レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

ハゲを巨乳が代替することについて。

2017-05-31 13:50:50 | マンガ
「ユリア・カエサル 当ブログでの記事」
 少し前の、しかしカテゴリーは「ローマ」にしておいたライトノベル『ユリア・カエサルの決断』に関してもっと言いたいことが出てきた。どのカテゴリーにしたものかたいへん迷うところであるが、比較対象がマンガも出てくるのでマンガにしておく。

 ネタバレはあるので嫌な人は避けて頂きたい。



 まえの記事とダブるけど最低限の説明をするが、
古代ローマの好きな男子高校生のセイヤが女神ディアナに命じられて飛ばされた世界には巨乳美少女のユリア・カエサルがいて、彼女をサポートすることになる。
 ガリアを降して、ユリアはセイヤに「アウグストゥス」の名を授けたーーというところまでが1巻の流れである。

 つまりこの世界には、我々の知るアウグストゥスがいない。大ざっぱに言えば、アウグストゥスが女神と契約してセイヤに生まれ変わっていたということらしい。

 セイヤも、「かわいい坊や」なんて言われているところからしてまあまあの容姿であるようだが、絵の上で特別感はない。男読者が自己投影するためには男主人公が美形過ぎてはいけないということなのであろう。

 カエサルの要素であるハゲの女たらし、借金王、これらのうち、借金王はそのまま引き継いでいる。
 ハゲという欠点を、当時のローマの女にはマイナスである「巨乳」に置き換えている。・・・都合良すぎないかい。女読者が巨乳設定を嫌がるとは限ったものではないのだが。
 カエサルは長身痩躯が史実である。筋骨たくましい男を女に移すならば「せくしーだいなまいつぼでぃ」になるだろうが、細身型ならば女にしても細身のほうが妥当ではあるまいか。
 しかし、この点はまだ罪がない。
 「女好き」という要素を、ユリアもまた持っている、ただし、美女やかわいい女の子に声をかけまくりプレゼントをし甘い言葉をささやき、という程度、せいぜいハグ程度。
 そして、男に対してはウブ。

 女好きな男を性別逆に移すならば、男好きの女になるのが自然な発想ではないのか?しかしそうはしていないのである。それで、たわいのないレベルの「女好き」ーーガチ百合だと多くの男読者が(たぶん)腰が引けるからだろう。そして、男ズレはしていない。


 ここで、性別転換のほかの作品を例に挙げてみる。ほかをけなしながらほめるのはそのほめられる側にとっても良くないとは言うが、それをしたいことはあるのだ、勘弁してもらおう。


 例1『ヘタリア』
 「国擬人化」マンガのヒット作は、多くが男キャラになっているが、性別逆だったらというバージョンもちょこちょこと描かれる。(読者の二次でも、作者自身でも。なお私は二次まで手を出していない)
 「ドイツ娘:無口、真面目、胸がでかい。/苦労人。体はしっかりしてるが結構女らしい。」
 男の「ドイツ」は筋骨たくましいのであるが、ここで女の場合「胸がでかい」という点に納得できる。


例2 よしながふみ『大奥』
 ・平賀源内は男色家だった。このマンガでは男装した女で、同性愛者である。露骨な描写はないけど、役者と愛人関係であったことは取り入れられている。
 ・老中阿部正弘は、史実では、美男+太っていた と伝わる。このバージョンでは、ぽっちゃり美女になっている。(裸の場面はないので胸がどうかは不明)
 代々の将軍たちが史実でどの程度女好きであったか私も詳しくないが、少なくとも、史実は女好きだったのに女キャラに移したからそれはナシ、ということはしていない。5代目綱吉はかなり放埓に描かれているし、8代目の吉宗も、せっせと仕事するかたわら男にも手を出す。
 「オットセイ将軍」家斉は男のままで登場するが、本来好色な性質ではなかったとしている。
 13代目の正室は、珍しく常識的に(?)、男に移したキャラはけっこう過去には遊んでいたようである。


例3 高殿円『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』
 このブログでも話題にしたことがある。ホームズ物語を、現代に、そして主要キャラたちを女に移した小説。
 原作のホームズは長身で瘦せている。(美男設定ではないけど) シャーリー・ホームズはスレンダー美女、胸はない。
 原作での兄マイクロフトは太っている。こちらのミシェール、愛称マイキーは、顔は妹と似ているが「豊かなバスト」が違う。
 周知のようにホームズは女嫌い設定で、シャーリは異性同性両方に無縁。
 マイクロフトは、やはり変人で非社交的な男で、カタブツっぽいがーーなんとマイキーは日替わりで愛人を持っている。奔放なバイセクシャルである。
 (掲載誌は「ハヤカワミステリ」だったならば、男女両方の読者がいるだろう。でもこの部分は単行本書き下ろしだった?挿絵は少女マンガふう)
 なんて小気味よい変更だろうか。


