レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

暗殺の日に

2006-06-02 06:33:13 | Caesar und Calpurnia
12章③ 翌日、3月15日。「夢を見ました。悪い夢でした。私が…」「私も夢を見た。私は天に昇っていく、遠く逮く、きらめく光に包まれて。ユピテルが雲の上で私に向かってきて、私の手を取り、一緒に地上を見下ろそうとして」
「私は貴方の遺体が倒れているのを見ました、黒い血が口から流れていまた」"カエサルの口元は微笑んだ、しかし目は冷たいままだった:「ではほとんど同じ夢だ一一細かいところは違うが」「もう一度言います:いらっしゃらないほうが私は嬉しいのです」「占い師たちは君と同意見だ。今日の予兆はまった<良くない。こういう条件ならぱあるいは…」 カエサルはアトリウムの池の水面から葉を拾い上げる。「この葉は金のモザイク画の石のほうに見える。まるで釜から落ちたようだ。こんな小さい石では、大きなモザイク画がなにを表しているのかはほとんどわからない。私たちがすべての石を個々に知っていたとしても、その絵を知ることはない」 「そしてすべての石がその位置にあるときでさえ」、カルプルニアは答えた、「モザイクをわかっているということにはなりません。大きなモザイクを理解するにはあまり近くにいすぎるということがよくありますから」… 「今目の会議は中止すべきかもしれん。大神祇官が神々の報せに敬意を払うのは・・・」 ここでデキムス・ブルートゥスがとぴこんできて説得します。 カル「行かないで下さい、悪い夢を見たのです」… ”カエサルは相変わらずカルプルニアに背を向けていた。彼は池の澄んだ水の上の葉を見ていた、首をふって言った:「波の上で小さな葉が揺れている、全<孤独に!」
「あれはモザイクから落ちた葉ではありません」ようやくカエサルは彼女のほうを向いた、、「そうだ。しかし、だからこそ無意味でもある。あれがモザイクの中の一片であれば、私たちはそれがどこのものかわかっている。それならば意味がある。あれはただの水面の葉にすぎない」「私たちは両方とも、モザイクの意味を知ることが難しいとわかりました。貴方は、世界はただ一つの意味しかないという考えを改めるべきかもしれません、世界がモザイクの 石のようによく調和しているならば」「私はこの葉のようなものだろうか?ローマとはひとつのモザイクだ、そして私はその中の一つの石だ、金の石であったとしても。モザイクなしではカエサルはカエサルではない」「カエサルがただのモザイクの石ですって?カエサルは自らがモザイクなのです、その絵がしまいにはどうしあがるのかまだ長いことわからないのです」 "彼女は夫に対して一歩踏み出した、少しためらって、手を彼の手に伸ぱした。カエサルは腕を上げ、妻の手を握ろうとしたようだった、そのときアルビヌスが彼の肘をつかみ 、言った:「行きましょう、時間です」 カエサルはうなずき、アルビヌスと腕をくんで出ロヘ向かった。

         ・・・・・・・・

このあとは暗殺の場面、そして遺体がカルプルニアのもとへ運ぱれてきて終わります。

          ・・・・・・・・

「彼の体を、たくさんの赤い染みのある白い布を見ていた。血のついた穴を数えることを、12まででやめた。再ぴ覆いをかけた。そしてストラを肩にかけて扉へ向かった。遺体は残しておいた。じきに誰かが引き取りに來るだろう。死者はまだ必要とされていた。」   完


断片的なこと
・カルプルニアは、ほっそりして長身という設定、クレオパトラはふくよか型。
・この小説では、いちばん普通の女はフルヴィアだと思います。夫を出世させたくて躍起になったり、でも不倫はしていたり(相手はドラベラ)。アントニウスをセクシーだと思ってはいるけど、マッチョを誇示するとバカに見えるのでやめて欲しいと思ってる。このアントニウスは、かなりバカ、でもヤな奴という感じは受けませんでした。
・カエサルはバイだと思われている。フルヴィアは、「彼は確かに多くのローマの婦人たちを征服したけど、実は男のほうが好き」だと思ってるし、カルプルニアも、「若い男と、あるいはセルウィーリアか女王と一緒のところに出くわすかもしれない」という思いから、夫の私室に近づかなかったということだし。こういう描きかたしてるので、もしオクタヴィアヌスを美少年にするとそれが理由で養子にしたように取られるから描かなかったのか、と好意的解釈をしておきます。
・このカルプルニアは、夫が権力者であることにも恬淡として、一人の時間を大切にする、心が自立している。私はこういう人たいへん好きです。

