レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

獣の記憶 剣闘士に薔薇を

2016-09-29 06:55:13 | 
ニーナ・ブラジョーン『獣の記憶』
 創元推理文庫。去年出た本。文庫新刊リストで、ドイツものは注意しているけど見落としたようである。
 舞台は18世紀、ルイ15世の時代のフランス。
 実在した「ジェヴォーダンの獣」事件ーーフランス中央部のジェヴォーダン地方で狼に似た獣が女子供を襲い100人以上の死傷者が出て、王命で大掛かりな狩りまで行われたが、最終的には地元の漁師が仕留めて終結したとされるーーを題材としている。
 博物学者の卵であるブルジョワの若者トマは、成り上がりをもくろむ父から、貴族令嬢との結婚を強いられているが気乗りしない状態で、謎の野獣を追う一行と共に調査に向かう。野獣に襲われたが助かった侯爵の妹イザベルに出会い魅かれあう。野獣の正体を探求する過程で、怪しい人間たちも浮かんでくる。
 トマには死んだ兄がいて、父はこの兄を偏愛していたが、兄に虐められていたトマはいまだにその呪縛を感じ続けている。
 イサベルは、美しく聡明で、驕らない心の持ち主であるが、実は出自に秘密があった。
 主人公カップルのキャラクターが好ましく、ほかにも、意地悪に見えたけど公正で力になってくれた法律官(役職名忘れた)とか、思えばいろいろな不幸の元だったけどイザベルにとって貴重な教えを残してくれてい先代侯爵とか、味のある人物像が出てくる。トマに親切にしてくれるさばけた美女ジャンヌは、のちのーー。


ダニエラ・コマストリ=モンタナーリ『剣闘士に薔薇を』  国書刊行会
 イタリア産ミステリーのリストで知った。舞台は4代目皇帝クラウディウスの時代。
 イタリアですでに17冊出ているアウレリウスシリーズの4作目ということである。
 アウレリウスは、40代初めの元老院議員、富豪で美男で教養ある男。美女、美食、哲学書等を愛好し、剣闘士試合などは趣味ではないのだが、立場上見物していたら、花形剣闘士が試合前にいきなり倒れて死亡、毒殺されたらしい。
 アウレリウスはかつて、まだ一族から冷遇されていたころのクラウディウスからエトルリア語を習っていたという旧知の仲であり、その皇帝直々の命令によって事件を調査、悪徳弁護士(?)と対決していく。
 アウレリウスの手足となるのが、アレクサンドリア出身の元泥棒の解放奴隷カストル。
 古代ローマ喜劇では、知恵のまわる奴隷が若旦那の恋のために奔走するというのがパターンであり、切れる従僕という設定は伝統となり、英国の「ジーヴス」もその流れーーと思っていたら、解説にもしっかりそれが書いてあった。
 皇帝を訪ねた時に会った、ヘタな歌をうたっていた小太りの男の子は、もちろんアレである。皇帝になったってつまんないと言っているのは苦笑ものである。
 もっと訳されてもらいたい。


 ところで、上記の2冊はいずれも去年出たもので、市内の図書館にはなかったので、市外からの取り寄せを依頼した。すると、『獣の記憶』はじきに借り出されたのに対し、『剣闘士~』は「検討中」からほどなく「購入待ち」になり、けっこう早々と購入されてしまった。値段は倍するのに。ほかにも希望があったのか?私の次にも人が待っている。
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凍える墓 その夜の嘘 新・怖い絵

2016-09-25 06:39:51 | 
ハンナ・ケント『凍える墓』

 19世紀のアイスランドで実際に起きた事件を題材にした小説。
 農場主の男ナタンともう一人の男が殺害され、犯人の3人の男女に死刑判決が下った(年若い娘はあとで減刑された)。主犯と見なされた女アグネスが、執行までの間、地方の行政官の家である農場に預けられる。警戒していた妻や娘は徐々に信頼を抱き始め、アグネスも身の上と事件の真相を語りだす。
 冒頭に引用が置かれている『ラックス谷のサガ』は、サガの中でも悲痛な恋物語として人気がある(たぶん)。「最も愛した人にひどいことをした」という有名な言葉が、アグネスとだぶらされている。
 殺されたナタンも、加害者たちも、さほどあくどいというわけではなかった。それが悲しい。