 ここで『ユリア・カエサル』にもどる。
 上記のような例と比べて、原型がやせ形なのに「巨乳」、「女好き」男を、無邪気なレベルの女好き少女(%)で男には免疫なし、にした設定は、じつに、男側の願望がもろに出まくっていると言えるだろう。
 もちろん、男が読者なのだから男の願望で悪いわけではない。少女マンガやレディコミが女の願望を映すように。
 しかし、モヤモヤ感を表明することはしてよかろう。

 だいたい、本当は19世紀にできたピッツァ・マルゲリータが存在していたり、10代の女の子が元老院議員になっていたりするくらい都合のいい世界観なのだ、そういう変更が許されるならば、現代並に避妊法があったり、女が男遊びしていてもOKなローマでもかまわないだろうに。
 史実よりもカエサルの年齢が20も引き下げられていて、カティリーナ事件の時に17歳(セイヤと合わせる都合か)。せめて27にしておこう。人オットとも、時にはその妻ともおおいに浮名を流しまくる、特別美女ではないが教養高く洗練されてセクシーなユリア・カエサル。姪に子供が生まれて(男女どちらでもいいけど)「かわいい~~!この子私にくれ!」

 カエサル暗殺はないまま姪の子にあとは引き継がれるという展開ではいかんのかね。
 クレオパトラは登場しても、カエサリオンが生じないし、エジプトは友邦国として戦争もなく進んでいった、そういうパラレルだったら。

 流血を避ける、能天気な展開のパラレル歴史、そういうノリじたいは嫌いじゃない。
 積極果敢だけど男にウブな女、そういうキャラじたいも決して私は嫌いじゃない、もし女向けジャンルで出てきたら素直に支持するだろうが。

 2,3巻くらいで終わらせてくれたら確実につきあう気はある。『ユリア・カエサル』、さてどうなることやら。

%を付記。例4にしてもいい。
名香智子の一連の作品に登場するヴィスタリア。大貴族で大金持ちの美女、夫と息子(のちに娘一人)を持ち、気ままな生活。きれいな女の子が大好きとはいっても、囲まれていて楽しいというくらいで個人個人と深い関係にあるわけでもなさそうである。基本的には男は近づけない。ーーこちらの設定はぜんぜんムカつかない。作者も読者も女であるし、元ネタが女好き男だったなんてわけではまったくないし。
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郵便局で柴犬

2017-05-24 16:49:08 | 雑記
「柴犬まる」
 めったに行かない郵便局に行ったら、柴犬デザインのグッズがあったので、ダブルクリアファイルを買った。ちょっと嬉しい。
 うさこちゃんだのピーター・ラビットだの売っていたこともあるし、郵便局も中々あなどれない。
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『ユリア・カエサルの決断』

2017-05-20 16:10:06 | ローマ
「ユリア・カエサルの決断1」

 書店に貼り出してある文庫本発売リストの4月ぶんに、「オーバーラップ文庫」で『ユリア・カエサルの決断 1 ガリア戦記』というタイトルが載っていたのでメモはしていた。そして買ってみた。

 古代ローマが好き、特にカエサルに傾倒している男子高校生の糸原聖也は、「古代ローマ展」を見に来た際、女神ディアナにカエサルのサポートを命じられて飛ばされる。その先は、巨乳美少女で借金王で女好きのユリア・カエサルの存在する世界だった。

 ・・・なんでスレンダー美(少)女アウグストゥスのいる世界じゃないんだよっ!?
というのが私の第一感想なんだけどね。ま、そういう世界は私の妄想の中にしっかりあるんだけどね。または、彼の美しい隠し子たちが幸せに暮らして美しい子孫を増殖させていく世界もあるんだけどね。(嫡出の子孫たちがたいてい不幸になっているからせめてそういう妄想世界は幸せであってもらいたいものでね)

 まあそれはおいといて。

 史実カエサルの構成要素のハゲの女たらしで借金王、これらのうち、「ハゲ」という弱点(?)が、当時の感覚ではマイナスとされた「巨乳」におきかわっているあたり苦笑ものである。(胸が大きいのは蛮族のようだとされたーーこの場合、エロいというよりも生命力や逞しさにつながっていそうである)
 「女好き」がそのまんまなのは、女が男遊びしまくったら妊娠の危険があって不都合だとか、男読者の目に楽しくないからだろうか。なにしろ、クラッススやキケロまで女の子なのだ。小カトーは男だけど。「イケメンふう」。
 この世界でカエサルの暗殺は不可避ではないことになっているので、どういうふうに辻褄をこの先合わせていくのかという関心は沸く。なにしろ、史実では死んでいるカティリーナもウェルキンゲトリクスも(これらも女)死んでないくらいなので、史実よりも相当にユルく進めてよさそうである。
 クレオパトラが出てきてもカエサリオンは生じないし。展開が気楽そうである。