ひとまず紹介はこれで終わりにしておきます。読んでくださってありがとうございました。この先も、断片的にローマ小説に言及することはあります。
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クレオパトラの訪問

2006-06-02 06:24:09 | Caesar und Calpurnia
12章② 同じ3月14日の夜、カルプルニアをクレオパトラが訪ねてくる。 美術品収集に目をやるパトラ。「カエサルは私に収集品を見せたがって、たぴたぴ送ってくださったけど、ここへは決して連れて来なかったの」「カエサルが一緒でなくともご覧になれましたのに」なんてやりとりのあと、暗殺の陰謀 の件に。落ち着いて見えるけど眠れなかったというカルプルニアに、パトラは、「私は眠りで困ったことはないの」、エジプトの宮廷では常に暗殺を警戒していなけれぱならないので、逆にいつでもどこでも眠れるようになるのだと語る。「私ならばそんなことに慣れられるかどうか」"クレオパトラは苦く嘲笑った 「そんなに長い間彼のそばにいたのに、誰も貴女の命を狙わなかったなんて、貴女にとっていいのか悪いのかわからないわ」 「私が権カの間題に関わらないことはよく知られておりますから。エジプト女王はローマの妻よりも敵が多いというだけのことでしょう」"クレオパトラは、カルプルニアが明らかに気を悪くしていないことに驚いた。女王がただ事実を言っただけであるかのように答えていた。クレ才パトラは肩をすくめた。:「それは妻によって違うかもしれないわね。フルヴィアやセルウィーリアならば別の考えでしょう。どうして貴女は政治に関心を持たないの?」「関心はありました。いまでも持っています。でも私は、自分がそこで役割を演じることはないと知っていました、だからそうしようとはしなかったのです」「謙虚さの裏になんて高慢さが隠れていることかしら」「どちらも私にはあてはまらないと思いますわ。私は現実を見ているだけです」クレオパトラは激しく首を振った「いいえ、貴女はご主人に重んじられているわよ。誰に きいても同じ、貴女の賢明さは賞賛されている。貴女が彼の遺命を自分のものにしようと試みさえすれぱ、貴女は彼にとって大切な腹心になったでしょうに」「私は、彼の運命を私のものにしようとしたかったかはわかりません。誰かの運命を自分のものにしなけれぱならないと強いられたくもありませんでした」クレオパトラは嘲るように笑った:「貴女は自分のものを持とうとしなかったの?ローマの政治家の妻として?高慢なこと!」 「私は自らのものを持っています。なにかを自分のものを呼ぶためには、軍隊を指揮することも、国家を治めることも必要ありません」「では何を貴女のものだと言うの?彼の持っているものと比べて、何を所有できるの? 貴女のご主人は16才で自由を宣告された、キンナの娘と錯婚していたから。こんな世界に生まれ落ちたならば、軍隊を指揮し、集団を治めることができないと自分のものを持てないのよ。自分のものを探し出せない。これが運命なの。どうして貴女は、夫の運命とは違うなにかを自分のものと呼べるというの?」カルプルニアの芦はかすかに震えていた:「私が私自身のものです」「馬鹿馬鹿しい、理解できないわ」「どうしてここへいらしたのですか?」「私は、明日起きることになっていることを止めたいの」…「貴女はカエサルにとって大切よ、彼が自分で認めているよりも。私は彼を説得しようとした、でも無駄だった」… 「彼が出かけるまえに、危険に赴かないで
<れるほうが嬉しい、と言います、でもそれ以上はできません」…「ヒルティウスは、貴女が自ら陰謀に加担していると疑っていました。そうなのですか?」「私はことを操ろうとしたの、だから加わった。カエサルを私と結ぷように仕向けられると思った。でも馬が多すぎて手綱をとれなくなってしまったの」…「あのころカエサルは10ヶ月アレクサンドリアで過ごした。私はほとんど一緒だった。敵 を倒してからナイル河を下って私の王国を我が物にした。彼は私に考えをなんでも打ち明けてくれて、計画を話し合って、私の助言を求めたの。でも、数週間まえに、カエサルが髪を整えることが上手だなんて知ったときには驚いたわよ」"カルプルニアは口を開いた、しかし何も言わなかった。クレオパトラは短く会釈し、出て いった。"
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陰謀をめぐる夫妻の会話