ジェズアルド・ブファリーノ『その夜の嘘』  早川書房
 19世紀、ブルボン王家支配下のイタリア、シチリアらしい王国で国王暗殺計画の一味として死刑判決を受けた4人の男が牢獄にいる。総督は、首謀者の正体を明かせば皆助命すると申し出る。そしてもう一人、有名な盗賊も翌日の死刑囚としてやってきた。彼が『デカメロン』に倣って、各人の物語を提案する。
 緊迫した状況で歴史ものらしさも感じられて面白かった。
 これ、ミステリー?という感じもしたが、最後まで読んだらそれも納得できた。『そして誰もいなくなった』をちょっと連想した。



中野京子『新 怖い絵』
 もちろんこれはミステリーではない、いや、小説ではない。実はこんな意味なのでは?という提起を考慮すれば広義のミステリーか。
 いちばん怖さを感じるのは『自画像』。実は大量殺人犯であった男がピエロ姿を描いている。だいたい、ピエロの化粧というものはグロテスクさがあると思う。あのケバケバしさの浦に様々な負の感情が隠れていそうな気がする。オペラ『道化師』然り。アンデルセンの『絵のない絵本』では、それを優しく切ない味わいで扱っているけど。
 ドレ『ジュデッカ ルシファー』  ルシファーの顔つきじたいは、ほおづえのポーズと一緒に見るとなんだかおかしみもある。でもヒトをかじっていると思うとそこが怖さを増すかもしれない。
 ダヴィッド『テルモピュライのレオニダス』  あからさまにホモくさいのにそれをわざとらしく表の鑑賞者が無視してきたこと、同性愛が戦争に利用されてきたことが本章のテーマであるけど、それはそうと、--カブトやマントはつけているのにその下がハダカって、そのへんにいたら変質者にしか見えないだろ、というツッコミは多くの人がするに違いない。まずなんといっても笑える絵に見える、というのが私の本音である。 
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料理する男キャラあれこれ

2016-09-20 15:22:07 | マンガ
 リンク先でもある「磨羯宮(まかつきゅう)」で、ハーレクインにおける男の料理の問題がとりあげられていたので、その流れでぽつぽつと。
「ハーレクイン・コミックス感想 クッキング・ヒーロー特集」


 市川ジュン「懐古的洋食事情」の『西洋野菜主義』は、本編の重要キャラ、美青年洋画家・九門京也の母の若き日の話。田舎の別荘(?)で絵を描く月絵のところに近所の農家の青年がやってきて、ご飯をつくってくれるようになる。
「食費は稼げてもご飯を炊くことができずにわたしは飢え死にするかもしれない!」「だいじょうぶ おれが毎日つくりにきてやるさ!」
 この微笑ましい二人が結婚していたとすれば、それを不幸にした深草子爵先代は鬼畜である。もっとも、あんなほのぼの夫婦の家庭ではあのヒネた京也にはならなかったろうけど。
 同じシリーズに登場した、深草子爵の末弟は、使用人たちを遊びに行かせて無人にした台所で料理をすることが密かな趣味だった。(密かな、であるのは時代の制約というもの)
 「男の料理」が時に揶揄されるのは、わざわざ高い食材を買う、やたらと時間をかける、後片付けをしないことーーであるけど、この場合は、台所にある材料を少しずつ(そりゃお金持ちだからいいものがあるに違いないけど)使う、留守中に済ませるのだから手早く、そして、隠れてしているのだからきちんと後片付けもしているはず。「男の料理」の悪い条件にあてはまっていない、これは中々おりこうさんの例ではないか。

 今市子『大人の問題』(BLだけどむしろホームコメディの傾向が強い)
 二人の主人公がいて、大学生の直人、宝石デザイナーの悟朗(漢字が違うかもしれない)。直人のパパはゲイに目覚めて離婚しており、そのパパのゲイ婚相手が悟朗、「さっぱり系美青年」。直人のママは「働いてるから手のかかるものつくってない」が、そのことをぶーたれてはいない様子。ママも風邪で倒れた時に悟朗に料理にきてもらったりしている。悟朗は早く父を亡くしていて、看護婦の母、兄一人、姉三人。母と姉たちが恐ろしく料理ヘタなので悟朗が上達したという身の上。それを恨みには思っていないらしい。「働きながら子供を育てるのはたいへんなことだ」
 直人ママがBFをつくった時、一緒に過ごす間にずっとコンビニ弁当であったことからケンカになり、その相手のおっさんのグチをきかされた悟朗は「あなたがつくったらどうですか?(中略)主婦たちは毎日の食事の支度にあきあきしてるんですよ」  このあとひと騒ぎあって、おっさんは「料理教室に通うことにした!」と言っていたが、出番はもうなかった。 のちに、悟朗の兄の一(ハジメ)が、直人ママと不倫して、妻と別れて結婚する。かつては、妹たちの料理のマズさにキレながら自分が料理する気は皆無だったのだが、再婚してから家事をしつけられていた。


