子を数えれば八男と書かれる)。上杉謙信との同盟のため、人質として越後へ行き、そこで養子として謙信の若いころの名前である「景虎」を与えられ、謙信の姪(景勝の姉妹)を娶る。しかし謙信が遺言なしに急逝したため、もう一人の養子、実の甥である景勝と跡目争いになり(「御館の乱」)、敗れて自害、享年26歳。
この人が有名になったのは、90年代のコバルトのヒット作、桑原水菜『炎の蜃気楼(ミラージュ)』がきっかけだろう。戦国武将たちが現代に敗者復活戦、その混乱を防ごうとするのが謙信の命を受けた「上杉夜叉衆」。リーダーがその景虎という設定だった。
私もこれにハマったおかげで、上杉や北条についてあの時期けっこう読んだ。
さて、肝心なことは、『関八州古戦録』という書物での「板東に隠れなき容色無双の人」という記述である。『ミラージュ』で「関東一の美童」云々と書いてあるのはこれにちなむ。
ところが、研究によると、江戸期に書かれたこの本は、彼の記述に関して2つの点で怪しいという。
一つは、彼が幼少のころには武田に人質に行っていたと書いてあるが、武田側の史料にはまったく出てこないという点。
もう一つ、彼の名前を「氏秀」と記してあるが、この名前は北条の別の人のものであろうという点。
前者は、もし本当ならば、出来すぎなくらい数奇な運命である。『ミラージュ』でも、怪しいとしながらも採用されている。
後者の件は、彼も元服していたのだからほかの兄弟、氏政、氏照、などのように氏なんとかという名前があったはずだけどわかっていない。『ミラージュ』では、敢えて出さずに「三郎」だけで通している。(同人二次創作では、違うらしいと知りつつ「氏秀」にしていたものもけっこうあった)
私の読んだ本では、上記の2つの点を指摘していたのだが、そうなると、「容色無双」の信憑性はどうなるのか? 『関八州』よりも古い証拠本はないのかと大学図書館で漁ったのもいい思い出である。発見していない。
三郎の錦絵なんてものまであるそうで、少なくとも、美貌の主として伝わってはいるのだ。根拠はあると言ってよかろう。
『ミラージュ』では、三郎が越後へ行く前の短い期間、大叔父の養子になっていたことは出てくるが、この時、娘婿だったことは触れられていない。結婚までしていたものを別れさせられて遠国にやられたのか・・・。このごく短い間に実は子ができていて、三郎がいなくなってから女児が生まれたーーなんて想像が私の心で生まれていた。もちろん、父の美貌を受け継いだこの娘はのちに景勝と関わることになり・・・。私の想像パターンはローマものでも変わらん。
数年前、『上杉三郎景虎』という長編小説が出た。
短編で、永井路子さんの『流浪の若鷹』という作品があったらしいけど単行本に入っているのか不明。「全集」にはない。(そもそも、まだ執筆中の作家に「全集」なんていうこと自体がおかしい!)
井上靖の短編『信松尼記』は、信玄の娘の松姫が主人公。これは、三郎が武田にいた説で書かれている。直接の登場はしていないが、「ろうろうと輝き渡るような美貌と名家北条の気品を併せ持った少年」と描写された。あまり美男を出さないこの作家としては破格である。
私の立てた物好きな投票に参加して下さってる方々にお礼申し上げます。
ここに挙がってる顔ぶれについて、書きたいことをいくらか。
なお、私が最初に挙げたのは、アウグストゥス、土方歳三、アレクサンドロス。あとで追加したのは、ルートヴィヒ2世、ゲルマニクス、ドルスス、源頼朝。
新しく加わっている上杉景虎は、私も推薦しようかと思い、かつ迷いもあった名前である。
北条氏康の実質七男(早世した子を数えれば八男と書かれる)。上杉謙信との同盟のため、人質として越後へ行き、そこで養子として謙信の若いころの名前である「景虎」を与えられ、謙信の姪(景勝の姉妹)を娶る。しかし謙信が遺言なしに急逝したため、もう一人の養子、実の甥である景勝と跡目争いになり(「御館の乱」)、敗れて自害、享年26歳。
この人が有名になったのは、90年代のコバルトのヒット作、桑原水菜『炎の蜃気楼(ミラージュ)』がきっかけだろう。戦国武将たちが現代に敗者復活戦、その混乱を防ごうとするのが謙信の命を受けた「上杉夜叉衆」。リーダーがその景虎という設定だった。
私もこれにハマったおかげで、上杉や北条についてあの時期けっこう読んだ。
さて、肝心なことは、『関八州古戦録』という書物での「板東に隠れなき容色無双の人」という記述である。『ミラージュ』で「関東一の美童」云々と書いてあるのはこれにちなむ。
ところが、研究によると、江戸期に書かれたこの本は、彼の記述に関して2つの点で怪しいという。
一つは、彼が幼少のころには武田に人質に行っていたと書いてあるが、武田側の史料にはまったく出てこないという点。
もう一つ、彼の名前を「氏秀」と記してあるが、この名前は北条の別の人のものであろうという点。
前者は、もし本当ならば、出来すぎなくらい数奇な運命である。『ミラージュ』でも、怪しいとしながらも採用されている。
後者の件は、彼も元服していたのだからほかの兄弟、氏政、氏照、などのように氏なんとかという名前があったはずだけどわかっていない。『ミラージュ』では、敢えて出さずに「三郎」だけで通している。(同人二次創作では、違うらしいと知りつつ「氏秀」にしていたものもけっこうあった)
私の読んだ本では、上記の2つの点を指摘していたのだが、そうなると、「容色無双」の信憑性はどうなるのか? 『関八州』よりも古い証拠本はないのかと大学図書館で漁ったのもいい思い出である。発見していない。
三郎の錦絵なんてものまであるそうで、少なくとも、美貌の主として伝わってはいるのだ。根拠はあると言ってよかろう。
『ミラージュ』では、三郎が越後へ行く前の短い期間、大叔父の養子になっていたことは出てくるが、この時、娘婿だったことは触れられていない。結婚までしていたものを別れさせられて遠国にやられたのか・・・。このごく短い間に実は子ができていて、三郎がいなくなってから女児が生まれたーーなんて想像が私の心で生まれていた。もちろん、父の美貌を受け継いだこの娘はのちに景勝と関わることになり・・・。私の想像パターンはローマものでも変わらん。
数年前、『上杉三郎景虎』という長編小説が出た。
短編で、永井路子さんの『流浪の若鷹』という作品があったらしいけど単行本に入っているのか不明。「全集」にはない。(そもそも、まだ執筆中の作家に「全集」なんていうこと自体がおかしい!)
井上靖の短編『信松尼記』は、信玄の娘の松姫が主人公。これは、三郎が武田にいた説で書かれている。直接の登場はしていないが、「ろうろうと輝き渡るような美貌と名家北条の気品を併せ持った少年」と描写された。あまり美男を出さないこの作家としては破格である。