2006-06-01 13:18:01 | Caesar und Calpurnia
最終章・第12章①

3月14日、悪天候。レピドゥスのところでのパーティにカルプルニアは行く気がしない。陰謀について、カルプルニアはヒルティウスからもポルキアからも聞いている。「こんなに大勢が知っているのはおかしくないかね?そもそも「陰謀」という言葉がもうふさわしくないな」「ローマとは町ではない、ローマは唯一の劇場なのだ。そこですべての人々が舞台の上の、または一冊の本の中の登場人物のように語りふるまっている。あるいはたくさんの本か、喜劇、悲劇、歴史書。そして彼らのすべてが救い手だ:クレオパトラはエジプトを、ブルートゥスは我らの父祖の祖国を、ヒルティウスは私を。誰もが自分の役をよく知っている・・・」 「私が興味を持っているのは、貴方が明日の朝、ご自分にどんな役をふるのかです、ローマの紳士たちが歴史書に新しいぺ一ジを書く、あるいは芝居に新しい場面を加えるときに」「それで君はどんな役を私に勧めるかね?」 「貴方は芝居の人物ではありません、自分でお言きになるといいわ」 「君が指示をくれたら自分で言こう」「私はほんの数日前に、本を書<忠告をしたぱかりです。貴方は拒絶なさった。どうして突然の心境の変化ですの?」 「私は単に助言を求めているだけだ。君の望みを知りたい」 「貴方は私に助言を求めたりなさらなかった。政治のことには全く。それは正しいことでした。それなのになぜ今、この時に?それで貴方は私に重過ぎる荷を負わせるの?私は貴方にとってほとんど他人ですのに」「君は私が、元老院の紳士たちのくれた役を漬じることを望むのかね?」「そんな問いは侮辱です」「なせ、考えていることを言おうとしないのだね?」 「貴方は、ガリアを征服して無数の人々を死と隷属に追いやろうというとき、私にきいたりしませんでした。ルビコンを渡って、数百年の共和国にとどめをさそうというときにも。どうして今私にお尋ねになるの?」 「私は、明目どんな役を演じるべきかを知りたい。なにがそんなに難しいのだね?」「私はこの15年、『高潔な主婦』の役を自覚して演じてきました。私は私の生活をおくり、政治とは常に距離をおいてきました、政治は男も女も破減させるからです。貴方は、こんなに長くたってからでも私の生活に踏みこむことはできます、しかし、15年もたってから貴方の政治に私を引き入れることはなりません」
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オクタヴィアヌス唯一の出番

2006-06-01 13:12:44 | Caesar und Calpurnia
第7章から。 養子になったオクタとカルプルニアの会話の場面です。彼はじきアポロニアヘ行くことになってます。

「まだ貴方に、マギステル・エキトゥムになったお祝いを言ってなかったわね。高い地位で大きな役目よ」''オクタヴィアヌスは疲れたように微笑んだ、「確かに高い地位です、しかしむなしいものでもあります。僕はまだ戦場の経験がありません。ほんの少し陣地の生活を学んで、武器の扱いを習って、偉大な行軍の歴史を本で読んだ、それ以上ではありません。僕は軍事的には無価値です」「まだ戦闘をしていないならぱそれを知ることはできないでしょう」「知るべきことは多くはありません」「貴方は自分の新しい地位 が気に入っていないようね。
ローマ中の若者たちが貴方をうらやんでいるでしょうに」 「そもそも僕がそれを望んでいたかもきかれませんでした。そして僕自身自分に問いは しなかった。僕は自分の運命へと生まれつきました、貴女が結婚によってそうなったように。その運命とはカエサルです。そしてカエサルとは戦争です。いまや僕もカエサルだ」「たいていの若者は戦争が好きだわ、戦闘のざわめき、角笛の響き、野営のたいまつ、戦友のつきあい、荒っぽい陣地生活、冒険、富、名声の望み」「…飲んだくれ、略奪。僕は平和のほうがいいです」"カルプルニアは好奇心を持って彼を見た、しかし何も言わなかった。「もちろん僕だってカエサルの偉大な征服には感嘆しています。彼の軍事行動はただの向こう見ずとは違います」「謝ることないのよ。貴方が本当に考えていることは面白いわ。私の戦争への愛も決して大きなものではないもの」『カエサルはきっと、僕に軍事の才が欠けていることや戦闘好きでないことがわかってしまうでしょうね』「きっととうに知っているわよ。そんなこと見逃すはずないもの」「ではどうして僕を養子にしたんでしょう?どうして、たった19才の僕を戦場につれていって、第二の地位につけるのでしょう?」「きいてごらんなさい」「僕が一緒に行けば、もう後戻りはできません」