 よしながふみ『きのう何食べた?』のシロさんは、職業は弁護士、同居人(恋人)は美容師で、シロさんのほうが帰りが早いのでだいたい夕食はシロさんが担当している。1回16ページのうち3ページが料理にあてられており、主婦の読者たちから参考になると好評を得ている。
 シロさんが料理を始めたのは、以前ちょっと太った時、当時の同居人の野菜たっぷり料理で元にもどったことがきっかけで、節約とダイエットのために自炊しているという設定。日常のことであるのが重要。なお、同居人のケンジもできないわけではなく、ケンジがつくることもある。シロさんの近所のおともだち、高齢主婦が登場して腕を発揮することもある。

 桑田乃梨子『ケーキ屋ケンちゃん』についてここのブログで書いただろうかと思って検索したが出てこない。
 「ケーキ屋さんと結婚したら、毎日ケーキが食べれるね」と、好きな女の子が言うのをきいたケンちゃん(小学生)は、手作りのケーキをプレゼントしようと、近所のケーキ職人のタマゴであるにいちゃんにニワカ弟子入りして教えてもらうのだった。
 --これすごくいいなぁ。喜ぶことをしてあげたいという気持ちは男女に共通のはず、男の子がお菓子つくってもいいじゃないか。この話で、にいちゃんはカノジョ(未満)に味見してもらうことを楽しみにしていた。

 同じくわたんの『男の華園 A10大学男子新体操部』に関して、06.11.15.の記事からコピー:
 数ヶ月まえに文庫になったので再読した桑田乃梨子『男の華園』で、一人暮らしの男子大学生ユカリが風邪をひくエピソードがある。バイト先で倒れたので、居合わせた女の子二人(部活仲間)がタクシーで部屋に送ってくれた。とりあえ食べるものも差し入れしてくれたが、焼肉弁当だのカレーパンだの、病人には不向きなもの。運良く、念のため見に来た男子新体操部の先輩が、うどんとかモモ缶を持参。おかゆも作ってくれた。
 ここでユカリは、女の子(しかも一人は意中の)が世話やいてくれてるなんてラッキーな状況のはずなんだが、男の先輩のほうが役にたったというあたりが私には愉快である。

 引用終わり。このユカリに片思いしている他大学の新体操部のテツ(男)が、手作りチョコだのお雑煮だのをユカリに食べさせて喜んでいる。見た目がオトメチックなわけではない、むしろストレートにかっこいい奴が健気なので心に訴える。

 以下、08。09.21の記事から引用。ジェンダー視点で好ましいキャラという文脈だった。
よしながふみ『1限はやる気の民法』の田宮(下の名前なんだったか?)
性格・勉学ともに大マジメの秀才。ア法学部主席で金時計もらい、院へ進み、学者コースを歩む。自家製の弁当を学生に分けてやったときのやりとり:「俺もこんな弁当作ってくれる彼女が欲しいっすよ」 「なんだそりゃあ、食べたかったら自分で作れ、女の子は家政婦じゃねーんだぞ!」
 同じゼミの女子学生が不当な白眼視を浴びていれば義憤を感じるし、友だちの付き合いはする、でもホモだから下心は持たない。

引用終わり。

 小説の話だけど、向田邦子の某短編で、失業中で奥さんにも逃げられている男が、昼は食堂、夜はてんやものという食生活だったので、--失業者の状態で毎日外食なんかしてるんじゃねぇっ!!と説教してやりたくなったものである。

 まとまりなく、ひとまずこれで終わる。

翌日付記。
ひらのあゆ『ラディカル・ホスピタル』 滝沢ドクターの妻が寝込んだので彼が料理をしようという際に、女性患者が「注意すべきこと」を尋ねられて、「後片付け!」と即答していた。
コメント (2)
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罪と誤りと美人薄命