 ここから先はネタバレの嫌な人はとばしましょう







 セイヤは、大ざっぱに言うとアウグストゥスの生まれ変わりみたいなもので、セイヤがカエサルからこの称号を受けることになる。だから、カティリーナ事件のときのパパの遅刻のエピはない。

 そしてセイヤは挿絵からして特別美形にも見えない。
 読者対象が男なので、男主人公をキラキラ美少年にしてしまうと自己仮託しにくいという理由なのだろうか。
 短めに終わらせてくれ、しばらくはつきあうから。

 ところで、『テルマエ・ロマエ』にヒントを得たような設定だと思った(非難ではない)のは私だけではないはずだ、出てくる女神がディアナであるあたり特に。カエサルを守護しようというならばヴェヌスのほうが自然だろ。
コメント (4)
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ホームズもの2本

2017-05-08 12:32:02 | 
『わが愛しのワトスン』 マーガレット・P・ブリッジズ 文芸春秋 1992 
  ホームズが女だった設定。外見も中身も女らしくないルーシーは、14才のある日、父の不貞がもとで母が事故死するのを目撃して家出した。しばらく兄の学生寮に匿われていたが、やがて露見して追い出される。紆余曲折を経て、誰もが知る物語につながっていく。
 すでに若くはないルーシーを、再度妻を亡くしたワトスンが訪れてまた同居が始まるが、そこへ依頼人として現れた美貌の女優コンスタンスはあのモリアーティの娘だった。

 事情あって女装(?)で衣装係としてコンスタンスに接するうちにそれなりの共感を覚えてしまうあたり、『スケバン刑事』のサキと麗巳を連想した。


 なお、ホームズの娘設定は、『冬のさなかに』byアビイ・ペン・ベイカー(シリーズだけどこれしか邦訳されていない)がある。短編ではアンソロジー『シャーロック・ホームズの災難』に収録された『カンタベリー寺院の殺人』がある。ホームズの娘とワトスンの娘がコンビ。前者は名前はシャーリーで、この話では職業不明。後者は記者で、名前は・・・なんだったっけ。ジョンに近いことは覚えているけど。高殿円版は「ジョー」だがそれとは違う。ジョーンとかジェーンとか。これのもう一つある『女王蜂の事件』という作品も訳されてもらいたいものである。


『オスカー・ワイルドとキャンドルライト殺人事件』 ジャイルズ・ブランドレス 国書刊行会 2010
 ホームズ・パスティーシュの中には、作者コナン・ドイルを登場させるものも含まれる。これは同時代人であるワイルドとドイルが共演して、やはり実在の作家ロバート・シェラードが語り手になるシリーズ。のっけから、ワイルドが付き合いのあった美少年の他殺体を思いがけず発見してしまうという怪しげな開幕。いくらでもあやしくできそうな時代とキャラ設定、国書刊行会ならばぴったりだろう。

 マンガ化ならば由貴香織里のイメージ。では上記の『わが愛しの~』はよしながふみと言ってみよう、安直な連想だけど。

 マンガといえば来月は岩崎陽子版のルパンがコミックスになる。ホームズもルパンも両方描いたといえばJETの名も挙がる。思えばこの人の描いたホームズは、原典掲載当時のシドニー・パジェットの絵にけっこう近いのだな。 

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連休も平常心

2017-05-01 11:55:14 | 雑記
 大型連休と言っても、それらしいことをするとは限らない。

 きのうは地元の集団検診に行ってバリウムを飲んでぐるぐるした。バリウムだの胃カメラだので『ペパミント・スパイ』を思い出す。『謎のマーゲンバー編』および『地獄の子犬編』はコミックス未収録のままである。『動物のお医者さん』はあんなに何種類ものバージョンで出たのに、これ以外の花ゆめ作品は文庫化されないことが腹立たしい。
 (胃の検査と血液検査は、食事ができないので極力朝早く済ませたいものだけど思い通りにできるものではない)

 明日は連休の谷間で授業はある。

 GWはサーティーワンがダブル31%引きサービスをするので久々に買ってこよう。

 大がかりな外出をするより、読みたい本を片づけるほうが楽しい。
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