 立場の変化にとまどっているオクタは普通のひとのようです。直接の出番はここだけです。
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雪の夜の語らい

2006-05-31 19:47:07 | Caesar und Calpurnia
第7章② 
雪の音で目を覚ましたカルプルニアとカエサルの語らい。抄訳します。


廊下の果てで二本の柱の間に見える夜の庭は、黄色味を帯びたバラ色に輝いていた。それはカルプルニアが一度も見たことのない眺めだった。そもそもその夜はいつもよりはるかに明るく見えていた。彼女は、庭を囲む柱廊にはいり、空を見上げた。雲ひとつなかった。月は珍しいほど冷たく澄んで、銀の光を下界へ恵んでいた。いまや彼女は、列柱廊に囲まれた庭全体を見渡すことができた。すべてが、庭を夜でも明るく照らしている穏やかな赤味がかった灯りに包まれていた。ふだんは闇の中で灯りが気前よく光を投げて人目をひいているのであるが、今日は、あたかも地面そのものが反射して、独特のこの世ならぬ光をもって夜に挑戦しているかのようだった。
 カルプルニアが二度目に見渡したとき、この変化がなにから来たのか気づいた。庭中が、ひざの上まで積もった厚い白い層に覆われていた。ほのかにきらめく白は目の前に横たわっていた。それは、かたまった海、柔らかな動きのない波と渦のように見えた。ベンチも藪も小像もその下に消えていた。だたそこここで小さい木と彫刻が突き出て、たっぷりした白い被り物の下でほとんど見えなくなっていた。カルプルニアは柱の間に出てかがみ、その白いものを少し手に取った。するとそれは指に押されて小さな輝く水晶の欠片に砕け、ついには溶けて、冷たい濡れた染みをして残った:雪であった。
 彼女は、雪を見たことはあった。冬にアペニン山を横断したときに何度か、遠くの山頂にかかっていた。雪片も知っていた。時折落ちてきて、重くて湿っていて、すぐに雨に変わり、ぬかるみをあとに残すものだった。(略)
 そしてもちろん氷を知っていた。北のアルプスから運ばれてきて、料理や飲み物を冷やすために倉の奥深くしまわれているものだった。しかし、これほどみごとなものは記憶になかった。この厚い柔らかな輝く白の中に飛びこんで身を沈め、それまで知らなかった白さの中に浮かんで泳いでみたいくらいだった。そのとき中庭の反対側で音がした。雪のひとかたまりが屋根からすべり、砕け、半ばは塊として、半ばは粉々になって地に落ちた、少しの残りだけが貯水池にかかっていた。
 するとカルプルニアは中庭の反対側の柱の間に彼の姿を認めた。(略)
「眠れなかったのかね?」
「きしむ音で目が覚めましたの。あなたもそのようですわね」
「私はもうそうたくさんは眠らないのだ。この歳になると、夜とあらためて親しくなる」
「あなたはいつでもどこでも眠れるとまえにきいたことがあります」
「昔のことだ」
 彼は柱にもたれ、腕を頭の後ろにやり、右足を曲げて石を持ち上げた。カルプルニアは顔を庭に向けた。
「雪は美しいこと」
「私は降るのを見たことがある。二時間以上立って、落ちてくるのを見ていた。あれは私の覚えている一番深い雪だった。たくさんの雪を顔に受けたこともある、ガリアで、アルプスで、ほかの地で」
「そんな眺めは羨ましいですわ」
「ほかにも羨ましがりそうなものを見たぞ」
「きっと、決して私が羨ましがらないものはもっとたくさんあるのでしょうね」
「たとえばガリアやゲルマニアの濃い森だ。果てしなく深い緑、君が目にしたなによりも暗いのだ」
「そんなもの、決して私は見ることはないでしょう」
「私がもどってきたら、新しい属州をまわる旅ができる。君も一緒に来るといい。私の征服地を全部見せよう、ローマの新しい民が敬意をこめて迎えてくれるだろう。(略)ガリアとゲルマニアの森はそうたやすく人間に刈取られはしない。私が戻ったら君も見られる」
「では決してないということですわね。ガリアを征服するのにほとんど10年かかりました。いまやあなたはパルティアへ進軍し、たぶんインダスまで、かつてアレクサンドロスでさえも引き返さざるをえなかったところへ。それから、パルティアを負かしたら黒海まで。終わりのない遠征ですわね」
「パルティアはローマの最後の大敵だ。彼らは我々の東方の平和の秩序を脅かす」