2016-09-08 14:16:14 |   ことばや名前
 昔読んだ英米のジョークにこんなものがあった。

 教会の懺悔で
「わたくしは今日虚栄の罪を犯しました、自分を美しいなどと思ったりして」
「それは罪(sin)ではありません、誤り(mistake)です」


 日曜の習慣であったサザエさん&まる子を見ることをしばらく前にやめたが、ネットの記事でたまに反響を知ることがある。
 先日の『サザエさん』の『美人はつらいよ』は、ワカメが「美人薄命」という言葉を知って落ち込んでという騒動。これに対してネットでは、「視聴者からも「ワカメってこんなナルシストキャラだったのかよ」「美人薄命で悩むワカメ、闇が深すぎる」「自意識過剰ぶり腹立つwww」とツッコミの声が多数上がった。」という。「おたぼる」からの記事による。
 「ナルシスト」と、自分を美しいと思っている人とは同じではないと思うのだが。公正に判断して美しいと認めるのが妥当である人は存在するだろうし、美しいと思っていなくても自分大好きの人間もいるだろう。

 上記記事からまた引用:

そしてカツオのクラスメイトの間でも“美人薄命”という言葉が話題に。しかし、作中屈指の美少女のかおりちゃんと、正直フォルムはまったく美少女じゃないが何故か作中で美少女扱いを受けている早川さんは“美人薄命”を気にする様子は全く見せない。これに疑問をもったカツオは二人に理由を聞くと、「私、美人じゃないもん」とのこと。心まで美人なこの二人には「謙虚なかおりちゃんマジ天使」「これこそ真の美少女」「早川さんは実際ブスだけど(小声)」と絶賛の声が飛び、自称・美少女のワカメと格の差を見せつけた。

 引用終わり。

 あの絵では、これは美人の設定だと理解できても実際に美しいと思えはしないのであるがそれはおいて、

「私、美人じゃないもん」
 

 尼寺だの修道院だの、美醜にこだわることがタブーである環境で育ったから無頓着、
  または逆に、
 周囲が美形だらけなので自分がさほどどは思えない
ーーな~んていう事情ならばともかく、明らかに美人である人がそれを否定などするのはかえってイヤミだと思う。

 酒井順子さんならばこの感覚わかってくれると思う。(美人であることを自覚していないふりする人に「ゲロっちまえば楽になるぜ」とカツ丼さしだしたくなる、と書いてあったのはどの本か、あ、『私は美人』だ)

 「謙虚なかおりちゃんマジ天使」なんてコメントしたのはどうせ男だろう。「心まで美人なこの二人」なんて書いた記事の担当者も。
 男はこうだ、女はこうだ、と決めつけることはよくないが。女の記者が担当したら、少なくとも、「心まで美人」なんてことは書かなかったのではと私は思う。美人と自信があることは心の美しさに反するとでも言うのかい、おめでたいな!

 ワカメは「ナルシスト」ではなく、単にミステイクを犯しているだけだ。
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九月だけど

2016-09-01 10:09:20 | 雑記
 早くも9月、でも今日も暑い。朝晩はそうでもないぶん楽になっていると思う。

 今朝、いちど5時に起きたけど、次に目が覚めたら8時に近かった。土曜日だけは7時に起きるのが習慣だけどそれより遅いではないか。


「サーティーワンアイスクリーム」
 きのう、久々に「サーティーワン」に行った。31日には、ダブルが31%引きというサービスが常である。先月も行く予定でいたが、前日に父が行きつけの安いおいしいアイスクリームの店でたくさん買ってきたこともあって、アイスクリームのために外出しなくてもいいか、とパスしたので、8月はぜひとも行きたかったのである。限定フレーバーから気乗りするものを優先して選ぶのだが、これと思っていたものがなぜかもうなかったので、スタンダードから「キャラメルリボン」「ナッツトゥユー」。これはもう女子高時代から変わらない。
 9月10月のチラシをもらった。こちらの限定は、気乗りするものが多い。「キャラメルベルジャンワッフル」「メープルスイートポテト」「キャラメルフロマージュ」「ウーララ!パンプキン」「モンブラン」・・・色合いが茶色~バニラ色が多い。やはりこういうのが食べ物の色としてしっくりくる。某所の藍色の蕎麦だのピンクのカレーだの、・・・そういう悪趣味なことはアメリカ人にまかせておけよと言いたくなる。
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