      ・ ・ ・ ・ ・

このあと部屋にはいった夫妻の睦みあいの場面がなんとあります!翌朝「愛の一夜のあとで」のメッセージつきで本が贈られる、しかしそれが『アンチカトー』で、その辛辣な内容に動揺するのでした。
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髪結いカエサル

2006-05-31 19:42:03 | Caesar und Calpurnia
第6章
カルプルニアの侍女のアスパシアは、何者か(クレオパトラの手下のフィロストラトス)に、主について報告させられている。特に夫婦間の様子を知りたがっている。あるとき、アスパシアがカルプルニアの髪を結っていて、いつもの簡単な型でないものをつくろうとしている、でもすぐに疲れたと言って横になってしまう。そこにカエサルが来て、自分 で妻の髪を「本職のように上手に」つくってしまう。しばらくして奥様は両手で旦那様の手を握って、その手の甲をご自分の唇に導いて、そしてもう一度頬にあてました、その間旦那様は後ろからかがんで、もう一度髪の分け 目に接吻なさいました」
「それで?」「それから鼻を分け目にそって動かして、髪の香りを かいで…」一一なんてところでアスパシアは、カーテンの向こうに人がいるのを感じます。その人物が一度だけ「そのあと彼は?」と口をはさみます。 仕上がった髪をカルプルニアはほどなくまたもとの簡単な髪にもどしてしまうのですが、「その日は無口だった」というから、やはり感じるところがあったのでしょう。髪いじりと一緒のささやかな愛撫の様子に、クレオパトラが嫉妬して出てきて(声だけ)しまったという場面なんですな。
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クレオパトラの宴

2006-05-30 05:33:49 | Caesar und Calpurnia
第3章

ローマとエジプト宮廷の重要人物たちが招かれています。だいたいがフルヴィア視点です。サンダルに小石がはいって気持ち患いけど、紐を編むのに手間がかかっていて、やり直してると遅劾してしまうので仕方なくそのまま出てきた。会場までの間が迷路につくってあり、苦労して到達する。いちばん肝心の客であるカエサルがまだ来ていない。ヒルティウスは、迷路の中で発作おこしてるのじゃないかと心配する。その発作をカエサルは人前で起こしたことはないけど、フルヴィァはいちど見てみたいと思っている。この病気を神々の恵みの印だと噂する人々もいるが、彼女は馬鹿げていると思う。キケロが「客たち全体は三つに分かれている、~」と、「ガリア戦記」の冒頭を茶化したことを言い出したのでヒルティウスがむっとする、しかし怒りを表すまえに''独裁官の声が上から響いた:『私がどこまで諸君の忍耐カを濫用するのかと問うのか、キケロよ?さあ、答はここだ』 皆が驚いて木の上を見上げている聞、カエサルはよく繁った木から下りてきた。客たちは笑い、拍手した、カエサルの登場が完壁だっただけではなく、彼がキケロのカティリー ナ事件での言葉をみごとに茶化したからである。" 一座の話題が『名声』というテーマになったとき、キケロが、敗北者のそれが勝利者をかき消すこともある、と言い出して、暗にカトーのことをほのめかすので、ポルキアは刺激される。パトラは「でも勝利のほうが私には好ましいですわ。敗北の中の偉大さは誰の役に毛たちません、でも勝利者には、良きことをなす可能性が残されています、例えば、敵に慈悲をかけるとか、たとえ彼らが愚かで犯罪的であっても。他者に慈悲深くあるほうが、己に厳しくあるよりいいことです、それは誰の役にもたちませんもの。他者の役にたつ者だけが、真の名声に値するのです」と語る。話の間、カエサルは『カトー』への反論を書くことを考える。 カルプルニアが発言する、「そのとおりですわ、女王。大切なのは、人々の役にたつことだけです。でも私たちはそもそも名声が必要でしょうか?役に立つことをなす」とで充分ではないでしょうか?その価値はすぐに証明されて、未来の世代で証明されるまで待つ必要もありません。善の効果は数世紀も評判が続くかどうかに関わらずに発揮されます。そして名声は、己以外に役にたたない人々までもたぴたぴ手にいれてしまいます」''カエサルは、賢い教師が、熱心な、しかしいささか未熟な生徒に対してのように妻に答えた:「ほかの国の同性よりも、自ら名声を得る機会の乏しいローマの婦人にとっての特権とは」、ここでカエサルはクレオパトラにお辞儀した、「人々の幸福のみを求めて己の不滅を求めないという無私の美徳だ。君は我々を恐縮させるな、カルプルニア」「どうして女の美徳はいつも無私でなければいけませんの?いずれにせよ、私は自分にそれを求める気はありません。でも私たちがいつも名声ばかりを見るならぱ、あまりにもたやすく、そのための犠牲を見過ごして、誰もそれを語ろうとはしません。もし 名声が重荷のように分け与えられているなら
ば、私ももう少しなじむことができるでしょう。でも名声はごくわずかな人にしか関わらず、そしてそのために多くの人が血を流さなければならないのです…」これの前の場面で、クレオパトラがピンダロスの詩を引用したときに、カルプルニアがそれをそっと訂正するひとこまがあります。つまり、クレオパトラに劣らぬ文学通で、無欲で慎ましく、かつ自我も備えている聡明な婦人であることを、これらの場面が存分に伝えているというわけです。この章のラストは、帰りの小船の中で、やっとサンダルを脱いで小石から解放されたフルヴィア、隣でアントが高いぴき、大の字になってるので妻は窮屈、という場面です。実にバカです。
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読書家のカルプルニア

2006-05-29 07:28:57 | Caesar und Calpurnia
ところどころの場面を紹介していきます。

第2章②
カルプルニアが読書してます。(「本に囲まれて過ごすのが一番楽しい」カルプルニア様、好感度大!) そこへカエサルがスペインへ発つまえに別れを告げに来る。「女王にはもう挨拶なさいましたの?」「ああ」 ”カエサルは咳払いした。カルプルニアがエジプト女王との関係に触れるといつも、独裁官は、まるで苦しいような、ほとんど妻に負い目があるかのように見える。たいていは、小さな咳払いをしたり、目をふせたり、あるいは天井にちらと目をやったり。しかし今回は違っていた。彼は当惑したままだった。「行くまえに話がある」「女王に関係したことですの?」「そうだ」 「離婚」という言葉が浮かぶカルプルニア。しかし話はカエサリオン認知の件。「君が気を悪くしたならすまないが」「そうかもしれません。でも、だからといって貴方が決心を変えはなさらないでしょう」「ああ。しかし心配することはない、これは特に影響はないだろう。クレオパトラの心証を良くするだけのことだーーのちには息子も、理解できるだけ大きくなったらな。しかしそれ以外は形式上のことだ。政治的にも法的にも意味はない。オクタヴィウスだけが私の跡継ぎであることにかわりはない」「私は気を悪くしてはいませんわ」「そして彼女はためらった。カエサルの跡継ぎがカエサリオンかオクタヴィウスかでそもそも違いがあるだろうか?しかし彼女は続けた:「その反対です:貴方が子供に対する責任を果たすのは正当なことだと思いますーー母親に対しても」「わかってくれて感謝する」「それにはおよびません。私は女王に嫉妬してはおりません」「君の寛大さには感心する。嫉妬することを知らないのか」「そうは申しません。私は、女王に嫉妬していないと言ったのです」「私たちに子供がないことを残念に思うかね?」「カルプルニアは、両手を、握りしめてしまわないように腿の上に平手で置いた。どうしてこんなことをきくのだろう?しかし冷静に答えた:「ええ」「私の子が欲しかったか?」「子供が欲しかったわ」「父親が私であることは重要でなかったのかね?」「重要です。私は貴方の子が欲しかった。私は貴方と結婚した。それでほかの誰と子供を持ちますの?」「いまでも子供がいれば嬉しいかね?」「ええ」、とカルプルニアはため息をついた、「でもしょせん無駄な問いです。私が身篭ることはありそうにないでしょう」「確かに。結婚以来そうならなかった、ではもうそういう幸運はないだろう。私たちはもう長い間・・・」カルプルニアはゆっくりうなずいて腕を胸の前で組んだ:「「私たち」と言ってくれて感謝します。「こういうことではたいてい非難は妻の側に来ます、特に、夫側で既に子供を得ていた場合には」「私は真剣に言っているのだが・・・」「わかっています、だからこそ嬉しいのです」「医者はわかっている、こういうことは、言われているよりも難しいのだと。私はポンペイアとも子がなかった。ポンペイアはクロディウスと結婚するとすぐ身篭った、一度ならず。  もちろんまだ遅くはない。試してみるのは大事だ。結局君はまだ数年・・・もう長く・・・しかし・・・」 カルプルニアはそっぽを向き、首をふって黙った。カエサルは視線を机にやった”「もう貴方は安心して戦争に行けますわね。いつスペインからお帰りか誰にわかりましょう。数ヵ月後?数年後?」「今回は短いだろう」「ガリア征服を決心したとき、貴方は、プロコンスル職5回で充分だとおっしゃいました。でもさらに5年かかりました」「君は私の戦術をあまり信用していないようだな」「戦争を信じていないのです」 カエサルは、カルプルニアの読んでいた本を手にする(「君は町の図書館の人々の間で賞賛されているよ、知っていたかね?」)、内容を読んで「こんなことを書くのは一人しかいない:キケロだな」  その本は「カトー」でした。
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小説の全体像

2006-05-28 20:12:59 | Caesar und Calpurnia
Andrew Johnston の『Caesar und Calpurnia』は、ドイツの権威ある出版社 Fischer Verlagから出ています。英語の著者名ですが、スコットランド人の父とドイツ人の母を持ち、ベルリンで学んだドイツ語作家です。英訳が出ているかどうか不明です。かつてあるサイトに載っていた私の紹介を、編集を加えてここに再掲載します。

まずは、小説の全体像から。もちろんこれらは正確とは言いかねる訳です、わからなけれぱとぱしたりごまかしたりしていますのでお含みおきください。

序 オウィディウスの前書き
流刑地で、かつてアウグストゥスに、カルプルニアのことを書いてほしいと言われていたことを思い出してそれを実行するという前書き。
第1章
①”カルプルニアはいつも早く起きた、起こされることはなかった。これは実家で覚えたことで、いまなおそうしていた。これを夫は気にいっていた。彼がそう言ったことはなかったが。そしてそう言ったとしても彼女にとってさほど重要でもなかった。彼は妻にあらゆる自由を認めており、けして非難しなかった、しかしほめることもめったになかった。じきに15年になる結婚生活の中でカルプルニアは、それを無関心とは見做さないことを学んでいた、いずれにせよ夫婦間の普通の無関心ではなかった;明らかに、彼はどうでもよさそうな個々のことにまでよく気がついており、それらを、カルプルニアがかつて「大きなモザイク」と呼んだものの中へと組み入れていた、かつて、彼女がまだ夫のことを常に考えていた結婚当初。彼の思考は大きなモザイクだった。様々な石が、ほかのたくさんの石と共に一つの巨大な関連の中に並んでいる。しかし、個々の石しか見えていない限りその関連はわからない。カルプルニアは、結婚して以来、自分が、稲妻のはしるときだけ光のさす豪華な暗い広間にいるような気持ちになっていた。稲妻がさせば一瞬モザイクの床の一片が見える、しかし無数の石が何を描いているのかまではわからないのだ。すべての人々が彼女の夫がなにを考えなにを計画しているのか、冗談を言っているのか本気なのか、決してわからないと驚くとき、カルプルニアはただ同意するしかできなかった。” 
このようなイントロのあと、クレオパトラがローマに来るという知らせがカルプルニアのもとへ。フルヴィア、ヒルティウス、カエサルの順番でやってくる。「今日にも着くでしょう」とヒルが言ってるところへ「彼はもう来ている」と本人の声。三人称で言ってるのは『ガリア戦記』をふまえているのですな。
②パトラ、悪天候のため予定よりも苦労して上陸。カエサルの訪問。離婚を迫るパトラに「私はかつてスッラに刃をつきつけられて離婚を迫られた時に拒否した。いま違うことをすると思うかね?」ときっぱり却下。
第2章
①カエサルとカルプルニアの会話、(後述)
②ムンダ
③キケロとブルートゥスの会話
第3章パトラの館での宴童要な場面で長めの章、後述
第4章
①パトラとおかかえ哲学者フィロストラトスの会話。カエサリオンの認知だけでは不満なパトラ。彼女に対する何者かの襲撃事件。パトラも陰謀を考える、カエサルと元老院との間を決定的に裂いて、自分のほうへと結びつけようという。
②ブルと母セルウィーリアの会話。自分の父がカエサルなのか問い詰めるブルに、否定する母。
③カル、幼少時の夢。カエサルの発作を目撃。
第5章
①カエサルとヒルティウスの会話。パトラに対する襲撃の一件、しかし彼女はそれをカエサルにも報せていない。
②フルヴィアはドラベラとの密会現場に赴くが、そこにはフィロストラトスがいる。襲撃の犯人かと疑っていたけど疑いは晴れたと言う。
③キケロをカエサルが突然訪問。入浴しながら会話。キケロの娘トゥッリアのお悔やみに来たと言う。キケロ「何年もの間、娘は一番の友だった」「よくわかる。ユリアも成長が早かった。ポンペイウスに嫁がせたときはまだほとんど子供たったが、なにをなすべきかよくわかっていた。ポンペイウスはユリアとあって幸せだったーーユリアもまた。ユリアは私の知る最も優しく賢い人間だった」「トゥッリアは結婚で幸せではなかった。結婚について私はいい手本ではなかったが」なんて話をしていて、そしてキケロが若い妻と離婚しようとしている話になる。「あなたのほうが若い女たちとはうまくやっているようだ」「私の妻は確かに私よりだいぶ若いが、しかしもう全く若いとは・・・」「私が言っているのはもちろん女王のことだ・・・」
 このあとキケロの話はカエサルへの嫌味になっていく、いつのまにかカエサルは眠っているように見える。そしてカエサルは、新しい著作を進呈して帰る。
それが『アンチカトー』。(思いっきり意訳)「あのヤロー、これを渡しに来たのか!お悔やみと思ったのがバカだった!」
 ”トゥッリアを思い出さずにはられなかった。いつも父の「子供じみたかんしゃく」を笑っていた。彼はため息をついた。カエサルを理解するのは不可能だ。''

第6章
①アントニウスをパトラが訪問、先日の事件を語り、カエサル暗殺をほのめかす(?)。
②カルブルニアの侍女のアスパシアは、案はフィロストラトスに抱きこまれていて、夫妻の様子を報告させられている。後述。
③おばを訪問したカルプルニアと、近所にいるポルキアとの会話。
第7章
①アントニウスとヒルティウス、パトラの件で話す。
②雪の音に目が覚めたカルプルニア、カエサルとの語らい。(後述)
③アントニウスを篭絡しているパトラ。カエサルに、抵抗できないような贈リ物をして、反対派を煽る事態を招く提案。
④カルプルニアとオクタの会話。後述。
第8章
①ブルの秘書アンティパーター(父はニコメデス王の侍医だったが宮廷の陰謀で処刑された過去を持つギリシア人)にフィロが接触、陰謀に巻きこもうとする。
②アスパシアの報告。気分のすぐれないカルプルニアに、カエサルは珍しいガリアのケーブを持ってくるがカルの気は晴れない。
③剣闘士養成所にブルが来て、短刀の使い方を習う。出入りしているアントと稽古
(?)。
④ルペルカリアの祭。カエサルに王冠を授けるパフォーマンスの事件。(これで、7③でのパトラの提案した「贈り物」が王冠であったことがわかります)
第9章
①カルとおぱの会話、変わってた婚礼の目の思い出。
②ブルに暗殺を催促する匿名の手紙
③ブルと母の会話
④カルプルニアにポルキアが、暗殺の陰謀を知らせる。しかし報せても無駄だと彼女自身思っている、たとえ失敗しても、独裁に抵抗する証だけでも充分だと語る。「私は夫のそばで死ぬ覚悟はできている。彼が祖国のために命を捧げるならぱ、私は引き返さない。言いなさい、あなたが聞いたことを、あなたの手も気高い人々の血がしみつくように。あなたのご主人に告げなさい、終わりが近づいていると」ポルキアはそれまで父カトーを賞賛する気はないと言っていたけれど、「いまこそあなたがカトーの娘になったのが見えるわ」とカルプルニアは言う。
⑤フィロはアンティパーターを待っているが、見知らぬ男たちに消される。
第10章
①C&C,『アンチカトー』をめぐっての会話。新しい本を書いて、『アンチカトー』でのことを謝罪してほしいと庸うが拒絶。「私のカトーについての本は君には関わりない。私たちとは関わりない。問題なのは政治であり、私の名誉だ…」
②パトラ、アントに暗殺決行時の行動を指示
③キケロと暗殺者たちの会話
第11章
①ヒルティウスは不眠症、アンティパーターが陰謀を密告。
②カエサル、パトラを訪聞。カエサルば既に暗殺の陰謀を知っている。行かないようにパトラは警告する。
第12章(①②③後述)
①C&C
②パトラがカルプルニアを訪問、カエサルを議場に行かせないように告げる。
③暗殺決行の日。
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